2016再開祭 | 黄楊・拾柒

 

 

一体何人いるのか、入密法の耳を持たぬ俺には判らん。
判るのは別口の馬鹿共が大挙して押し掛けて来た事だ。

同じ気配に気付いたタウンが、楽し気に笑って頭を下げた。
「大護軍、夕餉が足りぬようです。もう少し多く拵えて来ても宜しいですか」
「追い返す」
「あーーっ、ダメ!」

叫び声と共に、背後の厨への扉が音高く開く。
厨内にも表の騒々しさが届いたらしい。
隠れていたのも忘れたか、あなたは其処から俺を睨みつけた。

「みんな来てくれたんでしょ?そうでしょ?チュンソク隊長なんて途中まであなたから直接話を聞いてるのよ?
心配して当然、聞く権利もあるわ。どうなったのかちゃんと話してあげて」
「そんな必要は」
「言われたじゃない!家族には隠さずに話さなきゃダメだって!」

あなたに隠すなと言われただけだ。そう反論しようとした途端。
「て、大護軍!!」

径の敷石の上を飛ぶような足音と共に、薬木の葉影から最初に現れたのはテマンだった。
それでも屋根を伝わらずに庭を来た。
足は誰より早い。こいつが本気で走れば迂達赤とはいえ、付いて行くのは至難の業だ。
「お俺、俺は、大護軍の兵ですよね!」
「・・・如何した」
「大護軍が行くところならどこでも、ついてっていいですよね!」

突然の来訪の真意は判らんが、薄明りの中で言い募るテマンの必死の形相は見て取れる。
「ふざけるなよ、テマナ!!」
問いに答える間もなく庭に続く入り乱れた足音の中、怒鳴り声が葉影の向うから庭へ響く。
遅れてその葉陰から、チョモとトクマンがほぼ同時に駆け込んだ。

チョモは息を切らし、頭を下げた後は声も出せず半身を折り、崩れそうな両膝を掌で押さえる。
トクマンの方がまだ少し余裕があるのだろう。
結い上げた髷は乱れ、額へと幾筋もの髪を落とし、そこにびっしり浮かんだ汗を乱暴に拭うと
「お、お前だけ何言ってるんだ!いっつも好き勝手に!!
お前だけかよ、お前だけが大護軍の兵か!俺達全員、大護軍の兵だろうが!!」

叫ぶトクマンの後から、漸く追い付いた迂達赤の奴らがばらばらと現れる。
「大護軍!」
「大護軍、御邸を引き払うなんて」
「どういう事なんですか、大護軍」
「本当なんですか」
「どこに行くんですか」
「行かないで下さい!」
「行くなら俺達も!!」
口々に抗議の声を上げる奴らの最後尾。
強張った顔のチュンソクが敷石を鳴らし大股に庭へ入って来ると、真直ぐ縁側の俺に一礼した。

「申し訳ありません、大護軍」
「何の騒ぎだ」
「大護軍が御邸を引き払う積りだと、こいつらに伝えました」
「おい」
「非番の組代表で止めに来ました。他の奴らは兵舎で待っています」
「チュンソク」
「御邸を引き払う事については、一切口止めされていません。何かあれば来いと言われました」
「言わなくとも考えろ!」
「考えた上での事です。気を配り士気が落ちんようにと命を受けたので、考えた末で最善の道を」
「この騒ぎがか」
「俺一人では無理そうなので、数に物を言わせました」

鬱陶しい。本当に、肚の底から鬱陶しい。
たかが屋移りで血相を変えて駈けこんで来るこいつら全員。
ついて来るなと怒鳴っても動じもせずに笑い飛ばす夫婦者。
労わるような視線で俺とそいつらを見詰める血縁の年寄り。
御自身の御名誉まで擲って尚宮如きと芝居を打つ高貴の方。
天の高みにおわしながら一介の民を義兄と呼ばれる天上人。
そして誰より嬉し気な瞳で、此処に集う全員を見守る天女。

その誰一人、正気とは到底思えん。
「・・・飯は」
「は」
「喰ったのか」
「い、え、夕の歩哨の交替と共に、こいつらに伝えたので」
「全員喰わずに走って来たのか」
「はい」

掌で縁側の面を思い切り叩いて立ち上がる。
場の全員がその大きな音と、仁王立ちの俺の姿に息を呑む。
「誰が言った!」
手近にいたテマンの頭を、先ず叩く。
「飯も喰わずに来いなど!」

次に横に並んだトクマンの胸を突き
「非番の時は何をしろと教えた」

叩く前にその目を見据えると、チョモは閊えながら呟いた。
「えぇ・・・あの、鍛錬するか、体を休めろと・・・」
「判っているなら何故来た!」
「でも!」
口答えの前にそのままチョモの腿を蹴る。
奴はその場で膝を落とし、蹴られた腿を押さえた。

「大護軍」
四人目に拳を飛ばそうとした処で、見兼ねたらしきチュンソクが俺の前に割って入った。
「元はといえば、こいつらに話した俺の」
「そうだな」

残りの頭数を数えれば非番の甲組頭と副組頭を筆頭に、精鋭がざっと二十人。
どうやらいざとなれば力づくで止める覚悟の来訪だったらしい。
「残り二十発、お前が受けるか」
チュンソクは硬い顔で、しかし目は逸らさずに頷いた。
「・・・はい」
「一発で済ませる」

軽く拳を握り込み、肩の高さで肘を引く。
力まず一歩踏み出すと真直ぐに伸ばし、肘が脇を抜けた処で速さを上げ拳に体重を乗せたのと、眸の前に影が飛び込んだのは同時だった。

夜の庭、飛び込んだ亜麻色の髪が大きく広がりゆっくり落ちる。

その髪が落ちた向う、愕然とした表情のチュンソクと目が合う。

次の瞬間俺は泥中に跪き、棒立ちのチュンソクは大声で叫んだ。

「医仙!!」

 

 

 

 

皆さまのぽちっとが励みです。
お楽しみ頂けたときは、押して頂けたら嬉しいです。

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村
今日もクリックありがとうございます。

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ

5 件のコメント

  • SECRET: 0
    PASS:
    ヨン、家族がいっぱい…
    いろいろな形の家族が、大勢…
    み~~んな、ヨンのことが だ~~い好きなひとたち。
    叩いても、みんなついてくるよ。
    あの…
    最後は、ウンス、叩かれちゃったの?
    チュンソクさんを庇おうとして、ヨンの1発、受けちゃったの?
    エ~~~!

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です