2016再開祭 | 花簪・玖

 

 

居場所を確かめる為に開いた扉内、溢れていた陽射しはない。
昼の明るさなど忘れたように、部屋は静かな闇が満ちている。

聞き入れもせず懲りもせず、また勝手に出掛けているわけだ。
暗い無人の部屋内を最後に見回し、音を立てずに扉を閉める。

閉める刹那の花簪は、扉の風でまた揺れた。

 

*****

 

「鍛錬から戻った時は、確かに部屋にいました」
「ああ」

テマンは俺の半歩後で、素早く目で周囲の廊下を見渡している。
あの方が廊下の隅の暗がりに隠れてでもいるのではと探すように。
「大護軍が少し、遅くなるって伝えて。飯の時に声を掛けますって、そう言ったら、うんって」
「判った。一先ず騒ぎにはするな」

廊下を戻りつつ半歩後脇のテマンとトクマンに告げると、心得ている奴らは無言で頷いた。
「この暗さで遠くには行けん。庭だとしても兵舎の灯の届く処に居る。探せ」
「はい

廊下に点々と切られた窓越しに表を確かめる。
月も星もない真暗い闇が、夜空と同じ色で庭を覆っている。
空と庭の区別もつかぬ、開京の夜とは違うその濃く重い色。

足許の覚束ないあの方が、その中で庭を歩けるとは思えん。
縦しんば松明でも手に入れるなら誰か兵の力を借りている。
そんな事をすれば俺が隊長らと話している間に報せが届く。

「俺は兵舎内を探す」
「判りました」
テマンとトクマンはそうだけ言うと、夜の庭へ飛び出して行く。
あの方が行きそうな処。医局、食堂、それとも。

昼にも飛び込んだ医局の扉は、今は静かに閉ざされている。
それを叩くと内から出て来た医官が、廊下の暗がりに俺を見つけ目を見開いた。
「大護軍様」
「医仙はいるか」
「い、いえ、いらっしゃいませんが・・・」

その声に頷き
「来たら此処で待たせてくれ」
結局そう伝えるしかない。迷惑だと判っていても。
「て、大護軍様」

踵を返し走り去ろうとした背に、医官が慌てたように声を掛ける。
振り向き眸で問う俺に困惑したような声で
「医仙様は、とても心配を」

この一刻を争う今、一体何だ。
その顔を油灯の許に確かめ、今日の昼に部屋隅に固まっていた医官の一人だったと朧げに思い出す。
「大護軍様だけでなく、私どもの体の事まで。ただお話が難し過ぎて私たちがお付き合いできず、宜しければ改めてお時間を頂き、お話を伺いたいと・・・」
「そうか」

それにしても医官の邪魔をした事には変わりない。
再び走り出そうとした俺を、医官はしつこく制止する。
「あ、あの、もう一つ」

滅多に顔を出さぬ俺だ。
共に出征を繰り返した兵ならともかく、医官では距離を測り兼ね遠慮がちなのは判る。
判るが、今はそんな時ではない。
その心裡が顔に出たのだろう、医官は尚更気圧されたよう遠慮がちに言った。
「へ、兵とゆっくり話したい、と。何処で話せるか、部屋を使いたいとおっしゃって・・・鍛錬中ですとお伝えしたら、夜で良いからと」
「話」
「はい。でしたら食堂でとお伝えしたのですが、もう少し静かな処が良いとご所望で、でしたら兵舎の集会室ではとお伝えしたのですが」
「集会室」
「はい。普段は小会議などに。もしかしたら、そちらに」

迂達赤の兵舎より兵の頭数も多く、敷地も広い。
俺がいた頃には軍議は専ら軍議室で行われていた。
集会室と言われてもすぐに思い当たる場所はない。
足を止めた俺を見兼ねたか、医官は恐る恐る
「食堂の斜向かいの部屋なのですが」
そう言って、暗い廊下の先を指す。
頷いて走り出した俺を此度は引き止める事はなく、医官は頭を下げてようやく解放してくれた。

 

 

 

 

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