2016再開祭 | 夏白菊・玖

 

 

ベッドルームに駆けこんで握った救急セット入りのポジャギ。それを無言で奪って、あなたは自分の背中に背負う。
庭を駆け出て門でコムさんと一緒に待ってたチュホンに二人乗りする。
まっすぐに碧瀾渡に行くと思ったのに、あなたは皇宮へチュホンを向けた。

慣れた道、夜だとしても飛ばし過ぎる。開京の町中で私を乗せて、こんなに早く走らせたことは今まで一度もない。
いつもならチュホンを預ける厩舎の前を素通りすると、あなたは迂達赤の大門の真ん前まで手綱を引かなかった。

大門前でようやく鞍から飛び降りると、敬礼する若い迂達赤の当番が門に手をかける前に蹴り飛ばすみたいに門を開いて
「チュンソク!!」
大声を上げて門の中へ進む。そこにいるみんなが驚いた顔で寄って来て、あっという間に人垣が出来る。
あなたは鬱陶しそうな険しい顔で、兵舎の入口へ突き進む。

「大護軍!」
「チュンソクを呼べ!」
「呼んで来ます!!」
夜の兵舎の庭に響き渡る尋常じゃないあなたの怒鳴り声に、迂達赤中が大騒ぎになる。
「大護軍!!」

待つまでもなく騒ぎに気付いたチュンソク隊長が、兵舎の入口から転がるみたいに飛び出して来た。
夜とはいえ迂達赤の兵舎は、あちこちに置かれた焚き火のおかげで明るい。
あなたの顔や首にまだ残る血痕が見えないわけがない。
なのにチュンソク隊長は何も聞かず、黙って頭を下げた。

「チホから報せを受けました。明日の用意をし」
「今すぐだ。非番の奴は全員碧瀾渡へ向かえ。すぐに移す」
チュンソク隊長の声が終わらないうちに言って、そして後ろの私を黒い瞳が振り返る。

「医仙に馬を一頭用意しろ」
「は、はい!!」
そこにいたチョモさんが慌てて頷くと、一目散に駆けて行く。
「すぐに出ろ。ムソンの宅の場所は」
「チホから聞いています。大護軍、一体」
それには一切答えず、あなたは懐から小さな竹筒を取り出すとチュンソク隊長に手渡した。
「しまって来い。絶対に失くすな」

何なのか私には分からない、その竹筒を受け取ったチュンソク隊長の顔がこわばった。
黙って頷くと兵舎の入口に飛び込んで、今度は兵舎の入口から聞こえて来るチュンソク隊長の怒鳴り声。

そしてあっという間に兵舎の中から、10人くらいの迂達赤のみんなと駈け戻って来る。
その面々を確かめたあなたが一言だけ言った。
「行くぞ」
「は!」

あなたはそのままもと来た大門へ、私の手を引いて真っすぐ戻る。
その後を何も言わずに、チュンソク隊長と迂達赤のみんなが続く。
聞いちゃいけないのは分かる。考えるのも今はダメ。
あなたが背負ってくれてる包み。必要な器具は全部中に入ってる。

あなたの顔や首に付着した血液量。ダメ。傷を確認してから。
ここから碧瀾渡までどれくらい?月もない夜、私に走れる?
ううん、私は出来る。きっと出来る。ウンス、考えちゃダメ。

そして私の手を握っているあなたにだけは、きっとばれてる。
その手がさっきから、止められないくらい震えてる。
そしてあなたの手を握ってる私だけが、こうして知っている。
その大きな手が、今までないくらい冷たくなってる。

どんな思いで、怪我したテマンを1人で置いて来たんだろう。
心配で走り出したいのは、震えるくらい怖いのは、あなたも私も同じはず。

大丈夫よ。私たちの弟はきっととっても強い。
あなたを目標に、あなたを守る為に頑張ってくれる。

山で会ったんです、逃げて、ひっかいて、噛みついて、疲れたら魚を焼いてくれました。

そう教えてくれた時、テマンはとっても嬉しそうだったもの。

だから大丈夫。どんなケガでも、私が手術してみせる。
私は華侘の弟子なんでしょ?天界の医術を持つ、高麗の医仙でしょ?
だから信じて。どんな手術でも、私が成功してみせる。

ぎゅっと力をこめて握ると視線は前に向けたまま、あなたはその手を強く握り返してくれた。
誰もそれ以上は何も言わずに、厩舎でそれぞれの馬に乗る迂達赤のみんなとそこで別れる。

「向こうに手裏房がいる。荷車でも何でも、必要なら声を掛けろ」
「大護軍は」
その声にチュンソク隊長から目を逸らして、あなたはごまかすように呟いた。
「別件がある」
「・・・判りました」
チュンソク隊長はそれ以上の質問はせずに、最後に頭を深く下げて用意していた馬に飛び乗った。
「行くぞ!遅れるな!」
「はい!!」

チュンソク隊長と他のみんなが走り出して、すぐにあなたはチュホンに飛び乗る。
私がチョモさんが引いてくれた馬に乗ったのを確かめて、
「帰りは少し遅れる」
言い残したあなたにチョモさんが頷く。
「分かりました。お気をつけて、大護軍」

その声を聞いて、あなたが私を確かめる。
鞍の上でしっかり頷き返した私を見ると、チュホンの脇腹にあなたの踵が入る。
同じタイミングで私も馬の脇腹に踵を当てる。
それを合図に二頭の馬は、真っ暗な夜を走り出す。

 

 

 

 

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