「・・・異様に似合うわね。韓服がこんなに似合うと思わなかった」
部屋に集う女達のうち、年嵩の女が俺の立ち姿に満足げに笑む。
今にして思えばあのあんなという男に顔や髪を弄られていた頃は余程ましだった。
撮影に出向く度に触れる、避ける事の叶わぬ手。
それが終わった夕刻にすら、こうして呼び出しを受けるなど。
得体の知れぬ女の手。
この髪に、顔に、時に諸肌脱いだこの肩にすら無遠慮に伸ばされる女の手。
振り払うなどは許されん。何故ならあの男はせぬからだ。
あの男のせぬ事を、此処まで来て俺がする訳にはいかん。
唇を噛み締め息を整え、平然とした面で視線を外すのみ。
俺に異様な衣を着せ掛け、その女たちが色めき立つ。
高麗の衣とも胡服とも、しかし天界の衣とも違う、見た事も無い衣。
「両班の衣装がこんなに似合うなんて意外ですね、ミノさん」
「やんばん」
「カッ姿もさすが。ヘアどうしましょうか。サントゥ結ってマンゴンですよね、やっぱり」
何のまじないか、その耳障りな高い声の中身は皆目見当もつかん。
判るのは弄り廻すその手を引けと、肚底から怒鳴りたい事だけだ。
「じゃあひとまず衣装合わせはこれで。撮影までにサイズ手直ししておきますね。
ミノさん一層締まったから、ちょっと緩くなっちゃって」
「・・・ああ。気を付ける、よ」
「いいんですよ、今の方がもっと似合いますから。仕上がり楽しみにしてて下さいね」
「お邪魔しましたー」
「失礼しまーす!」
「お疲れさまでした」
女たちは口々に言いつつ手に手に色とりどりの衣を抱え、頭を下げ部屋を出て行く。
その行列が漸く途切れ、部屋に静けさが戻ったところで隅に控えたこの方と、ちーふまねーじゃーが立ち上がる。
「本当にお疲れ様です」
「・・・痩せ過ぎか」
「え?」
男は瞬時何を問われたのかというように目を剥き、そして苦笑いで首を振った。
「奴もだいぶ絞ってもらいましたから。ゆっくり休んで浮腫みも取れてるし、いいタイミングだと思います。
まああいつの場合、絞ってもらったプラス心労でやつれたって事もあるけど」
「心労」
「ヨンさん、もう兵役は終わりましたか?」
ちーふまねーじゃーの問いの意味が判らず、曖昧に首を振る。
「俺は兵だ。死ぬまで」
「軍人だったんですか?!じゃ、じゃあこんな長く外にいたりしたら、まずいんじゃ?!」
「ああ・・・」
この方が男の後ろ、居ても立ってもいられぬとばかりに首を激しく左右に振る。
正直には言うなという事か。
「・・・暇を取っている」
「長期休暇だったんですか!心配させないで下さいよー!今回の事でこれ以上迷惑かけたら、冗談抜きで俺の首も危ないですよ」
「奴の心労と兵役はどう関わりがある」
男は小さく息を吐くと、先刻まで賑やかしかった部屋の隅に誂えた長椅子へ体を投げ出すように腰を下ろした。
「韓国の20代後半の芸能人で、怖がらない売れっ子なんていません」
「怖いのか」
「人気があればあるほど、名前が売れてれば売れてるほど恐いはずです。
自分がいない2年間に何があるのか、先輩たちの例を嫌って程見てるから」
「何が起きる」
その長椅子の前に歩き、向かいの椅子へ腰を下ろす。
男はちらりと俺の目を見て、困ったようふいと逸らした。
「ヨンさん、もしかして外国帰りとか?今回の奴の公益入隊、結構なニュースになりましたよ。あいつの知名度もそこまでかなあ」
「にゅーすは一切見ん」
「え?」
「すまほもぱそこんも触らん」
「そうなんですか?どうやって生きてんですか、この情報社会を」
こうしてだと怒鳴りたい昂りを抑え、眸で先を促す。
男はふと小さく笑うと、諦めたよう肩を竦めて先を続ける。
「はたちの時に大事故やってるんです。骨が砕けて半年入院して、決まってたドラマも降板して。
その時に入隊の健康診断があって、脚にボルト入ってるし現役入隊は無理だって判定は出てたんです。
ただ今の時期にそれを発表したら、兵役逃れなんじゃないかとか、芸能人だから特別扱いだとか。
叩ける材料があれば何でも叩きたい奴ってのが、必ずいるんですよ。
現役入隊したくなかったわけじゃない。許されなかったのが本当のところだ。それなのに」
「誤解されたんですね」
話の流れを掴み損ねた俺を導くようこの方が言って、この横へ並んで腰掛けた。
「そうです。タイミングも計って、決定してすぐに同じ事故に遭った2人で一斉に発表したんですけど。
悔しかったなあ。今も夢に見るくらい。
奴が責められるのも、事故を思い出すのも、後悔するのも本当に悔しかったですよ」
「そうだったんですか。だから社長さんは、あれほど心配してた」
「社長も俺も、社内のスタッフも。全員です。みんな奴の事を心配してるし、2年無事に乗り越えてほしいと思ってる。
ただでさえ留守中を狙ったスキャンダルは本当に多いから」
「そうだったの・・・」
未だに流れを掴み切れん。兵はなりたい奴がなれば良い。
守りたい者がある奴、譲れぬものがある奴だけで良い。
貴族の家名を笠に迂達赤に入隊し、権威を振り翳す者の中、遣える奴など一度たりとも遭った事が無い。
鍛錬の厳しさに半泣きで飛び出すか、地面に這い蹲って逃げ出すか。
さもなくば愚かな親が迂達赤へ乗り込んで来て、此方が尻を蹴って追い出すかが関の山だ。
ミンホ、あ奴は兵ではない。兵として守りたい者があるのでは無い。
あ奴の居場所は此処にある。此処で王の戻りを待っている。
そうだ。奴は兵ではない。あれは王だ。王の器だ。
あの時白い部屋で藍錆の上衣の男が俺に言い放った通り。
唯一無二。だからこそ此処にいる意味がある。
「案ずるな」
そう言って腰を上げた俺に、男は腰掛けたまま目を合わせた。
龍は天地を統べる。如何に長く隠れようと決して死なぬ。
必ず再び天を翔る。何故なら其処こそ龍の統べる処だからだ。
「奴は死なん。決してな」
王様のみが召される龍袍、其処に繍られた龍の姿。
奴も同じ袍を纏っている。己が知ろうが知るまいが。
叡智と幸福、そして長寿の象徴。
天の叡智を統べ、地の国の幸福を統べ、そして民の長寿を統べる。
それこそが王の担うべき責。
そして地を駆ける虎は、その龍を守る為にいる。
高麗であろうと、天界であろうと。

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ヨンは、さらんさんがすごく頑張って下さってるので安心です。
ミンホさんは、ミンホさん自身が頑張らないといけないから、すごく応援してますp(^^)q
頑張ってほしいp(^^)q
いっぱい、祈ってます。
素敵なお話で、今日一日の力になります。
ありがとーございます(^^)
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影武者終了に備えて…
ミノの体型と 合わせなきゃだし
受け答えも だいぶ慣れてきた(¯∇¯٥)
王様も 大変よね
誤解されるし、利用されるし
自分 護るの… 大変…
でも 大丈夫か
ヨンのお墨付きもらったし
( ´罒`*)✧