2016 再開祭 | 桃李成蹊・1

 

 

【 桃李成蹊 】

 

 

「どうするの?!」

白を基調に統一したシンプルな家具の並ぶベッドルーム。

大きな窓から入り込む夏の終わりの陽射しが、白いベッドカバーでレフ版みたいに反射する。

インテリアデザイナーが好み通りに作ってくれた部屋のベッドの上。
逃げようもない社長の視線に掴まって俯く。

「判ってるわよね?もうすぐ撮影が始まるのよ。この時期、絶対に穴を開ける訳には行かないの。海外ロケもあるんだから」
苛立った声に頷いて、アイディアの浮かびようもない頭を捻る。
「社長、今更言っても」

チーフマネが怒る社長を宥めるように、慌ててベッドの上の俺と枕元に立つ社長の間に割って入る。
「お前だって分かってるよな?こんな馬鹿な事、二度としないよな?」
そのチーフマネを押しのけるように、ベッドの俺に向けて社長が声を張る。

「確かに言った。体を作れとね。次のドラマまで時間もあったし。だからってあんたらしくないわ。
撮影開始まで時間はあっても、勝手に遊ばせるために自由にさせたわけじゃないのよ。
海外ロケ。広報大使。ドラマの撮影後のイベント。どうするの?オフなんて取る時間ないのよ?!
その怪我で撮影を遅らせるなんて出来ないの、理由はあんたが一番判ってるわよね?
入隊が迫ってるのよ。逆算して全てのスケジュールを組んでるの。ましてや今の国際情勢よ。
どれだけあっちで人気があっても、気を抜くなんてできないの。今が入隊前の一番大事な時期なのに」

苦々しい顔で社長はベッドの上の俺を睨む。

白いベッド、白いシーツ、白いカバー、そしてカバーの上に出ている白いギブスを巻いた俺の腕。

「撮影中の事故なら言い訳も保険もいくらでも利く。だけど撮影前の骨折は自己責任でしょ?アクションだってあるのよ。
いくらバストショットメインって言ったって、他の部分を全部スタントで撮るわけには行かないの。
10年やってればそれくらい判るでしょ?」
「社長、社長落ち着いて。相手は弟でしょ」

落ち着かせるために社長の肩に掛けようとしたチーフマネの手は、思い切り振り払われる。

「弟だからなおさら悲しいのよ。皆がどんなに苦労してこの会社を設立したか知ってるでしょ?
会社全員があんた専門のプロジェクトみたいなものなのよ?全員に対する責任がある。私にもあんたにも」
「判ってるよ」
「それならなんでもっと気を付けないの?」
「社長、だから、もう折っちゃったものは」

そうだ、折れたものは仕方ない。全治6週間。腕の骨折だ。

問題は2週間後に迫った海外ロケ。そこで撮影予定のアクション。
撮影チーム。海外ロケの手配。勿論相手の先輩女優のスケジュール。

動かせない。何もかも変えられない。言う通りだ。10年も俳優をしてれば判る。
そしてその悪評1つが、時と場合によっては致命的な打撃になる事も。

「だいたい腕を折る前だって、あちこち出歩いてたでしょ?それも女性連れで。
ペンカフェで騒ぎになってたの知ってる?私だって周りから、どれだけ突っ込まれたか。
弟さんは自由なんですねーって、そりゃあ嫌味ったらしく」
「それはないですよ。こいつが出歩く時には、誰か必ず側について行ってる。
女性と2人っきりでファンの目に付くようなところには絶対」
「じゃあ誰なの?目撃した人全員が声を揃えて、あんただって言ってるのに」
「・・・俺じゃないよ、それだけは絶対」

ほとほと困り果てた俺は起きてる力も失って、力無くベッドの上の白い枕へボスンと音を立てて倒れ込んだ。

 

*****

 

「どうするの?!」

夏の終わりの開けた窓、南風を孕んだ窓の薄紗が膨らんで揺れる。

その向こう、窓外のあの高いびるの隙間に僅かに見え隠れする緑。

この世界はあまりに木々が少ない。山が少ない。
空は濁り雲は煙り木葉の緑は褪せ、胸がすく夏の鮮やかさがない。

それでもこの方と共に居られれば何処であろうと構わない。

なのに何故今日のこの方はこんなに苛立っているのだろう。

事務所を兼ねた住いの長椅子の上。
苛立たし気に叫ぶこの方を落ち着かせようと、小さな体に寄り添う。

小さな手を握り、細い肩に腕を回し胸へと引き寄せる。
「どうしたらいいの?帰り方が分かんないなんて。いつになったら奉恩寺の天門が開くの?」

ようやく少し落ち着きを取り戻した声で、この方は頬を胸に寄せる。

「何れ開きます」
「そりゃそうだろうけど、じゃあいつ開くの?!」
「太陽の黒点とやらを、こんぴゅーたで」
「もう調べたじゃない、何度も!!まさかあの時私が消えてから4年も経ってるなんて思わなかった。
おまけに2016年がここ100年で一番、太陽活動が弱い年だなんて!」
「・・・イムジャ」
「毎日見てるのよ、NOAAの黒点予測値。それで見る限り、F10.7で一番予測値が高いのが今年の10月。
それを過ぎたらまた減ってく。つまり10月、あと6週間から10週間が勝負だと思うの」

何を言っているのかは皆目見当もつかん。 唯一つ分かった事は。
「十月に開く可能性が高いという事ですか」
「それが分かったら苦労しないんだってばーー!」

俺の余計な一言に、この方の癇癪玉がまた破裂する。
長椅子に掛ける俺の腕の中で身を捩るように手足をばたつかせる長い髪を撫で、
「一先ず役目が」

話を逸らそう、そして思い出させようと、敢えて穏やかに伝えた声。
この方は気付いたよう、腕に巻いた丸い盤に刻まれた文字を見る。
「・・・そうだった。送ってくわ、行かなきゃ」
「はい」

出掛け間際にこの方が、部屋の卓上に据えたでんわの赤い灯に気付き指先で押す。

「お疲れさまでーす!アンナでーす。今日のヨンさんの撮影、時間は予定通り14時30分から。
ドタキャンやーよ!じゃあ待ってるわー!」
能天気な声にこの方ははあ、と息を吐くと、もう一度赤の消えた小さな釦を指で押し直した。
そして同時に俺も吐く。

但し恐らく理由は違う。
あんなと名乗る奴の声を聞くたび溜息が出る。
何故男が女のように話すのかと。
手裏房の居並ぶ顔の中、思い出す奴の顔。
白い裳裾を翻し俺にしな垂れかかり、俺の杓文字の上に指から直接漬物を乗せるあの男にそっくりだ。

「ですって」
「・・・はい」
「うーん。今日も頑張ろうね、ヨンア!アジャアジャ!!」

いつまで経ってもその掛け声に慣れることは無い。
小さな拳を顔の両側に握るこの方に向け、俺は無理に笑んで見せた。

 

 

 

 

こんなものもアリなのでしょうか。。
天界にいるヨンとウンス。
そこにはヨンと瓜二つのミノ氏がいて・・・?!(あかさたなさま)

 

 

3 件のコメント

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    ウンスに叱られてるヨン。
    ヌナに怒られてるミノ。
    可哀想~と言いつつ
    笑いが込み上げてます(^^)v
    此度のお話。
    リアルミノを見ているようで
    とっても楽しそうです❤
    現代の人気者ミノ。
    高麗の人気者ヨン。
    ばったり会ったりするんでしょうか~(^^)

  • SECRET: 0
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    え!え!え!!!
    リアル。。。
    これからの展開、どうなるのでしょう。。
    楽しみ!楽しみ!楽しみーーーーー!
    さらんさんの超一流構成力‼︎
    期待しています‼︎*\(^o^)/*

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