2016 再開祭 | 木香薔薇・廿壱

 

 

「よくあるわ。私の世界でもあった」

この方はまだ笑いながら、この胸に鼻先を擦り付けた。
「整形・・・私がここに来る前にやってた手術はね、顔面をまるっと変えちゃう人もいるくらいなの。鼻」
春宵の風の中、そう言いながら細い指先がこの鼻先に伸ばされた。

「目、口角、歯並び、顔の輪郭。ヨンアは想像つかないでしょ」

おっしゃる順に辿る指先に顔中を弄ばれながら、俺は正直に頷いた。
「はい」
「それはねぇ、あなたがこんなに整った顔をしてるから」

この方は困ったような苦笑を浮かべ、その指先をようやく離す。
そして薄明りの中で次にこの指先を緩く握り締めた。

「私の世界は外見至上主義でね。どれだけ頭だけ良くてもダメ。
ちょっとお金持ちに生まれたら、100%って言っていいほど整形に頼ったわ。
罪悪感もない。美をお金で買ってどこが悪いの?って。
痛みに耐えるのは自分だし、顔を取り換えてもいいじゃない、って」

何故あの若造の懸想が、顔を取り換える話に結びつくのだ。
けれどこの膝に納まるこの方には、筋が通っておるらしい。
この指を緩く掴んだ手を揺らし
「そんな時、人間って思うのよ。夢を見るみたい。
この顔が理想の顔に変われば、今までの人生がリセットされる。
これからは楽しいことばっかり起きるって。勘違いって言ってもいいわ」

顔が変わる。生まれ変わる。死んでもおらぬのに。
話が判らずに首を傾げるばかりの俺に、宵闇に響くこの方の笑みを含んだ声が続く。

「今までの自分を生まれ変わらせてくれる私に、すごい期待を持つ患者もいたわ。恋愛感情じゃないのよ。
過去と未来の間に立ってる私に承認欲求を持ってるの。顔が変わっても、過去の自分を知って認めてて欲しいって。
生まれ変わる前の自分にこんなに優しいんだから、外見に左右されるわけないって」
「・・・よく判りません」

考えずに言う訳ではない。
この方の通った道なら、体験した傷や痛みなら、癒えておらぬなら抱き締めて、幾らでも聞く。
慰めて癒し、判り合って乗り越える。
ただ顔を変える、生まれ変わるの話の下りは本当に全く判らん。
諦めたくはないが、第一死んでもおらぬ者が生まれ変わるなど。

「うん、そうでしょうね」
匙を投げた格好の俺に、怒ると思ったこの方はあっさり言った。
「私にも分かんないもの」
「はい」

それなら医の門外漢の俺には判らずとも当然なのだろうか。
そう思うた途端、この方は
「だから多分、テギョンさんも同じなの」

ようやく本題かと、改めてこの方の顔を覗き込む。
その瞳で俺を見上げたまま
「認められた、と思ったのかな。それとも私がお節介を焼き過ぎたのかも。
どっちにしても恋じゃないわ。それはヨンアの考え過ぎ。昔っから言うんでしょ?亭主妬くほど女房もてもせず」
「・・・逆ですが」

女房妬くほど亭主もてもせず。しかし我が家は確かにそうだ。
そして困った事にそう思っているのは当の女房だけで、実際の処俺の妻には本当に悪い虫が付きやすい。
美しい薔薇や芍薬は、目を離せばあっという間に虫が集るように。

花に落ち度などない。ただ美しく咲いているだけで、責めを受ける謂れなど何一つない。
では虫が悪いのか。いや、虫はただ美しく咲く花に引きつけられて集るだけなのだろう。

そしてその中の一匹二匹踏み潰したところで、次から次へと虫が集るのは判っている。
それなら如何する。
美しく咲き誇る薔薇は手折らずそのまま、虫を寄せ付けぬ為には。

「イムジャ」
「うん、なぁに?」
「典医寺の薬園で、虫除けはどのように」

突拍子もない俺の問いは、先刻のこの方と良い勝負だ。
「・・・分かんない。今度、トギに聞いとくわね・・・?」

この方が要領を得ぬ顔で言うと、どうにか微笑んで見せた。
「だけどなあ」
まだ続く声に緊張を解き、固くしていた背筋を緩める俺に
「テギョンさん、貴族の息子さんでしょ。お家もあんな立派だし、本人もハン・・・美男子じゃない?
いい学校に進学も決まってるって言うし、承認欲求を持つタイプには思えない。
十分認められてるはずだし、何一つ不自由なんてなさそう」

敵を認めるのは悔しいが、其処は頷くしかない。
確かに外から見る限り、あの若い男はこの方の言う通り。
渋々頷く俺に、この方は膝の上で頻りに首を傾げる。

「だったらもっと心配よ、私に・・・っていうより、初めて会ってちょっと親切にされた女性に、もしもあなたが言う通り恋したんだったら。
だって私はれっきとした人妻よ?」
敵はそれを知らぬからではないかと言いたいのを堪え、俺は無言で頷くだけだ。
これで良い、これでこの方が二度とあの男に会わねば、熱病のような厄介な恋の病の火も立ち消える。

「やっぱりちょっと心配。それほど重病じゃないとしても、もう1度ちゃんと会って、面接してくるわ。
キム先生と一緒に行くから、ヨンアは心配しなくてだいじょうぶよ」
「イムジャ」

結局この返答では絶望的だ。
誰より何も判っておらぬのはこの方だと、俺は唸り声を上げた。

 

 

 

 

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3 件のコメント

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    やぱり ウンスはのれんのような人…
    ダメダコリャ(笑)
    でも 今度が最後
    テギョンさんも 
    ウンスが何者かわかってないもの
    きっちり わかってもらわないとね 
    キッパリ!
    人妻なの 御免遊ばせ~ (* ̄Oノ ̄*)

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    ウンスのお言葉。
    ごもっともですが……
    そんなに呑気に考えてたら
    もっと厄介な事になりますよ!
    ヨンも気苦労が絶えないよね(^_^;)
    私は人妻って早く言っちゃいましょう~~

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    ウンスの言いたいことヨンア言いたいこと何となく分かるかな(((((((・・;)若者の親は教えないのかしら…あの方は…と(^-^;)そうすれば少しは状況変わるかも?分からない…展開が分からない!Σ( ̄□ ̄;)

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