「これ、どう?」
陽射しの中で振り返り、俺に首を傾げてみせる。
振り返った拍子に揺れる髪から眸を逸らす。
指の先に摘まむのは、上衣の帯から垂らす絹織の飾りもの。
元から運んで来た品か。しかし濃青と橡色の絹紐を編んだそれは。
「男ものです」
お伝えすると、この方はうんと頷いた。
判っているなら何故確かめるのだろう。
眸で問う俺に首を振ると、飾り紐を店先の箱へと戻し
「鈍いのよね」
そうだけ吐き捨てて、すたすたと店を後にする。
*****
「ねえねえ、これは?」
次に止まった店先。
箱に並べた中から黒塗りの鞘の小刀を指し、箱を覗き込む俺を見上げる。
その淡い鳶色の瞳から眸を逸らす。
「あなたには長過ぎます。小刀なら」
刀の並んだ箱の中、この方の扱い易そうな長さの物を見繕い
「肘から手首迄と同じ長さ。それ以上長ければ即座に抜けません。差し上げた小刀は」
そう言って、隠れて横のこの方へ眸を投げる。
「・・・持ってるわよ。ちゃんと」
持っているなら、何故見繕うのだろう。
この方は武人でもなく、治療に使えるわけでもない。
無用の長物を幾本も用意して如何する。誰より流血を嫌う方が。
「もう良い」
頬を膨らませ、この方は不満げに店を立ち去る。
*****
「医仙」
店の中の長柄に、幾枚もの鮮やかな衣を掛けた店。
軒先の台の上に、華やかな彩りの小物を並べた店。
立寄るのではと歩を緩める。
それを裏切るようこの方は立ち止まりもせず過ぎていく。
前を行く小さな背へ、肩後ろから呼びかける。
「買い物は」
「するわよ、もちろん」
「欲しいものは」
「あるはずよ、今探してるんだから」
何故か気を悪くしたように振り返り、この方が言った。
「ちゃんと本気で協力して」
「何をお探しですか」
肝心の欲しい品を教えて頂かねば、力の貸しようもない。
問いに尚更臍を曲げたように、ふうと吐く息の音が聞こえる。
「それが分かれば、苦労はないのよ」
欲しいものはある。探している。それが何かは判らない。
さっぱり意味が判らん。宝探しでもするおつもりか。
「だからとにかく、付き合って」
「・・・はい」
連れ出したのは俺だ。刻が許す限り付き合う。
宝探しというなら、目指す宝が見つかるまで。
頷いた俺にようやく溜飲が下がったか、この方はもう一度往来を歩き出す。
*****
「アクセサリー・・・は違うなあ」
独り言なのか問い掛けか。
「服とかでもないわよねえ・・・」
この方は呟きながら振り向いた。
「ねえねえ」
「はい」
「思い出になるようなものなら、何を選ぶ?」
「・・・思い出」
「うん。それを見るだけで、楽しかったなあとか、何度もそんな風に思い出せるもの。
天界なら写真とかビデオとかがあるけど、ここでは」
咽喉が詰まって声が返せない。
見るだけで楽しかったと、思い出せるもの。
イムジャ、あなたが探す宝とは。
「思い出の品ですか」
「え?」
「思い出の品を、探しているのですか」
この方の此処までの思い遣りが水の泡だ。俺のこの一言で。
どうにか暢気に過ごそうとして下さっているこの方の、精一杯の作り笑いが。
判っている。この方の苦しさも判っているのに。
「俺達の思い出になるような品を」
「・・・だって」
「結構」
俺は楽しませたかった。これが最後だなどと微塵も考えなかった。
ただこの方に笑って欲しかった。逢える限り時間を使いたかった。
苦しい程に逢いたい。昨日もそうだった。今日もそうだ。
そしてきっと明日もそうだろう。この方が傍に居ても居なくても。
しかしあなたが探していたのは、思い出の品だった。
今日の事を幾度でも思い出せるように。
それを見る度、思い出せるように。
物など残されて何になる。見れば苦しいだけとは思わないのか。
いつでも一番大切なものは、一番欲しいものは形ではないのに。
あなたの笑顔、花の香、俺に向ける瞳、甘い声。
残せるものなら残してみろ。形にして置いていけ。
「聞きたくも無い」
「え?!」
「戻りましょう」
無理矢理に手を牽いて、今来た道を逆に戻る。
結局この方には何一つ伝わっていないのだ。俺が本当に欲しい物が。
駄々を捏ねる餓鬼に甘い飴でもやって泣き止ませるように、何かくれてやろうと思ったか。
「待ってよ、まだ見たいものが」
「思い出など糞喰らえだ」
「どうして急に怒るわけ?意味が分かんないわよ」
「ええ、あなたには決して判らん」
こうして手を握れる限り、触れられる限り、あなたが傍にいる限り。
その最後の瞬間まで絶対に諦める事など無い。無駄にする気は無い。
そしてあなたを無事に帰せば、それで全てが終わる。
その後はどうなろうと構わん。何を残されようとあなたの抜け殻だ。
「じゃあ、最後に行きたいとこがあるから。連れてって」
あなたが人波の中、この手を烈しい勢いで振り払う。
空になった掌を固く握り締め、その瞳を睨み返し俺は頷いた。

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噛み合わない
ヨンとウンスの思い・・・
二人ともが言葉足らずだから
直ぐに喧嘩になっちゃうんですよね(^_^;)
せっかくのデート。
楽しんで~~❤
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さらんさん こんばんは!
いつも、いつも お話を読んで感心してしまいます。
こんなに色んなお話が書けるなんて…
今日のお話 ウンスがヨンの為に思い出の品を捜してるのでしょうが、それと分かったヨンの気持ちが切ないですね~(;_;)
文章がすごいです!
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鈍いんだな~もう
思い出の品ね…
持てば 辛くなるか~(_ _。)
だけどさ ウンスにしてみれば
それ見て 思い出してほしいのよね
一緒に行く場所は そこも思い出になっちゃうけど…
せっかく 楽しんでたのに ウンスさん
ご機嫌斜めになっちゃった
ヨンもだけど~ はやく 仲直りしてね
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さらん様 いつも素敵なお話をありがとうございます。何日かぶりに拝見しましたら新しいお話も始まっていてとても嬉しいです。4月にさらん様が酷い目に遭われて筆を折られるかもしれないとお書きになった時、ウンスさんをみすみす天界へ帰してしまったチェ・ヨンさんもかくや、という「さらん様ロス」におちいった私。再びお話を書いて下さって当たり前のように読ませていただいておりました。が、抱えていた身体の痛みを治す為にそこを切開してそれも痛い…という中でちょっと悟ったと言いますか。伝えたいことは伝えられる時に伝えておくべき(大袈裟。命に別条はありません)と。さらん様が紡ぎだす美しいお話を読ませて下さってありがとうございます。唯々感謝致します。ずっと御礼を申し上げたかったのですが中々勇気が出ませんでした。この際さらん様を「愛している」ことも告白させていただきます。好きです❤️
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ヨンさんはウンスに喜んで欲しくて誘ったのに。
思い出の品なんて悲しいよ~!
ただ笑顔が見たかっただけなのに。。。
2人の微妙な距離が初々しい(//∇//)
ウンスの行きたい所って何処かな~?
せっかくのデート!!
思い出じゃなく今を楽しんで♪
毎度の事続きが気になります~!!
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ドラマ本編ではウンスが楽しみにしていた買物シーンは,カットされて残念でしたが(脚本の段階ではあったみたいですが)
さらんさんのお話で読める~♪と思っていたのに・・・揉めちゃいましたねぇ。
ウンスはヨンに何かプレゼントをしたかっただけだと思うのですが,ヨンはウンスが帰る事を前提にしていると思ったんでしょうね。
自分も帰すと約束した以上,引き止めるつもりは無くても,気持ちは通じていると思ったから・・・
この時期は二度目の毒の前なのかな?
まだ高麗に残るとハッキリと決めていない頃。
ウンスの気持ちも揺れていたのかな~
今後の展開も楽しみにしています♪
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さらさんさん、おはヨンございます❤️
ウンスは自分が居なくなっても思い出があればそれに縋って思い出せる、生きていけるって思ったのかな。
でも時にそれは残酷?
気持ちばかりが膨らむのに どこかで偶然会えるわけでもない二度と会えない人を思い出して辛い思いをするだけ?
ヨンにとっては今を生きてるんでしょうからね…
それまではどんなに踠いても道を探すはず
この手から離れなくともいいように。
うーん…行きたいところどこかなぁ?