「私?」
「ええ」
「あ、さっきの話?トイレの」
「はい」
俺が頷くとようやく合点が行ったか、この方は正面のムソンに向き直る。
「ムソンさん」
「はい」
「動物のフンだと、一緒に水に溶けちゃうでしょ?」
「そうなんです。それが悩みで」
「あのね、火薬に使う硝・・・うーんと、動物のフンを使うよりは、厠の床土を少し掘ったところを使うと良いかも。
なるべくたくさんの人が長く使った厠がいいと思う。碧瀾渡は大きな町だから、割と簡単に見つかるんじゃないかな」
「厠の、土ですか」
ムソンは思いもかけぬ事を言われたとばかり、眼を見開いて正面のこの方を見詰める。
「うん。でも必ず少し掘ってね。表面の土だと、乾燥してたり逆に雨で流れたり、新し過ぎて化学反応前で思った効果がないかも」
「く・・・その、糞を、直接使う方が良いのでは」
「火薬に必要な成分は、フンの中の一部なの。ほとんどは老廃物でそれが一緒に水に溶けると却って邪魔なのよ。
地熱や時間経過で化学反応起こした後の土の方が、使いやすいはず」
「確かに理屈にあってますね」
「まあほら、ものは試しって言うじゃない?」
この方が明るく笑いかけると、ムソンは強く頷いた。
「判りました、試してみます!」
「掘った土ごと水に溶かせば分離が簡単よ。土は水には溶けない。
硝酸は水溶性だから、必要な成分を分離した後の水から取れば良い」
「しかしすごいな。俺は糞に行き当たるまで十年近くかかりました。
美しいだけでなく賢い奥方様なんですね、大護軍様」
この方は嬉しそうに頷くと、得意げに俺の顔を見る。
その愉し気なムソンの軽口に、チュンソクの眉がまた寄った。
チュンソクとムソンが仲違いするのは得策ではない。
この先どちらが欠けても痛手。
奴らの間に流れる険悪な空気に、思わず小さく息を吐く。
「で、隊長様」
「・・・何ですか」
ムソンは目の前の冷たいチュンソクのあしらいを気に病むでもなく、平然と笑い掛けた。
「俺はこんな成りですが腕は良い。今は碌な稼ぎは無いが、火薬は必ず成功させます。
妹さんにお会いできる時なら、身なりを整えて伺いますから」
ようやく話が本筋に戻ったと安堵したものを。
余程気になるのか、この方との話が一息つくや、ムソンはまた先刻の話へ戻る。
「ムソン」
「はい、大護軍様!」
「お前、チュンソクの妹御とは」
考え過ぎなのでは。もしやあの場にいた別の女人では。
チュンソクと共に居たのなら、侍女殿という事もある。
そんな一縷の望みを掛けた問いを、奴はそうと知らずに打ち砕く。
「あの方です。大護軍様の御婚儀で隊長様と一緒にいらした、小柄な」
そう言って掌で己の肩辺りを示し
「これくらいの背の丈の、髪の黒い、色の白い、小鹿みたいな。
桃色の絹の御衣装を着て、金の髪飾りを刺していらした」
間違いない、敬姫様だ。
あの日そんな装いをしていらしたのは、姫様以外にはおられない。
俺の脇のこの方も小さく息を呑むと慌てて口を押さえ、卓下で俺の足を小さな爪先でしきりに蹴った。
この方へと目線だけを投げ、小さく顎で頷き返す。
そして誰よりその方に思い当りのあるチュンソクは、嘆息の後初めてムソンへ向き直った。
「ムソン殿」
「俺は殿なんて柄じゃないですよ、隊長様。ムソンで構いません。
隊長様の方がどう見ても、俺より年上なんだし」
こいつに悪気がないのはよく判る。
しかし先刻から妹だ年上だと、痛い処を突いてくる。
チュンソクは今まで見た事も無い冷静な顔で、ムソンを眺めた。
その視線に礼を失さぬようにと同じく黙って向き合うムソンが、無言で過ぎる刻の余りの長さに眉を搔く。
それが合図かのように、チュンソクが小さく息を吸う。
「・・・その黒髪の、色白の、小鹿のような、桃色の絹を召され金の簪を刺した方は」
そこでいきなりチュンソクの手がムソンの胸倉へ一気に伸びる。
迂達赤随一の手縛の遣い手が眸にも止まらぬ速さで掴めば、逃げ場などあろうはずもない。
向かいに座った俺が椅子を蹴って立ち上がり、二人を割ろうと腕を伸ばすよりも僅かに早く。
チュンソクの掌はムソンの麻衣の袷の首許をがっちりと握り込んだ。
その勢いのまま掴み上げられ、ムソンは成すすべも無く椅子から腰を浮かす。
中途半端に腰を浮かせたムソンの目前にチュンソクが怒り心頭の面を突き出し、鼻先で低く唸った。
「妹ではなく、俺の許婚だ!!」
その怒号に、鼻面を突き合わせたムソンが目を剥いた。

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さらんさん、こんばんは❤️
そうそう、ウンスは美人なだけでは無く頭も良いのですよね♪
なんたって未来の知識が脳内に詰まってます(๑•̀ㅂ•́)و✧
うふふ( ´艸`) チュンソクやりますなw
ヨンも一歩及ばずの早さw
余程痛いところを突かれすぎて癪に障ったんでしょうね~!
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ここにも、天真爛漫な人が居ましたね(苦笑)
ムソンさん。
口は災いの元‥でしたね(^-^;
天真爛漫も、時には人を傷つける事もあります。
ウンスも気をつけてねぇ~(^^)
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むふふ( ´艸`)
チュンソクも ヨンの気持ちがわかったかしら
自分の大事な人が ほかの男に何やら言われるの…
我慢ならね~~~~!!
ムソン… あきらめて頂戴
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さらんさま
ウンスさんのご機嫌も直るでしょうか♪
遂に言いました!チュンソク!
許婚♪♪
言葉にすれば・かたち・になります!
私は、いいね!ポチする以外はありません(笑)
今夜はぜひとも連打したいです
禁断の行為ですか?(ポチポチ、ポチポチ♪)
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笑た~~おもしろーィ(笑)
チュンソクって信義見てた時から大好き❤
許嫁まて出来たのね
信義最終回から
二次小説すごい事になってるんだわ♥