2016 再開祭 | 天界顛末記・拾玖

 

 

「類は友を呼ぶって本当なのね・・・」
霙の中を濡れそぼり、帰りついた私達をご覧の叔母殿は頭から爪先まで隊長を眺め、大きな息を吐いた。
「良い男の友達は良い男ってわけね、さすが」
「チェ・ヨンさんよ、叔母さん」
「あらら、有名な将軍と同姓同名なの?」
「将軍?」

ソナ殿が首を傾げると、叔母殿は私達に一枚ずつ雲のように柔らかい大きな手拭いを渡しながら
「そうかあ、ソナはアメリカで聞いた事ないかも。韓国にね、昔・・・
朝鮮の前に高麗って国だった頃、有名な大将軍がいたの。チェ・ヨン将軍。
清廉で剛臣って昔の歌にもなってるし、韓国海軍に同じ名前の戦艦もあるわ」
「そうなの?」
「そうよ。興味あるなら、今度ネット検索してごらん。すぐ出て来るわよ」
「うん、そうする」

渡された手拭いで濡れた髪を乱暴に拭いつつ、隊長は気まずい顔で二人の女人から目を逸らす。
そして副隊長は逆に解せぬ顔で、その御二人をじっと見つめる。

「それでね、叔母さん。私これからお兄さん達と警察に行って来てもいい?
お兄さんが人を探してて、何か手掛かりがあるかも」
「もちろん。平日だしこんな天気だし、お店は全然問題ないわ。良かったらしばらく休みなさい。
せめてチュンソクさんたちがここにいる間だけでも」
「・・・いいの?」

叔母殿のご提案にソナ殿が控えめに問い返す。その顔が隠しきれぬ嬉しさに輝いている。
叔母上は正直な表情のソナ殿に笑いかけた。
「ダメなら言わないわ。ソナは頑張りすぎ。倒れちゃうわよ、そんな無理ばっかりして。
今年になってから、ほとんど休んでないじゃない」
「でも・・・」
「お祖父ちゃんがあんたに残したものもあるの。無理しなくていい。慌てずにゆっくりでいいの。ソナのペースで。分かった?」
「ありがとう、叔母さん!」

ソナ殿はそう言って、叔母殿にきつく抱きついた。
そしてそのまま副隊長を振り向くと、満面の笑顔で頷いた。
「お兄さん、私一緒にいてもいいですか?お手伝いできますか?」

心から嬉し気な笑顔に、副隊長は困ったように眉を下げる。それはそうだろう。
これ程真直ぐに、手放しで見返りを求めずに好意を示されれば、返答に困るのも無理はない。

此処がもしも高麗なら。
周囲に迂達赤の他の面々や医仙がいらしたら副隊長は冷やかし声の的になったに違いない。
いらっしゃらなくて幸いだろう。目撃者は私と、そしてどなたよりも口の堅い隊長だけで。
「自業自得だ」

隊長だからそれだけで済む。確かに御自身の撒いた種だ。
あれ程優しく守られれば、どんな女人でも好意を持たれるだろう。
副隊長がどんな御積りだったとしても、御自身の招かれた結果だ。

冷やかすつもりは無いが、ついつい成り行きを見守ってしまう。
そんな私と隊長の視線に気付き、副隊長は困惑した視線を下げた。
「ところで、チェ・ヨンさん?」

叔母殿の声に隊長が逸らしていた目を戻すと
「当然だけど、着替えてくわよね?チュンソクさんかビンさんに服借りてね?
その恰好はさすがに怪し過ぎるわ」
「・・・は」

叔母殿の忠告に隊長は仕方無しという表情で、小さく顎で頷いた。

 

*****

 

「行方不明?」
「はい。この方々のお知り合いで」

天界の平服に着替えた隊長の、周囲の人目の引き方は尋常ではない。
けいいさつしょへ出向く此処までの短い道中でも、それに気づくには充分長かった。

何しろ擦れ違う女人達の視線が痛い。周囲に寄せる囁きが騒がしい。
私達が茶房で騒がれたのとは、その大きさが桁外れだ。
今もけいさつしょには幾人かの方々が行き交うが、誰より先に隊長へ目を遣り囁き合いながら通り過ぎる。
「なにあれ?モデル軍団?芸能人?」
「判んない。女の子だけ普通だけど」
「普通でもうらやましくない?あんな人たちと一緒にいられるなら」
「それよりバッグでしょ。お財布もカードもスマホも鍵も入ってた。
スマホなかったらあんな良い男がいても、連絡先も交換できないよ」
今も女人らが声に嫉妬を滲ませながら、そう言って歩き去って行く。

「行方不明者ねえ・・・保護の届け出はないな。最後に見かけたのは?」
ソナ殿が身を乗り出した腰高の卓向こう、椅子に腰掛けた男性の声に代わって私が返答する。

「三日前の夕です」
「何処で?」
「奉恩寺の、弥勒菩薩の前で」
「三日前か・・・今日は天気が悪いし、心配ですねえ・・・」
男性は親身な声で応えると、
「行方不明者のお歳は?」

そう訊かれ声に詰まる。
徳成府院君の齢を考えた事もなく、供の者など数度目にしたきりだ。
困って隊長と副隊長を振り返ると、隊長は息を吐き
「五十近くと、四十近くかと」
「なるほど。体力的には問題はないかな?既往症があるとか。
その場合は、身元不明で病院に担ぎ込まれる事もありますが」
「・・・そこまで詳しくは」
「うーん。ID番号は分かりますか?」
「あ、あの」

ソナ殿が其処で急いで横から言葉を挟む。
「韓国の方ではないので、ID番号はなくて」
「外国の方か・・・旅行者?韓国語は話せる?パスポートは?」
「携帯しているかどうかは分かりません」
「難しいなあ、それは。失踪時の服装は?」
「年嵩の男は白い長衣に金の縫取りのある上下、頭に金の飾細工を挿しておりました。供の男は」
「待って!」

突如遮るように叫ぶと、卓向こうの男性は音高く椅子を引く。そして立ち上がると
「金の髪飾り、白い長い上下って、歴史ドラマに出て来るような」
「・・・はい」

天界の衣とは全く違う。
歴史どらまが何か判らずとも、私達の衣に驚いたソナ殿や周囲の視線を思い出せばそう答えるしかない。
「チーフ!」

立ち上がった男性は私たちだけを残し、卓向こうの奥へと駆け込んだ。

 

 

 

 

1 個のコメント

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    テジャンはウンスから 
    将軍の話しは聞いてたころかしら?
    むず痒いわね なんだか 
    ウンスの言った通りだ… ( ´艸`)
    自業自得のぽっぽ ま 困り眉のそりが
    一段とすごいでしょう ぷぷぷ
    警察署で 手がかりが??」

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