2016 再開祭 | 春夜喜雨・拾参

 

 

「チュンソク」

久し振りに2人で帰って来た、迂達赤の吹抜けの中。
この人の呼び声に、チュンソク隊長が奥の部屋から走って出て来た。
「手配は全て済んでいます。すぐに出ますか」

私たちの前に駆け付けたチュンソク隊長が、この人に尋ねる。
「総てか」

この人はそう言いながら、チュンソク隊長をちらりと眺めた。
「本当に」
「・・・は?」

謎かけみたいな質問にチュンソク隊長が首を傾げる。
そんなチュンソク隊長に呆れたみたいに、この人は低い声で続けた。
「巴巽村の前に、碧瀾渡に寄る」
「判りました」
「碧瀾渡で落ち合っても構わん」
「大護軍」
「何れにしろこの雨だ。巴巽村まで一駆けは無理だろう。
何処かで宿を取る事になるなら、碧瀾渡で夕刻に落ち合える」

その声にチュンソク隊長ははっきりと首を振った。
「このまま出立しましょう。医仙が御一緒です。空が明るいうちになるべく距離を稼がんと」
「・・・好きにしろ」

この人は小さく息を吐くと、ゆっくり首を振ってチュンソク隊長に背中を向けて、今入って来たばかりの扉の方に1人で歩き出した。
残されたチュンソク隊長が困ったみたいに、私に向けて頷いて
「医仙、参りましょう」
そう言ってあなたの後ろを追い駆けるみたいに歩き出した。

男同士は、理解し合ってるのかもしれないわ。
でも私にしてみたら、何が何だか分かんない。
先に勝手に歩き出しちゃった、何故か機嫌の悪いままのこの人も。
全て理解してるみたいに、あの人の横に並んだチュンソク隊長も。

出発前から気が重い。まるで今日の空みたい。
落ち込んだ気分でようやく追いついた大きな2人に挟まれて、私は迂達赤兵舎を出ようと、霧雨の中を歩き続けた。

 

*****

 

皇宮を出て馬三頭で駆けた碧瀾渡。
門横の厩の入口、既に見知った厩番が俺へ笑んで深く頭を垂れる。
「大護軍、お久し振りです!」
「おう」

差し出す手にチュホンの手綱を預け、その濡れた背から飛び降りる。
横の馬の鞍上の手を差し出すとこの方は不機嫌な顔でその掌を無視し、一人で危なげに鞍を降りる。
馬で駆けたせいで濡れそぼった亜麻色の髪の先から、雫が垂れている。
この方はその濡れ髪ごと小さな頭を強く振る。まるで俺を拒むように。

成程。そういう態度か。

厩番もいる。門衛もいる。まして脇にはチュンソクもいる。
此処でいきなりその腕を掴み、口論を始めるわけにもいかん。
厩番は何も気付かぬままに、俺達の駆って来た三頭の手綱を受ける。
奥から出て来た助けの厩番と共に手綱を握り、
「大切にお預かりします」

確り頷いて請け負う顔に頷き返す。
「頼む」
「はい!」

声に送られ開京より弱まった雨脚の中、碧瀾渡の市に抜ける大門へ踏み込む。
懐から手裏房の号牌を出し指先へ下げるが早いか、通りかかる店先で店番が声を掛けた。
「ご覧ください。いろいろ揃っておりますよ、お探しの物が」
「・・・おう」

突然の呼び込みに乗った俺に、チュンソクとこの方が驚いたように歩を止める。
構わず店先へ数歩寄ると、品を案内するように軒下へ出て来た店番が、俺に小さく問い掛ける。
「探し物は」
「火薬屋ムソンは何処だ」

低い遣り取りに被った雨除けの外套の下、チュンソクが微かに眉根を寄せる。
この方は相も変わらず要領を得ぬ顔で、そんな俺達を眺めている。
唯一人全てを心得た風の店番だけが、その視線で通りの先を示す。
「この先の茶屋に」
「判った」

何事も無かったかのよう通りへ足を戻すと、店番は商人声を装って明るく言った。
「ありがとうございます、またどうぞ!」

 

 

 

 

6 件のコメント

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    さらんさん、おはヨンございます❤️
    ヨンなりに気を遣ったのにねw
    チュンソクもヨンの意図を読んだのかそれとも生真面目さからそこまで汲み取れなかった?
    きっとキョンヒ様の泣き顔を見たら余計離れ難くなるからですよね~!
    ウンスもヨンの不機嫌さにへそ曲げてるみたいだしw
    商人風の手裏房、ムソンさんの事もちゃーんと把握してるのね!

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    見る人が見ればわかる
    ヨンとウンスの 黄色信号…
    一悶着あったのか?
    あったのよー それが。
    (๑•́ ₃ •̀๑)
    二人とも 頑固だからな~
    はやく ちゃんと 話し合ってね。

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    もぅ~いつまで喧嘩して居るの?喧嘩ではないけど…ヨンの不機嫌は悋気?でしょう?
    困ったなぁ~(>_<)
    お互い話さなきゃ…ね!
    ストレス溜まるだけだよ…(>_<)

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    ヨンとチュンソクの会話、ウンスには理解できないのよね。でも、せっかくのヨンの思いを、チュンソクさん・・良いのですか?敬姫様は、それでなくても寂しがりや。「まいります。」と言われていたなら、一生懸命待っていらっしゃるだろうな。ヨンが、気を付かってくれたのに、三人で出発してしまいましたね。
    ウンスは、いろいろと納得できず、少しオカンムリ。
    鍛冶屋にも、ムソンにも大事な話があるヨンには、そちらが優先なのかな。
    三人のそれぞれの目的が、早く達成できるといいですね。

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    あ~~(–;)
    せっかく巴巽村に行けるのに
    気まずいままのヨンとウンス。
    今回はヨンの気持ちが分かるので、
    ヨンも折れないで、ウンスに
    ちょっとお灸をすえても
    良いのでは?と
    私個人の気持ちです(^^;
    でも、早く仲直りしてくださいね❤

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    気遣いに素直に答えなかったからヨンさん機嫌悪くなってしまいましたよー!!
    でもチュンソク真面目だから仕方ないよね。
    ウンスは2人の遣り取りに要領を得ず、旦那様は機嫌悪いから気が重い~(ノД`)
    なんだか微妙な空気…
    これから会うムソン…大丈夫??
    場の空気ちゃんと読める?
    続きが気になります~!

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