「・・・タウナ」
大護軍とウンス様の婚儀の翌朝。
まるで天までが御二人の婚儀を寿いでいるようだ。
昨日の婚儀のまま、まるで透き通るように高い青空から、白く温かい光が射してくる。
いつもの年であれば雪が舞っても不思議でない秋の終わり、まだまだ空気は暖かく、その気配などまるでない。
静かに声を掛け、門をくぐっていらっしゃる隊長にコムが頭を下げる。
「隊長」
落葉を掃き清めていた私が箒を置き腰を折ると、隊長が苦く笑う。
「お前も相変わらずだな」
「はい」
「あ奴らはまだ寝んでおるか」
大護軍とウンス様の寝所を目で指す隊長に頷く。
「昨日は遅くまで、お客様と飲んでいらっしゃいました」
「馬鹿共が。客人は何刻までおった」
「皆さまがお帰りになったのは亥の刻あたりかと」
私の声に隊長が息を吐く。
「お前もそれに付き合って、ずっと料理番か」
「ええ、楽しかったです」
思い出して笑んだ私に、隊長の苦く笑う目が当たる。
「手裏房のマンボ様が、とにかく作れと。大護軍が音を上げてウンスさまと二人きりにさせろと言い出すまでは。
材料は山ほどございましたから」
「・・・あの女が言いそうなことだ。で、奴は結局言ったのか」
「とんでもない」
私の打ち消す声に笑いながら
「だろうな。肚の中ではさぞ焦れていたろうが」
隊長がそう言い、私へと頭を下げた。
「隊長!」
「済まなかったな、忙しい思いをさせた」
「止めて下さい隊長、お顔を!」
「あ奴の叔母としての礼だ。何せ不出来で頑固な甥だからな。これからもお前と夫君には苦労を掛けるが、頼む」
その声に深く頭を下げ返して、私は上げた顔を振った。
「私たちは好きでしております。誰も苦労と思っておりません。
隊長が王妃媽媽とお帰りになった後の、皆さまを御目に掛けたかったです」
私の思い出し笑いに、隊長が不思議そうに首を傾げる。
「どの方も嬉しくて堪らないご様子で、大護軍に御酒を勧めて。
相当御飲みになられていましたが、大護軍も決してお断りせず」
「あれは焼酎徒だからな。好きで飲んだのだろう」
「そうではないでしょう」
「どうかな」
「相当堪えていらっしゃいましたよ。最後は私たちが皿を運ぶたび、うんざりした御顔をしていらっしゃいました」
「恥ずかしい奴だ」
「私が調子に乗り過ぎました」
その声に隊長が笑って首を振る。
「どれ、あ奴らが起き出す前に片付けるか」
「はい」
隊長に頷き、私は一歩後に従いて居間へと歩き始めた。
*****
「起きていらっしゃるか」
俺とトクマンとテマンの並ぶ姿に、コム殿が首を振って笑む。
「まだです」
「では今のうちに片付けだけ、させてくれんか」
「チェ尚宮様もおいでです」
コム殿の穏やかな声、俺達を門内へと通す為に脇へ避けた大きな体、その高いところにある眼を思わず凝視する。
「もうおいでなのか」
「はい、先程」
顔をしかめ、額を押さえてももう遅い。
「お怒りではなかったか」
「チェ尚宮様ですか」
「ああ」
「全く」
俺達だけが喜びの余り、大護軍の盃を満たし続けた。
どこかで怒り出すかと思えば最後までその杯を干し、最後に医仙と御二人で庭へと降りて行かれた。
そこでテマンが席を立ち、俺たちを見渡して
「もう終いにしましょう」
そう気遣ってくれるまで、楽しさと嬉しさの余り。
チェ尚宮殿にも大護軍にも、叱責されても仕方ない。
せめて昨夜そのままにした部屋と庭だけでも片付けようと、こうして早々から伺ったが。
「隊長」
トクマンのひそめた声に、肩越しに目を投げながら庭の隅を歩く。
「何だ」
すっかり片付いている庭先。昨夜お暇する時にはもっと散らかっていたはずだ。
既にコム殿の奥方、元剣戟隊長が片付けて下さったのか。
もっと恐ろしいのは、もしやチェ尚宮殿か。
昨日の酒で怠いは、頭は痛むは、咽喉は乾くは。動きの鈍い頭で急いで考える。
「あのキョンヒ様が、本当に隊長の」
「俺の、何だ」
「いい、なづけの、方なのですよね」
「そうだ。それが何だ」
唯でさえ体も頭も重いのに、トクマンのその声に気まで重くなる。
「あの、ハナ殿は」
「キョンヒ様の乳姉妹だ、大護軍がおっしゃったろう」
「おいくつなのでしょう」
「キョンヒ殿より一つ二つ上だろう」
「ハナ殿にはどなたか」
「どなたか」
「どなたか、そういう決まった方が」
「知らん」
歩きながらやたらと俺に繰り返すトクマンの声を断ち切る。
「まずはお宅を片付ける。御二方を絶対に起こさぬよう、音は立てるな。終わればすぐに失礼する。
判ったら手を動かせ。口でなく」
不機嫌に低く告げるとトクマンが頷きながら
「医仙は大護軍の奥方様、隊長には許婚のキョンヒ様。秋というのにみな春めいていますね」
そう呟く声に首を振る。
春めいているのは、お前の頭の中だろう。
*****
「・・・イムジャ」
どこまでも優しい声、その温かい体に包まれる。
ここにいれば安心できる。何があっても大丈夫。
声に腕を伸ばせば、必ずあなたが掴まえてくれる。
「・・・イムジャ」
ほんの少しだけ目を開いて、窓の外の明るさにもう一度、逃げるみたいに閉じ直す。
窓の外ではかたんかたんと、小さな音がする。
そして小さいけど、確かに 聞き慣れた何人かの声が。
ああ、ホテルだったらドント ディスターブの札を出して、あなたと一緒にブランケットにもぐり込みたい。
離さないでね。どこにも行かないで。
抱き締めてくれる暖かい胸に、いつもみたいに腕を回し直して。
・・・ヨンア、熱がある?
いつもと違うその温かさに、脳の前に腕の皮膚が反応する。
いつもと違う。いつもはこんなに熱くない。
あなたを抱き締めたままの指先が、不安で勝手に動き出す。
いつもと違う。背筋から伝わってくる感触が。
夢の中にいた脳が一気に覚醒して、私の目を勝手に開く。
明るい朝の光がたっぷり入り込む寝台の上、目の前のあなたが急に開いた私の目に驚いたみたいに首を傾げる。
その頬に手を当てて確かめる、その手を滑らせて額に当て直して、そしてそのまま頸動脈まで下して辿る。
熱があるわけじゃない。脈も正常。そして手首を握ろうとして、指を動かした時。
ずれた掛け布団の中、見つけたあなたの腕。
手首を握ろうと目で辿る、その私の視線の先。
大好きな広い肩、そこから繋がる素肌の胸、しっかり割れた腹筋。
あなたの腕へ伸ばした私の指先。
そしてもちろん同じく何も身に着けてない、私の上半身。
待って。待ってよ。何で私。何であなた。
真白い頭でようやく思い出す。そうだ、そうだった。そうだった。
あなたが、そして私が素肌のままだから。
お互い何も着てないから、だからいつもと感触が違うんじゃないの!
思わず上がりそうになる小さな悲鳴、その瞬間にあなたの大きな掌が私の開いた口をしっかりと上から押さえた。

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婚儀から一夜明け、コムとタウンは元よりチェ尚宮様やウダルチの皆様も片付けにいらっしらったのですね。
新婚早々の大護軍の雷が落ちるのは嫌ですものね。
そしてトクマンくんにも春が来そうな気配…
空気読めないで暴走しない事をお祈りします。
そして初夜を終えたウンスさん。
初めての甘い夜をお過ごしの様でしたが、酔ってたのかしら?
目が覚めていつもと違う体温に思い出したご様子❤️
ヨンは呪いからやっと解放されて本懐を遂げられて嘸かし幸せな朝だったでしょうね(//∇//)
この後の2人に目が離せません❤️
さらん様、いつも素敵なお話ありがとうございます。
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さらんさん❤
さらんさんの素敵な素敵な
お話のお陰で、冬だというのに
私の頭の中も春めいています(*^^*)
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ちゃ~んと 騒いだ後の 片づけをしに
やってくる みんながステキ
しかも 起きてくる前に…
( ´艸`)
トクマン… 自分にもしあわせを?
ハナさん狙いかしら ( ̄▽+ ̄*)
ウンス…可愛いわぁ
ヨンも 焦るわね…何も叫ばなくたって
(/ω\) ハハハハハ
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寿ぎお疲れ様でした。
さらん姉さんの魂のはいった素晴らしい作品でした。
ステキとしか言えない。
よかったねヨン、ウンスあんなに大勢に祝福されて心も身体も結ばれて❗️
…と寿ぎ(終)で感動していたら、なんとお茶目ないってらっしゃいの画像。さらん姉さん妄想楽しすぎ。しかも翌朝まで書いていただけて最高です。私も気になってましたよ。一夜明けた二人の様子が…そして散らかしたままの前日の後片付けが(^o^)/
祝婚儀の画像も最高ですね。
私は韓国も横浜も行けないのでみんないいなぁ~と羨むばかりです。
是非是非お話聞かせて下さいね。
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寿ぎ。紆余曲折なんて一言では言い表せないほどのことがあった上での婚儀涙が出そうな部分もあったけど何故か暖かくなるような、こちらの口角が上がるようなお話でしたね。ありがとうございます!チュンソク&キョンヒ様カップルも気になりつつ、私がうまく行けばいいなぁと思っていたトクマン&ハナさんに春の予感♪嬉しくて嬉しくて!今後の二人に期待してます!さらんさん!
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さらんさん❤︎
嬉し恥ずかしの朝を迎えたヨンとウンス…。たしかにウンスが思うように、現代ならラグジュアリーホテルでスプリングのすこぶる良いベッドで、誰にも邪魔されずに何時まででも眠りたいところですよね。
でも、例えベッドは硬くても、優しいうでがすっぽりと包みこんでくれ、二人を愛する皆が片付けに来てくれる、ヨンの邸宅が一番贅沢かもしれません(≧∇≦)。
あっと言う間に、大宴会の散らかった部屋をきれいに片付けてくれたコモとタウン。
月に二回で良いからわ我が家にも来てくれないかなぁ。
口を塞いでくれるヨンも、漏れ無く付いてきて欲しいです。
さらんさん❤︎
ウキウキに楽しいお話をありがとうございます。
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さらんさん
素敵な朝、しあわせな気持ちで読ませて頂きました。
しっかり割れた腹筋‼︎ キャ~!萌えます~~。