寿ぎ ｜ 1

【 寿ぎ 】

雲一つない澄み切った青い空。
そこから明るい秋の日差しが、庭いっぱいに降りそそぐ。

風の香り。土の香り。秋の草花と、あの野菊の香り。
そして横に立ってこの手を握り、黒い瞳で見つめてくれるあなたの香りを、胸いっぱいに吸い込む。

いつか終わりの日が来るまでずっとずっと、忘れないでいたいから。

こんなにも大切で、あれ程長い旅をして、どうしても帰りたくて。
誰を傷つけてもどんなに自分勝手でも、絶対もう一度逢いたくて。

ねえヨンア。
あなたがどれだけ偉い歴史上の人物でも、私には関係ないみたい。
困っちゃう。本当ならこんな事言っちゃいけないのよね。

タイムスリップの王道じゃない？歴史が歪むとか未来が変わるとか。
でも、ねえヨンア。
もしもあなたが気にしないなら。
未来の国史の教科書にも、それに韓国海軍の戦艦にも、その名前が残らなくていいなら。

ずっと一緒にいてね。もし歴史を変えても許してね。
あなたの為にならない事だけは絶対しないって約束するから。

王妃媽媽と王様の未来。李 成桂の事。心の中にはいつだって、少しだけ憂鬱の種を抱えてる。
先を知ってるからこそどうなるのか、本当に起こるのか、起こるならどんな風に起こるのかが怖い。
起こさない事で未来が変わるのだって、怖くないって言ったらそれは嘘になるけど。

だけどそれでも逃げたりしない。私はあなたを愛してる。
私にとって大切なのは、今目の前にいてくれるあなた。
その呼吸。その心拍。その体温。あなたが生きてる証が全て。

今日、みんなの前でそれを伝えたいの。
あなたの事が大好きで、大切で集まってくれる全員の前で。
みんなもちろんあなたを好き。だけど私が一番好きだって思ってる。
みんなもちろんあなたが大切。だけど私が一番大切だって思ってる。

誰かがあなたを傷つけるつもりなら、私が相手だって宣言したいの。
その為なら天界の知識でも華侘の医術でも、何だって使ってやるわ。
あなたはきっとすっごく困った顔をして、呆れたみたいに 首を振るんだろうけど。

「武人が女人に守られるなど」
そんな風に言うかもしれないけど。

でも、ねえヨンア。
女だって守りたいって思ってる。男の人が思うみたいに。
しっかりと顔を上げて、女を武器にしないで、ただ一人の愛する人を守りたいって心から思ってる。

「うまく行きそうです、媽媽」

媽媽のお部屋の中。
周りにいるのは計画を知ってる媽媽と叔母様、扉の外に立って守ってくれる武閣氏オンニたち。
みんなに根回しは済んでいるはずなのに、つい声が小さくなる。

晴れ晴れとした窓の外に比べて、やっぱり心の中は暗いわ。
あの人との結婚式なのに、最後の最後に嘘をつくのはつらい。

だけど、ねえヨンア。 分かってほしいの。
私だって嘘なんてつきたくない。

でも、結婚式にはどうしても媽媽と王様に来て欲しい。誰よりお2人の前で誓いたいの。
これからあなたと一緒にいること。もう絶対離れないこと。
何があったって、どんなに邪魔されたって、二度と絶対に。

そしてお2人にお伝えしたいの。
この世界に連れて来られたこと。こうして戻って来たこと。
今はもうこれっぽっちも恨んでないし、本当に嬉しいって。

次の世界で同じことが起きたら、きっと同じようにするわ。
最初は逃げようとするだろうし、けんかもするだろうし、 無茶な事を言ったりやったり、あなたを怒らせると思う。

だけど絶対にあなたのところに戻る。最後には必ず戻る。
転んでも痛くても泣いても、見えない振りなんてしない。

だって私は、あなたを愛してる。
もし人間に生まれてきた理由があるとすれば、私の生まれた理由はあなたに逢うためだもの。

そこにいる？
何回だってあなたに訊くため。
此処におります。
何回だってその声を聞くため。

きっと知ったら怒ると思う。だけど、ねえヨンア。
私は信じてる。
あなたは理由を知ったらきっと、呆れたみたいに溜息と一緒に笑って、言ってくれるって。

「イムジャのされたいように」

そして誰より頑張って、王様を守ってくれるはず。
一緒にいらっしゃる媽媽を守ってくれるはず。

その日までもう少し。その間だけ黙ってるのを許してね。

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