「チュンソク」
帰ってしまうのは仕方ない。明日はきっと忙しい。あの虎の大護軍とウンスの、晴れの婚儀の日だ。
分かってる。わがままを言って困らせたくはない。
それでもこんな月の夜に、帰る背を見送るたびに胸が痛い。一緒にいたいと思う。もう少しだけ、手を握ってくれないかと。
その手が離れると心許ない。一人なのだと思う。
ハナも乳母もいてくれるのに。父上も母上もいらっしゃるのに。なのにチュンソクの手が離れると一人になってしまう気がする。
チュンソクはとても聡いから、月灯りだけの庭でもすぐ気づく。そしてその骨の太い手が、頼りない私の手を見つけてくれる。
まるでその手に目が付いているようだ。迷ったりはしない。私の手だけをきちんと見つけて、真直ぐやって来てくれる。
「どうされました」
「・・・ううん」
淋しいから、手を繋ぎたかっただけ。
「明日は楽しみだ。ウンスはきっと夢のように綺麗だろうな」
「ええ、そうですね」
そのチュンソクの声に、胸がもう一度痛くなる。ウンスは美しい。私が見ても美しくて、夢の中の女人のようだ。
私とは違う、大人の女人。
きっとチュンソクの隣にいるのが相応しいのは、ウンスのような大人の女人なのだろう。
分かっているのに、そう褒めるのを聞くと胸が痛くなる。
私の様子に首を傾げ、チュンソクが申し訳なさげに眉を下げて言う。
「キョンヒ様。申し訳ないのですが、明日は忙しくなりそうです。
出来る限りお側にとは思いますが、役目があります。あまり長くお相手して差し上げられぬかもしれません」
「そんな事は良い。気にするな、分かっているんだ」
手を繋いでも胸が痛くなる。
幼子にするよう髪を撫でられる時にも、その優しい困った目がこの顔を覗き込む時にも。
穏やかな声に名を呼ばれる時にも、いつだって胸が痛くなる。
「離れたくないなあ」
「はい?」
「離れたくない」
「・・・キョンヒ様」
こんなわがままで困らせるのも胸が痛い。それを許すチュンソクにも胸が痛くなる。
諦めたように眉を下げる、その笑顔にも。小さく首を傾げて頷く、そんな仕草にも。
こうして握る手を離したくない。 月の下を帰る背を見送りたくない。
だって胸が痛いから。
「ずっと一緒にいたいな」
「それは」
そんな風に困った顔をさせる事に胸が痛い。
「分かってる、御役目だから」
チュンソクの大切な御役目。だけど今だけで良いから。
「チュンソク」
「はい」
「次は、私達か?」
「はい?」
「次に皆に祝ってもらうのは、私達?」
離したくないと駄々を捏ねるだけの私が、チュンソクの事をどれだけ分かっているんだろう。
「お望みなら」
「チュンソクは、望まないのか?」
「キョンヒ様」
困らせているのは分かる。私の悲しむ事は言わぬ男と知っている。
言うとすれば、きっと意味がある。あの時みたいに。
嫌いだと言われた時みたいに。
だけど好きだと、愛しいと言って欲しいと願うのは、私がチュンソクに相応しくないのではと怖いからかな。
チュンソクの隣で微笑んで、その背を静かに見送れるなら、相応しい女人と思ってもらえるのかな。
夜の庭に、静かな秋の月の光が降って来る。
冷たい風が木の枝を揺らす。
そこから赤い葉が一枚、ひらりと飛んでいく。
泣いてるみたいだ。残るあの枝も、舞い飛ぶ透けた葉も。

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キョンヒさま まだ若くたって
女だもの 好きな人と一緒に居たいし
寂しく感じるときだってあるわよ~
明日 しあわせそうな 二人をみたら
自分も しあわせになりたい
一日もはやくって 思うわね~
チュンソク 覚悟~!
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キョンヒちゃんがあまりに可愛く、私がオトコなら
(護れる財力のある)絶対ヨメにするのに!と
思いながら読んでいましたら、どーしても二人の出会いの
時を読み返したくなり。
さらんさまの数多い素晴らしいお話、何度も読み返しては
いますが、どこだ、どれだったぁ、と。
しばし格闘の末(どれを開けてもまた読みたくなってしまう
ので、進まず…)見つけました「香雪蘭」。
あまりの純な心にまた泣きました。
「寿ぎ」はウンスバージョンですよね。
なのにこんなにたくさんの心躍る伏線が。
さらんさま、お話いつまでも置いておいてくださいね。
私の心の糧、灯火です^^
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さらんさん♥
なんて可愛い、なんて一途な恋…♥
駆け引きをしようとか、勝ち負けのゲームだ…などとスレた思いは1ミリも無いキョンヒ姫の純愛に、心が洗われるようです。
え?洗っても洗っても、さほど綺麗にならないですって?
はああ…(iДi)たしかに…。
スレちまって やさぐれちまった私のことなど、捨て置いて頂きましょう。(←勝手に自虐気味に割り込んできたくせに)
キョンヒ様、こんなに愛らしくて、チュンソクにも100%愛されてもいるのに、チュンソクが好き過ぎて、その思いを持て余してしまうのですね…ふふふ。
「あなたの色に染めて」というウンスの意味とは別に、はなから真っ白なキョンヒ姫の婚儀衣装も純白が似合いそうです♥
でも、この時代の白い衣装は 婚儀には向いてないのでしたね…。ウンスが風穴を開けてくれるでしょうか。
そ、それから、ここにきて チュンソクのことも見直しましたよ!
“まるでその手に目が付いているようだ。”。
“私の手だけをきちんと見つけて、真直ぐやって来てくれる。”
きゃっほー(///∇//)!
やる時は やる男だったのですね!
いや、もしかしたらヨンの影響力も大きいのか?
仕事でもプライベートでも、その背を追いたくなるような男ですものね、さらんさんところのヨンアは♥
さらんさん♥
今宵も素敵なお話をありがとうございます。
新チュホンはまだ若く、どこまでも走りたがるものですから、コメントも無駄に長くなってしまい…。
深夜になり益々寒くなってきました。
どうか、温かくしてお休みください。
さ、帰るよ、チュホン(´・ω・`)
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キョンヒ様は若い分真っ直ぐで純真。
チュンソクと年齢差があるから自信が持てない事もありますよね。
でも歳は重ねても、相手を愛してるなら当然妬く事もあるし、ウンスだってキョンヒ様はと変わらない面はあるはず。
チュンソクは無骨な男ですから女心には疎いかしらね…
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恋はキョンヒ様を大人にしていくのでしょうか?もうすでに憂いが…でもチュンソクだってきっとわかってくれます!頑張れ!
今年一番嬉しかったことはさらんさんのアメンバーにしていただけたことです!大好きなチュンソクの限定記事を読ませていただいた中で、以前チュンソクが二人から慕われるお話の中、「俺の運命の女人が、もしもいるならたとえあの大護軍が俺の横におっても其処に目を移したりはせんだろう。」って台詞、チュンソクに教えてあげたいな。目の前にいるでしょう!って贅沢なメンバーにさせていただきました!ありがとうございました!また楽しみにしています!19044