「宿縁の花開いて芳しく、値遇の伴侶相得て共によろこぶ」
和尚様の声が響く仏間の中。
上座には王様と媽媽が、そして御代前側に叔母上とマンボが、外陣側にヒドとテマンが並ぶ中。
この方と肩を並べて座し、和尚様の声を拝聴する。
「今や両人の親故、有縁の同朋、一同に会して限りなき慶祝の誠を捧ぐ。
然れば爾今仏祖の教えに従い、己を修め身を正し、互いに敬愛を旨とし、
琴瑟相和して専から感恩報謝の生活を営むことを念ず。
ここに恭しく如来大悲の照鑑を請い奉る。願わくは哀愍摂護し給わんことを」
新居に移していた父上の仏壇の前、敬白文を読み上げた住職が、
敬白文の結びで朗々とした御声を止め、静かに此方を振り返る。
「新郎、チェ・ヨン殿」
「はい」
「新婦、ユ・ウンス様」
「・・・はい?」
不安げなこの方の揺れる声に和尚様は目許で笑むと、俺に向けて目を戻される。
「ここにお二人が結ばれることはまことに深き縁によることであって、その縁はこの御仏の前の婚儀により、来世へと繋がって参ります。
総ては御仏のお導きと心得られよ」
「はい」
俺の声に横のこの方が慌てたよう、半拍遅れて
「はい」
そう言って頷いた。
いつもであればにこやかな紅い口許が、心許なげに強張っている。
大 丈 夫 で す か
僅かに首を傾け横顔の唇だけで尋ねると、この方の眉が泣きそうに下がる。
何てことだ。此処で泣き出さないでくれ。
この場で泣かれては、涙を拭いてやる事も出来ん。
落ち着くまで髪を撫でて、待ってやる事も出来ん。
「では御仏の前にて、両人の誓いを」
和尚様の続く声に、この方が口許だけでなく小さな全身を強張らせる。
な に そ れ ?!
慌てたような唇に小さく頷き、俺は懐より書状を取り出す。
指先にそれを広げ
「私共は本日只今より共に歩みを始めるにあたり、本日まで
お育て頂いた方々への御恩を決して忘れる事なく、
御仏の教えをお導きとし、 夫婦相和し励まし合い、
決して離れることなく家庭を営んで参ります。 新郎 崔 瑩」
そこまで読み上げ、この方の唱和を待つ。
しかしこの方が続いて名前を和すことはない。
な ま え を
俺の唇を読んで頷き、この方は大きく息を吸い込む。
良し、と安堵した瞬間に。
「私達は御仏のお導きの縁に従い、来世も、その来世も、次の来世も決して離れず、いつも共にいることを誓います。
どんな時も必ずその縁と、そして新郎を守ります。新婦 柳 銀綏」
震えながらも言い放った声。
王様が、王妃媽媽が、叔母上ら参列の皆が、そして和尚様が驚いたように目を丸くしこの方を見る。
それはそうだ。通常ならば婚儀の誓いは夫が読み上げる。
妻はその後、ご自身の名だけを唱和すれば良い。
ご自身で誓いの言葉をあげるなど、俺を始め誰一人思わなかった。
「・・・ふ」
仏間に流れた深閑とした空気を最初に破ったのは、誰あろう司式者の和尚様、ご本人だった。
「ふわっははははは!」
耐えきれぬよう大声で笑われた後に王様の御前と思い出されたか。
真面目な顔に戻ると一つ咳払いをし、和尚様は真顔に戻られた。
「失礼致しました」
王様へ、王妃媽媽へと頭を下げる和尚様に向け、同じく今にも大きく笑い出しそうな目許の王様。
そして心より満面の笑みを湛えた王妃媽媽が、ゆったりと頭を下げ返す。
「良き縁だ。ヨンア、まことに良き縁だ。良き細君に巡り逢ったな」
「・・・はい」
言葉を改めた和尚様に深く頷くと、続いて和尚様が向かいのこの方に笑んで頷いた。
「ウンスさん、そうしておくれ。それこそが御仏の許で縁を結ぶというまことの意味だ。
決して離れず共に居る。何より易く聞こえるが、本当は何より難しいのだよ。
それでも二人ならば成せると、御仏がそう定めた縁なのだから」
「はい」
和尚様の声に、向かい合うこの方が確りと頷く。
「この上はいよいよ真摯な聞法者となられる事を願い、念珠を授与致します」
和尚様の声に続き差し出された小卓の上、正絹に載せた念珠のそれぞれについた白と紅の房が揺れる。
その念珠へと手を伸ばすこの指先を認め、続いて細い指が紅の念珠へ伸びる。
「では、仏前にて焼香を」
和尚様に促され、俺は横のこの方へ頷くと膝を進め仏壇前にて背を正す。
今頂戴したばかりの念珠をこの右手に掛けたまま。
眸で促すと向かい合うこの方が慌てたように、念珠を手にこの横へ添い、同じく姿勢を正して下さった。
ああ、先に教えて差し上げるのだった。焼香の正しい上げ方を。
舌打ちをしたい気分で息を吐く。 今となっては仕方ない。
俺は横のこの方へと小さくにじり寄り、出来る限り真似しやすいように、分かりやすいようにしてやるだけだ。
香を摘み、黙礼して香炉へ炊べる。
そうしてこの方を見ると、頷いて同じ仕草をされる。
次に右手の念珠を確かめ、咽喉元でこの両手を合わせて見せる。
祈念の仕方は御存知か、この方は安堵したように両手を合わせてそのまま瞳を閉じ、仏前へ真直ぐ頭を下げて下さった。
小さく安堵の息を吐き、己もようやく仏前へと向かい合う。
父上、母上。お元気ですか。
俺がまさか嫁を娶るとはと、驚かれていらっしゃいますか。
喜んで、下さいますか。
父上の金言をご存じだった方です。俺の魂の片方を持つ方です。
それが総ての答えです、父上、母上。
あの時何故この方だったのか、全ては遅すぎたのかと、遠のく意識の中で俺は父上に伺いました。
この方は、戻って来て下さいました。
思ったとおりでした。それが始まりだったのです。
父上、母上、こうして二人で倖せにやっております。ご安心ください。
もしも隊長とご一緒ならば、お伝えください。
俺は今、高麗で誰よりも強いはずです。
内功ではなく、武芸でもなく、護るべきこの方がいる。
それ故に、誰よりも強いはずです。
おっしゃいましたね。悲しみに沈む暇があれば、国の為に小石を拾え。
父上、母上、そして隊長。
俺はこれからも小石を拾い続けます。我が国の為、王様の為、民の為。
そして誰よりも、この方の進む道の為に。
戦に悩む事なき国を。敵に襲われる恐怖のない夜を民に。
飢えに苦しまぬ国を。その額に汗して作った作物を民に。
そして初めて己で選び、守ると決めた龍が自由に駆ける空を守ります。
その龍の行く手を阻むものを、全てこの地から追い払えるように。
その全てが、俺のこの方が笑える明日を創ると信じます。
この方が笑える国であれば間違いはない、そう信じます。
どうかお力をお貸しください。
俺は仏前に静かに合掌し、深く、頭を下げた。
そして誓杯。小さな杯に注がれた酒を、ちょうど三口で飲み終える。
「さて」
誓杯を見届けた和尚様がおっしゃって、大きく息をした。
「外で待っていらっしゃる方が大勢いらっしゃる。
御仏と先祖へのご報告は、これにて結ばれました。この後は、表にて」
和尚様の声に叔母上が頷くと、仏間から縁側へ続く扉を大きく開いた。

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うれしい瞬間なのに
なぜか ドキドキ ハラハラ…
笑いも? ウンスはいたってまじめだけどね
( ̄▽ ̄;)
さぁ みなさん お待ちかね ガーデンだ!
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さらんさん
本当に厳かな、心のこもった結婚式のお話に感動しました。
私も端っこの末席で参列している様に感じました。ありがとうございます‼︎
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やっと、ようやく、結婚できたねー、ヨン。
我慢我慢の連続、お疲れ様でした(//∇//)
これからは、夫婦です。家族です。
お互いを支え合いながらチェ家の歴史を刻んで行ってね。
ウンス、年齢も年齢なので、赤ちゃん早目にお願い、さらん様。
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とうとう誓いを(*´艸`)
私も待ってました!!
さて、これからが盛り上がりますね、皆の笑顔が、誰か泣きそうだけど皆で幸せになってもらいたいです。
続き楽しみにしてます
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良いお式ですね。
ウンスらしいわ ww
さらんさんの思い描くウンスのウエディングドレスっどんなかなぁ
さらんさんの匠な文章から読み取りたいです。
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さらんさま❤︎
厳かな婚儀の席に、そっと参列させて頂いているような気持ちで拝読いたしました。
今日も臨場感あふれるお話、本当にありがとうございます。
そして、誠におめでとうございます。
婚儀までの間、あれこれと走り回っていた忙しいヨンには、仏前挙式の作法を教えるところまでは気がまわらなかったのですね。
それでも隣のウンスに始終気を使うヨンは、相変わらず頼もしく優しく、男前で(#^.^#)。
実は私も自分の婚儀(神前結婚式)の際、まったく作法を知らず、ドキドキしちゃいました。
弟の婚儀は教会式でしたが(無宗教家庭で育ったため、姉弟とも“形”だけの節操無しです…とほほ)、うっかり者の私は、フラワーガールでも無いくせに、花嫁より先にヴァージンロードを2~3歩ほど踏んでしまいました(´Д` )。
おっと! そんな ろくでなしの反省など捨て置いて頂き…、愛する人と結ばれるなら どんな形式の婚儀でも尊いのだなあと、しみじみと感じた佳き日です。
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おめでとう!と、読んだ後に
つい言ってしまいました(笑)
お話だとわかっていたのに
なんだか、じーんときたのと
ウンスらしいなあ、好きだなあと
思いました。
ありがとうございます(*^^*)
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さらんさんこんにちは♪
ぷぷ
ウンスはわざと?(* ̄∇ ̄*)
現代人だから解らず?
結婚式もなにかやらかすウンスさん
これからも
なにかしらかすんだろうね(*^^*)
ヨンのあの焦って「ギョ」とした顔が
浮かびました!( 〃▽〃)
そんな幸せな結婚式を
ありがとうございました。
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和尚さまの言の葉に
清々しい気持ちになりました。
ヨンとウンス
お互いを思い遣り愛に溢れた
二人の婚儀に感動です❤
さらんさんの
信義を愛してくださる思い溢れた
お話に感謝いたします(^^)
さぁ~次は宴会ですね~♪
楽しみです~❤
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とうとう、婚儀までたどりついたのですね。
…感無量です。
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こんな男がいるでしょうか。。
こんなリーダーがいるでしょうか。。
こんな生き方のできる人間がいるでしょうか。。
ヨンのひとつのひとつのまなざしと振る舞いの先には愛する人。
ヨンが願うのは、彼の周りに存在するすべての命ある者の幸せ。
ヨンは、燦然と輝くひと。
ヨンは、静寂の中で光を放つ人。
ヨンは永遠の憧れ。
さらんさんの描くヨンに、心震えています。。
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さらん様 素敵な御式です。やっとやっと・・・この日を迎えることができて。。良かったあ(^o^)
和尚さまも、王様も媽媽も、コモも、ヨンもウンスの誓いには驚いたようですが、将に核心のとこ、愛だ~~。
感無量です。ありがとうございました。