明日の婚儀。そう。もう明日。
「じゃあ、明日の用意をちょっとだけ」
そう言って私は立ち上がり、叔母様とトギに手招きをすると、寝台へお付き合い頂く。
パーテーションの向こうへ回って、寝台の上を見て
「これは」
叔母様が少し驚いたように息を呑み、寝台の上に広げた衣装を見る。
最後の夕暮れの濃い光が、窓から射し込む部屋の中。
その光で少し懐かしいような色に染まった、白絹の結婚衣装。
自画自賛だけど、でもやっぱり、何度見てもいい。
「白一色などと、心配したが」
「はい」
「たいそう美しく仕上がりましたね」
「でしょう?」
トギも驚いたように目を丸くした後、こんな素敵な衣は初めて見たとその手で語ってくれる。
「ありがとう。次はトギがお嫁に行く時、貸してあげるからね」
トギはその声に、顔を真っ赤にして首を振る。
「いつか会えるわよ、トギも。トギの運命の人に。
ううん、もしかしてもう会ってるのかもしれない。きっとわかるはず」
私の自信ありが気な声に首を傾げるトギに、笑い返しながら。
Something New
これを纏って私は明日、あなたと新しい門出を迎える。
これから永遠に一緒にいる。もう二度と離れないと誓う。
そしてあなたの色に染まりたいと願う、この婚礼衣装で。
もう離さないで。いつでも呼んで。イムジャ。あの深い声で私を呼んで。
もう離れないからいつも教えて。此処におります。あの愛する声で教えて。
そして大切にしまっていた懐の、お義母さまの編んだ飾り紐の包みをそっと開いて、上衣の胸元へ乗せる。
Something Old
お義母さまの想いが、明日あの人に届きますように。
お義母さまが、編んで下さったこの紐を通して、明日婚儀の席に あの人と一緒にいられますように。
お義母さまの心が、どうかあの人に伝わりますように。
きっと優しい指先で、ひと編みずつ編んで下さったはずだから。
次に王妃媽媽からお借りした、水晶に金細工を施した美しい簪を 衣装の上にそっと置く。
Something Borrowed
幸せな結婚生活を送る方に肖る為に。
先の世界でも皆が知るくらいに媽媽を愛した王様と、それほど深く愛された王妃媽媽に肖れますように。
もしもできるなら未来に残るお二人の悲しい歴史を、私がどうにかして変えてさしあげられますように。
最後に叔母様が尚宮服の懐から、短刀を取り出して下さった。
「私の護り刀です」
「ありがとうございます。大切にお借りします」
私はその小刀を一度胸におし抱く。きつく握り締めて、そして飾り紐の横に並べて置いた。
叔母様からお借りする刀。
あなたを守るために、いつも私は心に刀を持とう。誰かを傷つけるためじゃなくて、命を守る為に。
私の刀はいつだって、大切な人を守るために握る。
もしも誰か傷つけるとすれば、理由はたった1つ。あなたを守るためにだけ、私はきっとそれを振る。
万一そうする時には絶対に迷ったりしないって決めているから。
そしてよっつめの Something Blue
それは引き出しの奥、今はまだそっとしまってある。明日の夜まで、あなたには内緒。
息を大きく吐いて視線をあげる。
叔母様と、そしてトギと、2人がじっと私を見てくれる。
懐にしまった、トギから貰った花言葉の手紙。
叔母様が貸して下さった、大切な覚悟の小刀。
私にはこうして独身最後の夜を過ごす大切な人がいる。
でも、あなたは?
ううん、あなたと一緒にいたい人はきっとたくさんいる。
でも、あなたはきっと1人でいる。1人で静かに私達のあの家にいる。
離れにはタウンさんとコムさんがいてくれる。
たくさんの人が今、明日のあなたの幸せを祈ってくれる。
でも、あなたはきっと1人でいる。
もう寝てるかも。私の事なんて考えてないかもしれないけど、だけど。
「あの、叔母様」
あなたを守る小刀の覚悟の意味を、無言で教えてくれた方。
「トギ、あのね」
私達の為に、世界で一番素敵な花言葉を選んでくれたはず。
「すぐ帰って来る。だから心配しないで。2人とも明日に備えて、もう休んで下さい」
お借りした大切な道具や装身具を布に包み直して、寝台の横の引き出しにしまいこむ。
そして寝台の上の花嫁衣装をハンガーにかけて、上から念の為に布で覆う。万一シミでも着いたら大変。
最後に叔母様とトギに大きく頭を下げて
「明日、よろしくお願いします!」
私はそう言って部屋を駆け出した。
走り出した背を呆れて見られてるのなんて知らなかったし、
「あ奴の処だな」
叔母様の声にトギが頷いてたのも、もちろん知らなかった。
続いて部屋を出た叔母様が、そのまま扉の影の武閣氏オンニに、私を守るようにって言って下さったことも。

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そうそう 逢いたいね~
自分は 幸せな時間を 共にする人が居るのに…
ヨンは? 気になっちゃうわね~
ウンスのこころなんて お見通し~
ヨンのことだけ! ♥
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さらんさん♥
婚儀の準備もすっかり整い、あとは晴れの明日を待つばかりのウンス…。
ヨンに誂えてもらった白い婚儀衣装、ウンスに映えるでしょうね♥
それにしても気になるのが、Something Blue…。
引き出しの奥…。
明日の夜…。
ええっと…、たしか目立たぬところに着けるのが良いんでしたっけ?
つまり、ヨンだけが見ることができるもの…?
(///∇//) な、なんだろう…。
現代風だと青いリボンの付いたガーターベルトや下着…?
ま、まさか…♥♥
ウンスなら、それも有り…?
いずれにしても、ドキドキです。
さらんさん♥
今宵もワクワクするようなお話をお届け下さり、ありがとうございます。
寒い師走ですが、気持ちはぽかぽかです。
ウンスではありませんが、マイチュホン(PCです)とともにヨンの元に駆けていきたい気分です。
え? 邪魔だ? …もっともです。しょぼん。
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さらんさん
おはようございます。
寿きを読んでは、威風堂々を読み返して…を続けて、また感動を新たにしていました。ウンスとヨンの両側からの描写は本当に面白い!
年末のお忙しい時でしょうが、楽しみに続きをお待ちしています。