目の前のウンスの顔色が、目に見えて蒼くなる。その額にいやな汗が浮かび、震えた唇が色を失くす。
それでも黙ったままの甥嫁に声を掛けるべきか掛けざるべきか、私の瞬時の逡巡の間に大きく息をして、ウンスが自身で気力を奮う。
強い女人だ。いや、強くなった。最初に会うた時と同じ女人とは思えん。
あの頃はきゃんきゃんと煩いばかりの女子と思うたが。
勝ち気なだけで世情には疎く、愚かではないが賢くもない。立ち回る方便も知らず壁にぶつかり、散々痛い目に遭って。
徳成府院君が目を付けた時には、既にあ奴が抜き差しならぬ程この天界の女子に関わっておった。
そして徳興君が出て来た頃には、奴の心は完全に定まっていた。
止めもした。口を酸っぱくどれ程に危険な事か、噛んで含めて言いもした。
お前が絡めば余計に状況は悪くなると、手を引かせようもした。
あの向こうっ気の強い男が珍しく弱音を吐き、自らを哂うよう天界に逃げるか、とまで言いもした。
誰に対しても正面突破の道しか知らぬ男だ。
戦場であればともかく世間の事、皇宮の中の事ならば己の方が数倍もよく知っている。
黙って従っておれば良い、叔母としてあ奴の為にならん事は絶対に言わぬと自負があった。
あの方を、医仙を黙って天界に返して役目に戻れ。
そして遠からず目立たずに身を引いて、鉄原に戻り静かに暮らせ。
ムン・チフ殿の一件を、許婚メヒの一件を、そしてその後の七年間を知るからこそ、そうする事が最上の策と思えた。
お前が傷つく事など無い。もう十分に打ちのめされたろう。今再び徳成府院君や、徳興君と渡り合う必要など無い。
あの医仙を攫って来たのは王命だろう。お前が気に病む必要など無い。
約束を果たし天界へとお返しし、そして好きなように生きるが良い。
死ぬな。ウォンジク兄上の息子として、私の甥として。
死に場所を求めて生きたりなどするな。
あの頃あ奴の周りには、己と手裏房とそして迂達赤しか居らなんだ。
そして我らの誰一人として、死に憑りつかれ魅入られたあ奴の心を変える事など叶わなんだ。
あの昏く愉し気な目で人を斬り捨てる、兄貴分のヒドですら。
山から連れ帰った、懐こい仔猿のような弟分のテマンですら。
まさかその面倒に引き摺りこんだ張本人、天界からいらした医仙があ奴の嫁御になるなどと夢にすら思わず。
そう思いながら、もう一度卓向かいのウンスを見つめる。
確かに美しい。しかし女人の美しさの花の命の短さは知っている。
この女人には、その花が枯れた後にも残るであろう何かがある。
無謀さとは愚直な程の真直ぐさ。我儘さとはそれを押し通す強さ。
そして何より、その笑い顔だ。
幼子のようなあけっぴろげな、何も考えず楽しいから笑んだ、そんな笑い顔だ。
そうでない事は、今の私達なら誰もが知っている。この甥嫁が、どれ程に肝の座った女人なのか。
考えた挙句に、笑うことが最良と選んで笑っている。笑わねばやっていけない事を知っている。
笑うことが己を、そしてあ奴を、そして周囲の者を安堵させると知るからこそ、笑っている。
「ウンスヤ」
私の声にまだ強張った顔で、目の前の甥嫁がその首を傾げる。
先刻まで卓の下に隠していた手は、今は卓上に出ている。
こうしたものは、柄ではないのだが仕方あるまい。私は卓越しに手を伸ばし、その手を握りしめる。
「案ずるなよ」
急に握られた手に目を落とし、その吃驚した目が再び私を捉える。
「そのまま笑っているだけで良い」
「え?」
「その笑い顔で、あ奴は救われる」
私は握った手にゆるゆると力を込めて、呆れた顔を作って見せる。
「何しろ金にも地位にも興味がないからな。褒美は笑い顔で良い」
「叔母様」
「帰って来たら笑ってやれ。何か成せば笑ってやれ。ただ笑え。
あの馬鹿はその笑い顔見たさに、我武者羅に役目をこなす。
笑い顔ひとつで大護軍が役目に邁進するなら安いものだと思って、笑ってやってくれ、ウンスヤ」
笑えない程辛い時は、私たちが力を貸そう。
ウンス、お前がどれ程辛い思いの後に笑っているか知っている。
そのお前にこれからも笑ってくれと頼むのが、どれ程身勝手かも。それでも
「笑ってやってくれ」
そう頼む叔母心をウンス、お前ならきっと知っている。
それが証にお前は暫し口を噤んだ後に、ようやく赤みの戻った顔で
「お安い御用です!!」
そう言ってまた、季節外れの夏の大輪の向日葵のように笑ったからな。

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30台、チェヨンが大好きです。手を繋ぎ寝台に横になるシーンがすきです。
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さらんさん♥
ウンスにとっては高麗の母とも言えるコモから
贈られた言葉は、とても含蓄のある一言ですね。
またまた深く考えさせられました。
ありがとうございます♥
“笑っていれば、それでいい”。
ああ…たしかに、我らがヨンは、ウンスの笑顔に
滅法弱いですものね。
自分はいつも眉間に皺を寄せていますが、ウンスと
二人きりの時には、蕩けるような眼をしてくれる
ヨンなのでしたよね♥
柱から見ている私は、そのギャップに毎度毎度
勝手に撃たれて 悶え倒れているのです。
誰も起こしてはくれないので、気が済むまで倒れたら
あとは一人で起き上がるしか無いのですが…。
コモ、ほかにも良いことをおっしゃってますね!
“その花が枯れた後にも残るであろう何かがある”
すでに枯れかけている私には…、いえ、もしかしたら
最初から花開いてもおらぬかも知れぬ私には
いったい何が残るのだろうかと、我が身を振り返り、
「よおし! まずは明日から仕事を頑張るぞ!」と
意気込んでみました!
…あれ? 明日はたしか、仕事納めだ…。
チュホン~!(My Pcの名前です)
そろそろ失礼するよ~(・・。)ゞ
さらんさん♥
いつも素敵なお話の場を汚して ごめんなさい。
毎回、毎回、感動しつつ拝読しているのに、
恩を仇で返す私を、死なぬ程度に鍛えて頂きたいです。
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「褒美は笑い顔で良い」
「お安い御用です!!」
最強女人の叔母様とウンス!
この二人が居れば
ヨンは無敵ですね~(^^)
婚儀宴までもう少しですね♪
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あんにょん♪
年末の気ぜわしい時なのに
日々のUPありがとうございます。
このシリーズはPC横にテイシュ&タオルハンカチを
置いて、拝読しないとうるうるです(>_<)
思量深いチェ尚宮のヨンを想う心境を
この様な文脈で描写されるさらんさんに
読み手として、最高、感動をありがとうです~~!
ウンスのウエディング姿あと少しで見れますね。
ヨンはあの瞳で見つめて、一時は動けないかもで~す!
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叔母様に そう言われると
もう それだけで 安心。
ヨンを任せると 言われた感じね~(゚ーÅ)
笑顔をみせてやってくれって お安い御用
辛い時もあるだろうけど ウンスは絶対守るわね。
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さらんちゃん、
もうどんだけ泣かせるのぉ…?
叔母様の言葉に胸が詰まって
堪える事ができませんでした。
「その笑い顔で、あ奴は救われる」
もー、また画面に向かって頷きながらティッシュ抱えました。
皆の想いが愛しいです。
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チェ尚宮、本当に頼りになりますね。
ドラマの尚宮も大好きですが、さらんさんが紡ぎだす尚宮の言葉、二人を護り通す気概を感じて、ますます「二人を頼みますよ」と感情移入してしまいます。
これからもチェ尚宮登場しますよね。