寿ぎ | 27

 

 

取って返せば宅前へと続く真直ぐな途の先。
あの方が門前でうろうろと立ち尽くしている姿が眸に飛び込んで来る。

案の定だ。やはり此処で待っていた。
「イムジャ!」
途から大きく声を掛け門先で鞍から飛び降りると、出て来たコムが
「テマンさんもついていました」
大きく笑んで、慣れた様子でチュホンを厩へと牽いていく。

そして門前のこの方が俺の胸へと飛び込んで来る。
その白い衣のまま、結い上げた髪のまま、花嫁衣裳のままで門前で。
目立つことこの上ない。幾ら周囲には婚儀の日と知れてはいようと。
これではあなたが一人きりの花嫁御料と、無言で報せるようなものだ。
そしてこの俺は美しい嫁を放って役目へ走る、融通の利かぬ亭主だと。

「何故、中で待たずに」
「結婚式当日に花嫁を放って仕事に行く旦那様に、恨み言を言うためよ」
そう言いながらこの方が笑い、俺にそっと寄り添う。
そんな可憐な恨み言など、今まで聞いた事もないが。
「イムジャ」
「なあに?」
「王妃媽媽と王様のお出ましを、いつから知っていましたか」
「・・・何の事かしら?」
「全て計画済みですね」
「やだー考え過ぎだわー。いやーねー、そんなに妻を疑うなんてー」

酔っておられるか、誤魔化しておるか。どちらかだな。
昨夜の吉祥の花言葉の一件で、典医寺では確かめるのを忘れていたが。
「ウンスヤ」
「・・・はい」

俺の声が少し厳しくなったのを聞き、肩を落とすこの方を見てしまう。
これ以上何か言うことなど、どうして出来るものか。
「王様、王妃媽媽に関わる事は、必ず俺にお話し下さい。良いですね」
「分かった。ごめんなさい」

俯くこの方を見るだけで、目許が緩んで仕方がない。
分かって頂ければもう良い。俺こそきつく言いすぎた。
怒ったわけではない、怒ってはおらぬから顔を見せてくれ。

そう言いたくて仕方がないが、甘い顔は見せられまい。
未だ手裏房も迂達赤も武閣氏も禁軍たちも、俺達を知る客人ばかりが宅にいるのだ。
そんな愚かしい姿を見つかれば、この後生涯の語り草になる。

庭に戻れば酔客たちは案の定、何もなかったように俺達を迎える。
俺の戻りに気付くのは、声も掛けず報せずに出たはずのチュンソクとテマン、そしてヒドくらいのものだ。

俺とこの方が戻る姿に、七竈の木影から静かな声が掛かる。
「ヨンア」
「ああ」
「声を掛けろ。何かあればどうする」
「気付いてると知っている」
「騒ぎを避けたか」
「仕方ない」

王様が動くと知れればまた面倒になる。王様もそれを危惧された。
騒ぐわけにもいかず、しかしこの方を残すなら。
それでも僅かに気が楽だ。チュンソクが、テマンが、そしてヒドがいる。

ヒドと俺の並ぶ姿に、この方が心から嬉しそうに笑う。
「こうして2人で並ぶと、ほんと」
「はい」
「笑っちゃうくらいそっくり。特に今日は、あなたも黒だし」
「・・・酔っておるのか」
この方ではなく俺へと確かめるヒドの声に、この方が応える。

「ううん、ぜーんぜん。いっつも思ってましたから」
ヒドが息を吐き、首を振る。
「見る目がないな、女人」
「え?そんな事ないわ、人を見る目には自信がありますよ?」
「こ奴と俺が、似ている訳が」
「ああ、それはヒドさんの自覚がないわー」
あっけらかんと言い放つ声に、ヒドと眸を交わす。

「外見は確かに、ヒドさんの方がちょっと大人ね。うん。でもムードがよく似てます。
中身?雰囲気?オーラかな、何だろう。ねえヒドさん」
「・・・何だ」
「淋しがりやでしょ」
「・・・・・・なんだと」
「1人でご飯食べるの、苦手なタイプでしょ」
「イムジャ」

さすがにそこまで踏み込めば、宴席とはいえヒドも気を悪くしよう。
だが制止の声を振り切ってこの方は続ける。
「でもお酒だけは体に良くないから、しっかり食べないと。
だからいつでもうちに来て下さいね、弟もいるんだし」

そう言って一人得心したように頷き、この方がヒドに笑いかける。
「1人でいたりしないでね、この人も心配するんですから」
「何なんだよ、ヒドヒョンにだけ飯の誘いか」
「俺たちもいるよ、天女」

立ち話を聞きつけたか、騒がしい無粋な若衆二人が割り込んで来る。
「ヒョンが一人のわけねえだろうに、なあ」
「まあ俺らはよく怒られるけどな。しつこいから」
「仕方ねえよな、好きなんだしなあ」
「そうだな、旦那とどっちも選べねえくらいだな」
「最近テマンが出しゃばるのが、ちょっと癪に障るけど」
「いや、あいつは良い奴だぞ」
「だけどヒョンの事一番好きなのは、俺らだからな」
「そうだな、それは間違いねえな」

若い酔払い二人が、そう言いながらヒドへとじゃれる。
それでもその声に嘘がないことがよく分かる。
ヒドは目を固く瞑り、眉間に縦皺を刻み、苦虫を噛み潰したような面でその戯言を聞いている。

「あ、でもヨンの旦那の事も好きだぞ、心配すんな」
「俺だって大好きだよ」
「別にいいけど、俺の方が好きだぞ」

酔払いはこれだから始末に終えん。変わり始めた鉾先に、ヒドが俺を眼で促す。
それに従いて俺と横のこの方は、シウルとチホを置き去りに黙って歩き始めた。

俺達二人の前、歩くこの方へ向け、庭の方々から声が掛かる。
「医仙!」
「おめでとうございます!!」
「今日の御衣装、本当にお綺麗です」
「どうぞ大護軍とお幸せに」

その度に足を止め、一人ずつの手を取り、顔を寄せ、笑い合い声を交わし合うこの方。
そんなこの方を半歩後で守りながら、横のヒドがぼそりと言った。

「お主が出て」
「・・・ああ」
「テマンも、大丈夫だと幾度も声を掛けた」
「ああ」
「笑っていた。心配しているのではないと。ただ待っていたいと」
「ああ」
「ヨンア」
「うん」
「二度と一人にはなれぬ。一人にもさせられぬ。生涯の対だ」
「そうだな」
「選んだのだな」
「いや」

振った首に、不思議そうな眼が当たる。
「ようやく逢えた」
「・・・弟と、弟嫁か」

諦めたように息を吐き、ヒドの眼が明るい空を仰いだ。
「一人で喰う飯は、不味い」
「ヒド」
「苦手だ」
「一緒に喰おう、ヒョン」
「・・・そのうちにな」

この肩を最後に叩き、庭を歩いて行くヒドを眸で追う。
そうだ、一緒に喰おう。
居てくれれば僅かに安堵してこの方を置き、ほんの短い間ならば離れられる。

ヒド、チュンソク、そしてテマン。
お前たちならばこの背を預けられる。この方の脇へ置ける。ほんの僅かだけ。
無粋な己が成すべき役目を終え、この方へと駆け戻るまでの間。

 

 

 

 

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6 件のコメント

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    自分を待つ姿が 想像できて
    想像どおり 迎えてくれる
    なんかも~ しあわせでしょう
    ウンスの隠し事もバレチャッタ! (→o←)ゞ
    かわいいわね~ そりゃも~
    デレデレしたいでしょうに
    裏から ヨンを支えてくれる
    頼もしい 兄弟たちがいるって
    ホントしあわせね~
    ウンスに逢えたから 絆も深くなるのだね

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    ヒドの言葉が涙腺を刺激して…
    もうみんな素敵すぎます!
    さらんさん!!
    本当にどの登場人物にも愛があふれていて
    さらんさんの愛情が込められていて…
    感動をありがとうございます!

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    どこまでもウンスに甘~いヨン❤
    ウンスが羨ましいです(^^)
    ヒドヒョンにも魂の片割れの
    運命の女性が現れたら良いですね♪
    さらんさんのお話に登場する
    キャラクターは本当に素敵で
    大好きです❤

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    さらんさん♥
    バタバタと仕事に追われる私に、
    一服の清涼剤のような素敵なお話をありがとうございます(#^^#)。
    一人っ子だったヨンには、いつの間にかヒドとテマンという兄弟も出来ていたのですね。
    高麗には両親も友人も居なかったウンスにも、同様に兄弟ができ、たくさんの愛する友人や大事な人たちができて…。
    これからチェ家の食卓も、賑やかになりそうです♥
    ああ、私も何か一品持参しますから、どうか一緒にご飯を食べさせて頂けないでしょうか…(〃∇〃)。
    さらんさん♥
    温かい婚儀の一日を、丁寧に描いて頂き、本当に嬉しいです。

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    黙して多くは語らず。
    でも一旦語れば、その言葉は真のみ。
    一瞬にして静から動へと変わり、大切な人達を護る。
    ヒド、良い男です(〃∇〃)
    少しの間でもウンスを任せられると思う人達がヨンにいる。
    さらんさんが紡ぐ言葉は、ヨンがそう思えることを、
    そう思える人達だということを、しっかり伝えてくれます。

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