寿ぎ | 7

 

 

Something New
二人の新しい門出を祝う、新しいもの。

Something Old
家族との縁をあらわす、古いもの。

Something Borrowed
幸せな結婚生活を送る方に肖る、借りもの。

Something Blue
純潔をあらわす、青いもの。

「やはり白い衣装なのですか、医仙」
「はい」

媽媽とチェ尚宮の叔母様の前で、私は意気揚々と何度も頷く。
この時代本来は王族しか着られない絹を、私が着てもいいかと王妃媽媽が王様にお願いしてくださった。
そのお礼に媽媽にウエディングドレスの報告をしていたところだった。

「高麗の絹では外聞もありますが、外国の絹なら何の問題もないと、二つ返事でお許し下さいました。
他ならぬ大護軍と医仙ですから。なれど」

前にもお伝えしていたけれど、やっぱり媽媽には驚きみたい。
大きな澄んだ瞳を丸くして、媽媽は私を覗き込んでもう一度ゆっくり確認するようにお尋ねになる。

「まことに白、一色ですか」
「そうです」
迷いなく勢いよく頷いた私を見て、媽媽はほんの少し眉を顰める。
「結婚式には白。私の所では花嫁にしか許されない色なんです。あなたの色に染めて下さい、という意味もあるみたいですよ」
「・・・面妖な」
チェ尚宮の叔母様が、ひそかに呟く。

「白絹で仕立ててもらいました。きれいだと思います。あの人には、すっごい散財させちゃいましたけど」
私の声に媽媽とチェ尚宮の叔母様が苦笑いを浮かべた。

「それで今日は折り入ってのお礼と、あとお2人にお願いがあって こうして来ました」
お願いという言葉に、媽媽が小首を傾げた。
「なんでしょうか」
「媽媽とチェ尚宮の叔母様に、お借りしたいものがあって」
その声に目の前のお2人が、お互いの眼を小さく見交わした。

「見当もつきません」
そうおっしゃって首を振られる媽媽へとにっこり笑うと、改めてお願いをするために、私は姿勢を正した。

 

「医仙。それならばお貸しするのではなく、御婚儀のお祝いに新しく仕立てて贈らせます」
お願いをお伝えした途端、驚いたみたいにおっしゃる媽媽。
私は媽媽のお言葉に首を振る。

「違うんです。それじゃダメなんです。幸せな結婚生活を送る方から “借りる”のが大切なんです」
媽媽は不思議そうにしていたけれど、それでも頷いて下さった。
「・・・分かりました。それならば喜んで。勿論お貸ししましょう」
チェ尚宮の叔母様も同じく。
「私も無論、何の問題もありませんが・・・」

よし、これで3つ揃ったわ。

Something New
二人の新しい門出を祝う、新しいもの。
それは、あの白いウエディング・ドレス。

Something Old
家族との縁をあらわす、古いもの。
チェ尚宮の叔母様からお借りする、崔家ゆかりのもの。

Something Borrowed
幸せな結婚生活を送る方に肖る借りもの。
これは媽媽から。

Something Blue
純潔をあらわす、青いもの。 その最後の1つは、もう決めてある。
私は胸に手を当てて、大きく呼吸を繰り返す。
決まった、良かった。あとはトギのブーケよね。

「大丈夫ですか、医仙」
胸に手を当てた深呼吸を心配して下さったのか、媽媽が少し慌てたように訊いて下さる。
「大丈夫です。すごく緊張してるだけで」
「緊張、ですか」
「はい。ほら」

胸を抑えていた手で媽媽の柔らかい手を握ると、この手の汗と震えに驚いたような目が戻って来る。
「本当に大事ないのですか、医仙」
「平気です。神経性の緊張だって、自分で分かってますから。今もし字を書いたりしたら、きっとガタガタですよ」

そう言って笑って、緊張性頭痛も出てる事は言わないでおく。
今でさえ心配そうな様子の媽媽にも叔母様にも、これ以上心配をかけたりしたら嫌だもの。

久し振りに味わったわ。昔は酷い時は吐きそうなほどだったのに。
でもそのお蔭でアスピリンも持ってたし、それがあの人に渡せたし。
そう考えたら、悪い事ばっかりじゃなかったって事よね。

ああ、私もだいぶ図太くなって来たわ。
まるでどこか他人事みたいにそう考える。
あの頃は患者へのインフォームド・コンセントも鬱陶しくて仕方なかった。
医療裁判に繋がっちゃうから、義務で仕方なくやってただけ。

これからはあの人を守るんだもの。
あの人の何より大切な体も心も、私が守るんだもの。
緊張したりするのも震えるのも、これで最後よ。

深呼吸して。チャン先生に教わった通りに。
お腹から息を吸ってそしてゆっくり吐いて、まっすぐ媽媽を見て。
「やっぱり、すごくドキドキしますね。自分でもびっくりしちゃう」
「・・・はい」

媽媽が優しく、穏やかに頷いて下さる。
そして震えたままの私の手を、逆に握り返して下さった。
「けれど、大丈夫です」

突然手を握られて、今度は私が目を丸くして媽媽を見つめる番。
「大護軍がいらっしゃれば大丈夫ですよ、医仙」
「・・・はい」

何だか泣きそうで、のどが熱くなって、私は瞬きでどうにか誤魔化す。
そんな私を媽媽と叔母様は、落ち着くまで卓向かいから見つめて下さった。

「医仙」
媽媽がそう言って私の前にそれは豪華な蒔絵と螺鈿細工の施された箱を、 そっと押し出して下さった。
「どうか、どれでもお好きな物をお選びくださいませ」
そのお声に、私は首を振る。
「媽媽」

まさか私が首を振るなんて、思ってもいらっしゃらなかったんだろう。
媽媽が本当に困ったみたいな、戸惑ったお顔をされた。
ここ数日で何回目かしら。ふと思いついて申し訳ないみたいな、でも少し楽しい気持ちにもなる。
「よく分かるんです、私も女ですから」
「・・・はい?」

目の前のジュエリーケースの中に並んだ、金銀宝石をあしらった眩しくて素晴らしい簪、櫛、ブレスレットやイヤリング。
窓から射し込む秋の光の中で、キラキラ輝く宝石たち。でもね。

「きっと、これは媽媽の御両親や、王様が下さったものですよね?1つ1つに、思い出がありますよね?」
「それは・・・ええ」
「媽媽が私を思って下さっても、私がどれだけ媽媽を好きでも、いえ」

私は媽媽を見つめて、もう一度しっかり首を振る。
「好きだから、勝手に触れたくないです。1つ1つに、大切な媽媽の思い出がこもっているはずです」
「医仙」
「だから媽媽が選んで下さるとうれしいなって。これなら私に貸して、その思い出が増えてもいいな、って思えるものを1つ」

そう言って人差し指を立てて見せる。
「それを、お借り出来ませんか」
「・・・本当に、妾の姉上は・・・」

媽媽は困ったみたいに、そのきれいに整った眉を少し下げて微笑まれた。

 

 

 

 

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7 件のコメント

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    こんにちは。
    早々の承認ありがとうございました。
    ゆっくり楽しみたいと思います。
    今後ともよろしくお願いしますね。

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    こんにちは、さらんさん。
    お忙しい中早速の承認ありがとうございました。
    年末年始の休みを利用して最初からもう一度じっくり読みながらさらんさんの世界に浸りたいと思います(笑)

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    純潔をあらわす、青いもの。
    何?何?
    もうすぐ分かりますね♪
    さらんさん~
    婚儀始まったばかりなのに
    感激の涙涙で読ませて
    いただいてます。
    さらんさん
    メリークリスマス❤
    素敵なイヴをお過ごしくださいね❤

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    さらんさん♥
    クリスマスに素敵なお話をありがとうございます。
    ヨンの居る高麗で生きることを決意したウンス。
    金の指輪も、衣装も、ガーデンパーティも、全て
    ウンスの我儘ではなく、ヨンのことが誰よりも
    大切だからこその それぞれ理由あっての選択
    なのですね…。
    媽媽とチェ尚宮のお二人から、どんなものを
    お借りするのか、とても楽しみです♥
    さらんさん!
    先ほど、待ちに待った新チュホンが我が家に
    やってきましたよ!
    以前のものより横尺が長いので、キー操作を
    ミスることが多く…。
    まあ、乗り鳴らすしかありませんね(*v.v)。
    チュホン! 頼むよ!!

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