寿ぎ | 19

 

 

秋の色があふれる庭。

普段なら “わぁきれい” って言える景色の中、典医寺から坤成殿まで、武閣氏オンニとようやく歩いた。

「医仙さま・・・大丈夫ですか」
「何かお手伝いしましょうか」
「私たちが裾を持ちましょうか」
周りのオンニたちが気にして声をかけてくれるけど。
さすがにそれはいいわって、私は首を振る。
「大丈夫、大丈夫」

通い慣れてるはずの道なのに。白いドレスって結構大変なのね。
やっぱり私はぶつかって転んで痛い目に遭ってみて学ぶタイプ。
シンデレラや白雪姫に憧れたりして申し訳なかった。正装がこんなに気を使うものだなんて、初めて知ったわ。

それでも汚したくない。一点の染みもつけたくない。
あの人に逢うまで。最高にきれいな私を見てもらうまで。
だから裾を持ち上げてるんだけど、そうすると両手が塞がるし。歩きにくいし、バランスは悪いし。

これでガラスの靴だったら、間違いなく転んでるとこだったわ。
やっぱりシンデレラじゃなく、高麗で良かった。
王子様があの人で、ほんとに良かった。

ようやくたどり着いた坤成殿、媽媽のお部屋の前で叔母様に会う。
叔母様は私のこの恰好に満足そうに深く頷くと、お部屋の扉へと声を掛けて下さる。

「媽媽、医仙がいらっしゃいました」
その声が終わらないうちに
「入って頂け」
すぐに戻った媽媽の声に低く笑って、両手が塞がった私を見ると、叔母様が扉を静かに開けて下さった。
「どうぞ、医仙」
「あ、ありがとうございます」

そうお礼をして、開けて頂いた扉からお部屋に入る。
いつもと同じ、窓からの秋の陽射しがたっぷり入る媽媽のお部屋。
媽媽は陽射しの中で、珍しく立ち上がったまま私を迎えて下さった。

まずは媽媽に頭を下げる。だけど・・・慣れない簪、落ちて来ないかしら?
裳裾からそっと手を離して、上げた頭の簪の具合を確かめる。
「医仙、どうぞお座りください」

媽媽が立ったままで私に椅子を示して下さる。
「あ、その前に媽媽」

私がそこに近寄りながら逆に椅子を手で示すと、媽媽は不思議そうに頷いて、素直に椅子へと掛けて下さった。
ああ、困ったわ。
自分の白絹のドレスが窓の外から入るたっぷり明るい 秋の光に反射して、媽媽の正確な顔色が分かりにくい。
いつもの通り媽媽の横へ腰掛けてちょっと行儀悪く袖を小さくまくると、媽媽のお顔の色を拝見して、その後にそっとその手首を握る。
「まずはちょっと脈診を」

そう言った私に、叔母様と媽媽が呆れた目を見交わされた。

 

*****

 

媽媽と一緒に、並んで馬車に乗って気づく。この前こうして媽媽と並んで乗ったのはあの時。
あの人が迎えに来てくれて媽媽の首のオペを終えて、そしてあの人の肝臓のオペの直後、初めて皇宮に向かう時だった。

媽媽はあの時黒い中国風の御衣装で、髪を高く結い上げていらした。
お名前は?そう訊いた私に無表情におっしゃった。
元の言葉か、モンゴル語かでのお名前を。
そして続けた。魏の国の王女だ、前の馬車に乗っているのは王様だって。
私は呆れて笑った。これは夢だ、悪い夢を見てるんだわって。

今日の媽媽は鮮やかな翡翠色の御衣装で、横に座る私の手に心配そうにそっと触れる。
「医仙、今日はお静かですね」
触れられて、そのお声にはっと我に返る。

思い出していた。初めてあの人と出会ったあの日。
高麗、恭愍王、魯国大長公主、崔 瑩将軍。
目の前で、生きて動いてる国史の中の有名人たち。

有名な王様の馬上絵をこの目で見ても、何億ウォンもするような高麗青磁にこの手で触れても、実感がわかなかった。

いつもの見慣れた江南の光、天門をくぐった後の一面の闇。
襲撃の後の荒れ果てた旅館、血と砂と埃の中でのオペ。

そのオペから一緒にいてくれた、大切なチャン先生の事。
最初から最悪な出会いだった、哀れなキチョルの事。
二度も毒を盛って、最後に片腕を失った徳興君の事。

一緒にいたくて王様にお願いして、もぐりこんだ迂達赤兵舎。
一緒にいるほど恋しくて、離れたくない、一緒に生きたいと願った事。
自分の意思でこの世界に帰って来たいと旅を続けた日々の事。
その日々に私を支えてくれた、大切なソンジンの事。
赤ん坊みたいな私に多くを教えてくれた劉先生の事。

今日までの、全ての日々が教えてくれた。目の前で生きてる大切な人の呼吸と心拍。
そのパルスだけが、何よりも確かな現実。何よりも守らなきゃいけない、私の全部。

そしてあの木の下で、ようやくもう一度巡り逢えた私のあなた。
今日、私はあなたの花嫁になる。

私のチャギヤ、永遠のソウルメイト。
どれだけ離れても必ず巡り逢う、私だけのベターハーフ。
この指に、世界で一番素敵な誓いの花を結んでくれた人。
あなたしか知らない。あなたしかいらない。
一緒に生きたい。もう、一生離れない。

「媽媽」
「はい」
「王様と、お幸せですよね」
「・・・はい」
私の問いに俯いて、恥じらうように頬を染めて、媽媽はそっと頷く。
隣で手を握って下さる媽媽の手が暖かい、それだけが現実。
「私たちもお2人のようになりたいです。だから媽媽は王様と、いつまでも幸せでいてくださいね」

たとえ儚い願いでも。歴史を歪めてしまうとしても。
夢見ずにはいられない。心から願わずにいられない。

だってこんなにきれいな秋の日だから。みんなが幸せでいられますようにと。
世界が、あらゆる色で溢れているから。笑顔がいつまでも続きますようにと。

 

 

 

 

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4 件のコメント

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    こんにちは♪
    うん十年前の自分の婚儀の時より 
    そわそわ、どきどき、わくわく
    しています~(笑)
    さらんさん❤
    その後、うぃんぱち君のご機嫌は
    良いですか?
    さらんさんもうぃんぱち君も
    ファイティ~~ン❤

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    いい事も 悪い事も
    いまはすべて 思いで。
    それがあったから 今がある
    今の幸せは そのお陰
    なんだか とっても しあわせな気分です
    私もね…
    ウンス 幸せを 噛みしめて…
    さぞかし 綺麗でしょうね。 ( ´艸`)

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    さらんさんこんばんは。
    いよいよウンス側からの婚儀
    ヨン側からの婚儀には賛否が別れたと…
    私は「え~ここで終わりぃ?」
    と思った側でした。(*^^*)
    先のジャンディ失踪も
    「え~ここで終わりぃ?」
    と思ったのは言うまでもなし(* ̄∇ ̄*)
    続きをお待ちしております!
    本家、信義の終わり自体に
    「え~ここで終わりぃ?」
    でしたのでつい二次作家さんには
    完結を求めてしまうのかも…(*_*)スミマセン
    さらんさんちのヨンとウンスも
    いよいよ終盤とても楽しみなのと
    初めからのお約束の終わりなので
    解っていても寂しいですわ。(*´-`)
    ではウィーンパッチンクンのご機嫌が良いことを
    祈りつつ…
    アジャアジャファイティン
    ( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆

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    さらんさん♥
    晴れ渡った青空の下、秋の花々が咲き誇る中、
    何ものにも染まっていない純白のドレスが
    しかと見えるような、幸せで素敵なお話を
    ありがとうございます♥
    さらんさんからの感動の嵐のプレゼントが
    続々入荷!という 超贅沢な日々に
    「なぜ、お前が?」と呆れられるほど
    心の中はオロオロと右往左往しております。
    できることなら私も一張羅に着替えて
    ご祝儀袋を握りしめ、婚儀に参列したい
    くらいですが、「場違いの大馬鹿者が!」と
    チェ尚宮様に怒鳴られそうですので
    さらんさんのお話を おとなしくお待ちする
    ことにいたします。
    さらんさん♥
    京セラドームは行かれましたか?(#^^#)

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