和尚様をお通しした仏間から失礼し、庭へと足早に駆け戻る。
その時起きた門の辺りの、ひと際大きな騒めき。
いらしたか。
あの方の到着であれば、先触れがあるはずだ。
それが届かぬまま此処へといらっしゃる方は唯お一人。
「大護軍、アン・ジェ護軍が」
目前を駆け抜ける俺に、慌てたようなチュンソクの声が掛かる。
「悪いが後だ」
足を止めず、禁軍が守る馬車がゆっくりと止まった門先へと駆けつける。
「アン・ジェ」
「おう、チェ・ヨン」
おうではなかろうと、張り倒したくもなる。
怒ってはおらんが、さりとて腹から赦したわけではないと。
俺の婚儀であろうに、全てを知る俺だけが裳裾を乱し、誰より駆けずり回っている。
全く、生涯忘れられぬ婚儀になる。
お前と叔母上のお蔭でなと、胸倉を掴み上げたくもなる。
「中にお乗りか」
アン・ジェへと尋ねる声に
「ああ」
奴は暢気に頷き返す。
門を護るコムと迂達赤。
血相を変えて庭から飛び出して来たチュンソクとトクマン。
予め口を封じられていたテマンだけが困ったように眉を下げ、チュンソクたちにしきりに何かを言おうとしている。
その馬車の扉外、頭を下げて格子戸越しに声をお掛けする。
「チェ・ヨンです。扉をお開け致します」
「ああ、頼む」
「は」
お許しを頂いた瞬間に僅かに肩越しへ眸を投げる。
馬車の内から返るその御声で一瞬で事情を察した迂達赤が、門前で揃って姿勢を正す。
それを確かめた次の瞬間、俺は格子戸に手を掛け静かに開く。
そこからゆったりとした所作で、王様が下りて来られる。
周囲の禁軍と迂達赤が全員頭を垂れる中、王様だけが御足を止め、そのまま晴れ渡る秋空を振り仰がれた。
「・・・大護軍」
「は」
「実に」
天へと向けたままの御目を細め、王様は満足げにおっしゃった。
「実に、佳き日だ」
*****
「チュンソク!」
出し抜けに大護軍に大声で呼ばれ、俺は驚いて振り向く。
大護軍とアン・ジェ護軍を先頭に、御邸の庭の最も母屋へ近い処へ設えられた玉座へとおつきになった王様は、満足気に御邸の庭の秋景色を愛でていらっしゃる。
今朝伺ってお庭に通され、守りを配置した後もまさかと思っていた。王様がどれ程に信頼を置かれる大護軍でも、そこまではあるまいと。
何処まで行っても一家臣の婚儀に、王様がお出ましのはずはないと。それならば、少なくとも俺には話があるはずだと。
先程王様の馬車が到着されるまでは信じておった。
「こうなった以上」
大護軍は苦虫を噛み潰すが如き表情で、吐き捨てるよう言った。
他でもないご自身の晴れの佳き日に。
「王様の御幸には違いない」
「は」
「必ず守れ。迂達赤の名に懸けて。出し抜かれたままでは肚の虫が治まらん」
「は!」
「何も知らなかったんだな」
「全く何も」
俺の返答に大護軍が鋭く舌打ちする。
「大護軍はいつから御存知だったのですか」
「昨日だ」
道理でそれでは俺たちに伝える暇もないはずだ。
おっしゃる通り。俺とて同じだ。いや、寧ろ今日は大護軍よりも俺の方が腹に据えかねる。
大護軍の婚儀のこの佳き日に、王様をお守りするべき迂達赤を差し置いてとは。
アン・ジェ護軍、それは余りではなかろうか。
皇宮を守る禁軍に誇りがあるよう、王様をお守りする迂達赤にも、大護軍の兵としての意地と誇りがある。
「必ずお守りします」
俺の鋭い語気に、大護軍が目を瞠る。
「大護軍の御婚儀も、王様の玉体も、何があろうと」
これ以上邪魔されてたまるか。此方にも、歴代の王様を守って来た迂達赤の自負がある。
まして今日の御婚儀の主役は、他ならぬ俺達の大護軍だ。
目に物見せてやる。どれだけ婚儀に浮かれていようと王様を御守りできるのは、迂達赤をおいて他にないと。
そして誰よりも大切な大護軍と医仙の婚儀を護るのは、この世の中に俺達しかおらぬと。
血相を変えて言い募る俺に、大護軍の目許が緩む。
「頼むぞ、隊長」

皆さまのぽちっとが励みです。
お楽しみ頂けたときは、押して頂けたら嬉しいです。
にほんブログ村
今日もクリックありがとうございます。
SECRET: 0
PASS:
はぁ~ 主賓が御到着…
うれしいけど お腹痛くなりそう
それでも 来てくれるって うれしいわ。
そさ主役はまだかな? ドキドキ♥
SECRET: 0
PASS:
迂達赤の名に懸けて……
何があろうと、
王を、一番大切なチェヨンとウンスを護る。
迂達赤のプライド。
くぅ~かっこ良すぎです( ☆∀☆)
SECRET: 0
PASS:
続々と皆様遅いですね(≧∇≦)
あとは、ウンスと王妃様!?
お二人は揃ってお出ましましになるのかしら…?
ヨンはウンスの晴れ姿が待ちきれないでしょうね❤️
だって、一番に見たいんだもん❤️
きっと美しい事まちがいないでしょう
(=´∀`)人(´∀`=)
もう、そこまで来てるかな❤️
楽しみです♪( ´▽`)
SECRET: 0
PASS:
ウンスさんは?
いやですよ波乱は。
待ちに待った婚儀の日なんだから
SECRET: 0
PASS:
ふたりの婚儀の場面、わたくしマジでPCの前正座して読ませていただいております。
こんな華燭の典正座して真摯な気持ちで読まなければと心が引き締まります。
でも、わかっておりました!
わかっておりました!
ウンスの登場はまだまだなんですね。
わかってはおりましたが、待ち遠しくてぇ
焦らず、良い子で待っております……
SECRET: 0
PASS:
二人を慕う人達が集まり緊張感が凄いです。
そして、とうとうってこの日が(((o(*゚▽゚*)o)))
風邪が流行ってますが無理をせずに。
SECRET: 0
PASS:
さらんさん❤︎
とうとう王様がおでましになりましたね!
その場の空気がにわかに変わったことや、王様の見上げた空の色や
色づく葉の揺れる様など、さらんさんの
絶妙な描写によって、リアルにイメージ
することができました。
まずは味方から欺く必要のあった
此度の行幸啓。
とはいえ、ウダルチとしてのプライドが
むくむくと首をもたげてきましたね。
うん、うん、わかるよ ヨン!
わかる、わかるよ、チュンソク!
けっして そんなつもりは無いのでしょう
けれど、アン・ジェの顔がちょいと
自慢たらしく見えてしまうのですよね。
それに、自分の婚儀だというのに、
あれこれ気になってしまい、
駆けずりまわるヨン…。
あ、私も自分の婚儀の際は そうでした。
タイムテーブルどおりに進んでいるか、
不手際は無いか、時計や客人の顔を始終
確認していたことを思い出しました。
ああイヤだ、イヤだ。
媽媽のように、毅然と、凜と、楚々として
いられりゃいいのに(´Д` )。
さらんさん❤︎
ご自分のときは どうされますか?
(#^.^#)
SECRET: 0
PASS:
「ウンスヤー」
まだ来ないの?
まさかテマンの
「医仙はうっかりだし」が
本当になったりして…(笑)
さらんさんのお話を
映像化して欲しいなぁ~と
心から願ってる今日この頃の私です(^^)
SECRET: 0
PASS:
とうとう婚儀の日がきたのですね~♡
いつもとても丁寧な表現で書き下ろしてくださるので、目に浮かんできてしまいます(*^^*)
ヨンはうっとりする位素敵で、ウンスは幸せのベールをまとったみたいで輝いてみえるんでしょうね~~♡