威風堂々 | 64

 

 

もともとが丈の高い美丈夫だ。顔だけ見ればそこいらの女人よりもよほど整っている。
まあ、あのように鋭い目つきの女人がどこぞにおればの話だが。

その大護軍が今日の佳き日、正装を身に纏い庭樹の下に佇む姿は、男の俺が見ても目を瞠るほどだ。

見事な漆黒の絹に筋雲を織り込んだ緞子。
胸に縫い取られた銀糸の麒麟が、秋の朝の陽を受けて輝く。

「おう」
御邸の西門から入る俺達を見つけて、大護軍が軽く手を上げる。
その顔に、滅多に見せぬ微笑みまで浮かべて。
「て、て大護軍!」

呼ばれた犬のように嬉しげに見えぬ尾を振り、テマンが正装の大護軍に向かって駆け寄る。
「医仙は、どこですか」
「まだ着いておらん」
「遅くないですか、大丈夫なんですか。お俺、迎えに」
「・・・テマナ」
「はい、大護軍」
「俺より急いてどうする」
「で、ででも医仙はうっかりだし」

俺達はじゃれ付くテマンの後ろより、ゆっくりと大護軍に近寄る。
そんな俺達へと向かい、大護軍は秋の陽の中静かに告げる。
「悪いな」
「何言ってるんですか!嬉しくて嬉しくて」
トクマンが叫びながら大きな笑顔を見せる。
「大護軍」
俺は一歩、大護軍に寄る。
「チュンソク」

言葉を繋げようとして、思わず己の咽喉を締め付ける涙に驚く。

礼儀も知らん生意気な若造が、迂達赤兵舎に踏み込んだと思った。
元赤月隊の最年少部隊長とはいえ、此方にも長年勤めた迂達赤の意地があると。

共に呑み、喧嘩へ首を突っ込むこの人を止め、笑い、泣き、土にまみれて散々鍛錬をして来た。
副隊長として後先考えず突っ込んで行くこの人の背を追い、数え切れぬ戦場で生死を共にして来た。
友を亡くし、互いに隠れて唇を噛み、心で泣きながら翌朝にはまた共に砂埃の舞う鍛錬場に立って来た。
二度と亡くさない。同じ過ちは犯さない。逝った奴を忘れない。無言のうちにそう互いに誓い合って来た。

そうして過ごした十年以上。今日この人が嫁御を娶る。

あの天界から、この人が連れていらした医仙。まさにこの人に相応しい、この世に唯一無二の女人を。
離れてもあれ程帰りを待っていたと、俺たち全員が知る方を。

本当におめでとうございます。
お招きありがとうございます。
医仙と幾星霜を経てもお幸せに。

どれも言葉が出ずただ黙り、深く深く頭を下げた。
大護軍が黙って大きな拳骨で俺の肩を軽く小突く。

 

大護軍が、木の下から門の方を見ている。
その様子を横に控えたままで俺は見守る。
こんな優しい顔の大護軍は出会って以来初めてだ。
嬉しいと思ってるのが分かる。でも少し焦ってるんだ。

多分待ちきれないんだろうな。

王様の事をずっと黙ってた。心が痛くて苦しかった。
だけど一言言っただけで、大護軍はそれ以上何も聞かなかった。
誰より大きい人だ。その背を一生護り追い掛けて行きたい人だ。

そして今日からもう一人増える。その背を一生守りたい人が。
大護軍と、そして医仙と。
俺の兄さんみたいな、父さんみたいな大護軍と。
まるで姉さんみたいな、母さんみたいな医仙と。

木に登って道の先を見てこようとする俺の腕を、大護軍が掴む。
「良い」
「だって大護軍、う医仙の到着が」
大護軍は照れたように、唇の端を少し上げる。

「俺が、一番最初に見たい」

大護軍のこんなに幸せな顔、俺は絶対に忘れないでおこう。
今日の陽射し。空気の匂いと風。もうすぐ散り始める紅い葉も。
そしてその下に立つこんなに幸せな顔をした、大護軍の笑顔も。

これから二人は、もっともっと幸せになる。
必ずこの世で一番、幸せになるんだ。

 

あの美しい医仙の嫁入りの日。
大護軍が庭に佇んで、医仙の到着を待っている。気の短い大護軍には珍しく、ゆったりとした表情で。
なあトルベ、チュソク。
医仙が大護軍の嫁御になるぞ。お前らにも見てほしかったろうな。

大護軍は何も言わないけど、俺には分かる気がする。
お前らの事を忘れたりしない。俺達の大護軍はそんな男じゃない。いつだってお前らの事を考えてる。
なあトルベ、チュソク。
いつかまた会ったら、俺が今日の事を全部話してやる。

大護軍は、えらく格好いいぞ。
いつもの鬼のような形相とは大違いだ。あの髪もきちんと撫でつけて、とんでもなく男前に見える。

そして俺達が一度も見たことのない顔をしてる。
優しくて、穏やかで、でも今までの どの戦場に立った時よりおっかなくて、強そうにも見える。

俺もいつか、こんな顔ができるような嫁を取りたいもんだ。
誰より巧い槍遣いになって、その槍で守っていく嫁を娶ったらその時は、絶対お前らに紹介する。
「トクマン、そろそろ守りにつけ」

隊長に声を掛けられて俺は頷き、その声の方へ足を向けた。

 

 

 

 

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25 件のコメント

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    さらん様
    毎日素敵なお話をありがとうございます。
    さらんさんのお話廃人になっています。
    いよいよ婚儀ですね。えらく格好よくてとんでもなく男前のヨンを想像してドキドキしています。早く婚儀のお話を読みたいけど婚儀のお話が終わってほしくないようなでもヨンとウンスにもっと幸せになってほしいし‥複雑な気持ちです。
    次のお話の更新が待ち遠しいです。
    くまみや様のクリパにも参加します。読むだけになりそうですがとても楽しみにしています。

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    ただただ 涙が出ました。遂に ですね。ヨンの待ちに待った、、、チュンソクが テマンが トクマンが 皆が待っていた日が来ました。トルベ達も見ていますよね!

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    あんにょん♪
    威風堂々シリーズが始まってから
    何回胸が熱くなり、自然と涙している私です(ー_ー)!!
    今日は家族がいるににも関わらず、ポロポロ(T_T)
    さらんさんのお話は大河小説をよんでいる様で
    2次とは思えない壮大な文脈、展開ですが
    微細にそれぞれの心理状態分かりやすいですヨン!
    ヨンが待ちに待った、ウンスとの婚儀さらんさんが
    どの様にお話をUPされるか楽しみです~~
    今回楽しいですよのお誘いで、くまみや様の開催された
    グルに参加させて頂きました。
    お誘い有り難うございます<m(__)m>

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    嬉しいねー
    涙がでてきます。
    そうね 綺麗なウンス…
    ようやく自分のもとにきてくれる
    ウンスの姿 自分が一番に見たいでしょうね
    しあわせを 噛み締めなくちゃ。
    自然とにやけちゃう♥。

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    素敵すぎます!
    テマンの、チュンソクの、トクマンの気持ちが痛い程わかります!!何度読んでも涙がでて…
    ヨン!嬉しいだろうな~
    みんなの思いと一緒に美しいウンスを待っているんだね!

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    凛と佇む正装のチェヨン。
    ウンスを一番に見たいチェヨン。
    強い絆のウダルチとチェヨン。
    美しい光景なんだろうなぁ~
    目に浮かぶよう……
    やっと迎えられた慶びの日。
    もう、涙 出てきそう……

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    さらんさん、こんにちは!
    もう、嬉しくて!
    二人の婚儀を前にして 興奮気味でございます!
    読むのがもったいなくて、ちょっとずつ読みました笑
    待っていたのは当の本人はもちろん、
    二人を取り巻くたくさんの人達其々にとっても
    待ち遠しかった、嬉しい日ですね。
    さらんさんの描く 秋の庭、陽射しの中に
    我らが男前、ヨンの凛々しい姿が目に浮かぶ様です 涙。
    テマンのくだりを読ながら、一人ニヤニヤ…
    外で読んだら、完全に怪しいオバチャンです!
    お話、楽しみにしています!

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    いよいよ、待ちに待った婚儀の日。
    やっとこの日がきたのですね。
    わくわく、どきどき、はらはら です。
    なんだか涙がチョチョ切れそうだぁ~

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    絹の緞子を纏ったヨンの姿が眼に浮かびもう堪らなく嬉しくなりました。
    しあわせをお裾分けしてもらったようで、さらんさん本当にありがとうございます。
    ウンスの登場楽しみにしています。
    もうドキドキが止まらないです。
    ニンマリしたり、泣けてきたり、うっとりしたり忙しいです。

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    待ちに待ったこの良き日を寿ぎ心からおめでとうを言わせていただきます。
    チェヨン君の晴れ姿をみて、涙が止まりません。
    どうかどうか幸せに!

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    やっとやっと待ちに待った日が来ましたね~
    嬉しくて思わずウルウルしちゃいましたよ~
    すっかり婚儀に参加してるつもりになってます。早くウンス来ないかなぁ~(*^^*)
    いつも素敵なお話ありがとうございます!
    クリパも楽しみにしていますね~(*^^*)

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    ついにとうとう婚儀の日が(*^^*)ワクワク*ドキドキ*私がしてどうするんだぁ?!ですが(^^)v
    ここしばらくのお話は、王様への苦言、叔母さまへの感謝、親友アンジエへの進言、そして婚儀前夜はウンスとの懐かしい思い出話、一つ一つが感動的で涙流したり、そうだったなぁと一緒に思い出に耽っていました!今日はヨンの弟分や支えてくれたウダルチの仲間を思うヨンにまたまた感激です(^^)v一番にウンスを**この思いだけでヨンが幸せなんだなぁと、あと少しでウンス登場ですね!すごーくすごーく楽しみです(^^)vいつもステキなお話をありがとうございます!

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    いよいよこの日が来たのですね。
    涙がちょちょ切れました(>_<)
    花嫁衣裳のウンスを見た時のヨンの気持を思うと今から胸が一杯です…。

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    「俺が、最初に見たい」
    その気持ち良~く分かります(^^)
    そして、チュンソクの気持ちに
    私も涙が溢れてきました。
    感動の婚儀に興奮しています
    さらんさん
    ありがとうございます❤

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    休日の朝、思いっきり寝坊して寝ながら読んで泣きました。ヨンの優しい笑顔が思い浮かび本当に嬉しくて嬉しくて。今日は一日幸せな気分です。さらんさん、いつもステキなお話をありがとうございます。

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    いよいよですねー(*≧∀≦*)
    私までドキドキです。
    はぁーー、ウンスの花嫁衣装にきっと、いや絶対にヨンはまたまた惚れてしまうんだろーなー。
    続きが気になって眠れませんわ(笑)

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    崔瑩様、ユ ウンス様、そしてさらん様。
    ご結婚おめでとうございます。
    輝かしい門出を祝福し、末永いご多幸と
    ご隆盛を心よりご祈念申し上げます。
    ああ…ついに この日が…(;_;)❤︎。
    さらんさん、本当におめでとうございます。
    そして、この佳き日を見せていただき、ありがとうございます。

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    すごく素敵なお話、いつもありがとうございます(^_^)
    やっと、やっと結ばれるのですね(´・∀・`)
    続きが気になります~!

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    感極まって号泣です。
    もう胸がいっぱい…。
    まだウンスも到着してないのに、
    今からこんな状態で、私は大丈夫かしら^^;?
    こんな幸せをわけて頂いてありがとうございます。
    楽しみに楽しみに待っていますね。

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