「・・・見つかったんですか」
待ち合わせた平虜領行きの船着き場。
船出を待つ俺達の眸の前、出船直前にあの男が駆け込んだ。
「あああ、良かった。良かったぁ」
切らした息の隙間で安堵したように呟き、火薬屋の膝が崩れる。
「騒がせた」
「本当ですよ!奥方様、堪忍して下さい。どれだけ走ったか」
秋だと言うのに額にびっしり珠の汗を浮かべた奴に、この方が
「ご、ごめんねムソンさん」
そう言って頭を下げる。
そのムソンに顎を下げ、この方の小さな白い手を握る。
「ではな」
「はあ、いってらっしゃい」
力無くふらりと振られる手に送られて、平虜領行きの船へと乗り込む為、桟橋からの渡し板を渡る。
岸辺に寄る波の所為で、浮くように揺れる渡し板。
その上を小さい沓が危うげに踏みしめながら進む。
人目さえなくば、このまま担いでしまいたい。
しかし碧瀾渡で顔が知れていると分かった以上、出来るのはこうして小さな手を強く握りしめ、支えるくらいの事だ。
先に舟板へと降り、その腰を抱えるようにして船へと乗せる。
細い腰を抱えて浮かせるようにすると、嬉しそうな笑顔がその背の後、高い秋の空と陽に溶ける。
まるで赤子をあやすような気分だ。脇を抱え、空へ掲げ、高い高いと言いながら。
ほらウンスヤ、高い、高い。
義父上も幼かったこの方をあやし、慈しんでいらしたろう。
だからこそ、慈しんで下さった御義父上に心からの御挨拶を。
船の上から船着き場へ眸を遣れば岸を離れた船へと向かい、ムソンが此方へと両腕を上げ大きく左右へ振っている。
「行ってきまーす!!」
この視線の先の奴に気付いたこの方が、舟板の手摺から半ば身を乗り出し、口に手を当て大きな声で叫ぶ。
きっとこの方は御義母上にも、毎日そう言って出掛けただろう。
こうして大きく嬉し気に伝え、くるりと前を向き、跳ねるよう道を歩いて、そしてある日そのまま帰らなくなった。
だからこそ、御心痛であろう御義母上にせめてものお詫びを。
「イムジャ、中へ」
手摺に凭れ船着き場を眺め続けるこの方の、細い肩をそっと引く。
その小さな体が甘えるように、ようやくこの腕の中へ収まる。
全ての運命がこの方と俺を、今日この時へと辿り着かせてくれた。
一歩でも違えれば、俺達は此処にいない。
こうして秋空の下、礼成江の風に吹かれ、婚儀の日を待ち詫びて腕の中に誰より愛おしいこの方を抱く事も無い。
この方の、俺の一歩一歩が、今の二人を作り上げた。
あの時天門をくぐった事で、全てが正しく結ばれた。
だからこそ、この力の続く限り護ると、永遠に続く誓いを。
初めて会った時も泣かせた。天門前でこの肩から下した時、この方は泣いていた。
殺すんでしょ、誘拐犯は顔を見られたら殺すって。
天を突くほどに大きな白い弥勒様の階に座り込み、白い衣を手術の後の血で赤く染め、幼子のように泣きじゃくった。
攫わねば、連れて行かねばと判っていて、心に棘が刺さった。
俺は誓った。某、高麗武者チェ・ヨン、我が名に懸け約束します。
治療が済めば、必ずお返し致します。
あの時の棘は、王命ならば逆らえぬ己への戒めのはずだった。
天の女人を攫う、まして弥勒様の足元で攫う。
この後で天罰を受ける覚悟はできている。
嘘吐き呼ばわりなど、この名に懸けて赦さんと。
けれど最初にこの方をあの大きな堂の中、溢れる光の中で見た時。
眸が離せずに、見つめ続けた時。
そして嘘吐き呼ばわりに、心に棘が刺さった時。
探し求めた神医を見つけたから、眸が離せなかったのだろうか。
王命に従い弥勒様の足元で攫うから、心に棘が刺さったのだろうか。
もっと単純な事ではなかったか。
あの堂で見た時、眸が離せなかった事も。
幼子のように泣きじゃくるこの方に、胸が痛んだのも。
今にして思えばもっと単純な事ではなかったのか。
見ぬようにして来た事。考えぬようにしていた事。
出逢って以来誤魔化して来た心と想いは、初めて逢った時走り始めていたのではなかったか。
今もこの方の泣き顔を見れば心が痛んで仕方ない。
刺さる棘はずっと鋭く、その痛みはずっと大きい。
ただ頬を拭うだけで、笑わせる事すら出来ぬ自分が恨めしい。
全て受け止めてやる。俺が付けた傷なら全て癒す。
せめて笑いながら泣けるように、力の限りで護る。
それしかできない、そして生涯そうすると誓いを立てる為に。
それらを成す為、天門へ。

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いいねイチバンだったかな~♪
ヨンア、やっと衣装を決められましたね。
ウンスとしては、もっとあれこれ一緒に考えたかったのに!って感じかな~。
でも、男性ってこういう時、何でもいいよ、って人多いですからね。。。
かくいう私は、女性ですが何でもいいよ派(^_^;)
さらんさんは、こだわり派?
何でもいいよ派?
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さらんさん❤ 今夜も私たち読者のために、しかと予約投稿して頂いたんですね…。いつもありがとうございます。
ヨンは、ウンスを攫ってきた当時よりも、今のほうが何倍も何十倍も、彼女を大事にしていますよね❤
ウンスもヨンにはとても素直になっているし(#^.^#)。
相手を想う心とは、これ程にまで人を変えるのですね。
さあ、いよいよ天門にてウンスの両親と対面?ですね。
義理堅いヨンの挨拶を想像すると、それだけでウルウルしてしまいそう…。
さらんさん、今夜はゆっくりお休みくださいね❤