威風堂々 | 36

 

 

「テマナ」
「はい大護軍!」
王様への拝謁を終え戻った兵舎。
兵舎の入口をくぐった処でこの姿を見つけたのだろう。
奴が駆け寄り、ぴたりとこの身の斜め横へ添う。

歩を止めぬまま鍛錬所を抜け、脇のこいつへ呼び掛ける。
戻る返答の声音はいつものままだ。
「チェ尚宮と、何を企んでいる」
「・・・え」

そこで初めて異変に気付く。こいつが俺の問いに僅かでも言い淀むなど。
「何だよ」
「・・・ええと、あの」
「テマナ」
初めて肩越しのこの眸を流し、テマンの顔を確かめる。
テマンは本気で困り果て情けない顔で頭を搔いている。

「あの、大護軍、実は」
「何なんだ」
「今日、大護軍が帰って来た時いなかったのは」
「ああ」
「う、医仙を、典医寺に迎えに行けとチェ尚宮様が」
「・・・医仙を」
「はい」
「何故」
「大護軍のこ、婚儀の事で」
「婚儀」

俺の婚儀であの方を迎えに行く。
百歩譲って、それは納得できる。
何しろ相手はあの方なのだから。
しかし納得できんのは、何故俺でなくあの方に話すかだ。
それもあの方の呼び出しにわざわざテマンを使ってまで。

「婚儀の何を」
「チェ尚宮様が医仙を連れてったので、詳しくは」
「テマナ」
「は、はい」
「何を隠してる」
チュンソクは言った。チェ尚宮がテマンを呼び出した。俺の命かと思っていたと。

そして拝謁の折の王様の御言葉。
悪い事は言わぬ。早めに策を立てよ。借りられる手は方々、全て使ってな。
迂達赤、禁軍、官軍、武閣氏、手裏房。
市井にもそなたを見知る民は大勢おろう。出来る限り加勢を頼むと良い。

俺の婚儀で迂達赤ならともかく、何故禁軍や官軍の助力が要る。
助けてもらう事など無い。
あの方と俺を見知る者なら誰が宴に参列しようとも構わない。
但し禁軍や官軍を率いて守るべき者など、その中には居らん。

ああ、うんざりだ。
ようやく天門であの方の御両親に御挨拶を成せた。互いの衣装も誂えた。
菩提寺に遣いを飛ばし、和尚様にお伝えもした。
あとはがーでんの宴を開く庭を決め、知る限りの奴らに日と刻を告げ、当日宴を催せば終わりではないのか。

皇宮の中には既に嫌と言うほど知れ渡っている。
誰かそのあたりの奴に一声掛ければ、数刻で広まろう。
市井の奴らへの報せは手裏房の手を借りる。
奴らの手を借りれば、そんな事は朝飯前だ。

それ以外に俺達を知る者など無い。
その報せの飛ばし方の相談か、もしくは宴の場所の提案か。
まさか兵を使ってまで、知る者に報せを飛ばせとでも言うか。

考えるのも面倒だ。俺には向かん。
成るように成るであろうし、成るようにしか成らん。
テマンを困らせても思う答は返りそうもない。

「・・・良い」
「大護軍」
そんな情けない面をするなと、頭を張りたくもなる。
「何か判ったら報せろ」
「絶対すぐに、か必ずすぐに」
「おう」

息を吐くテマンを脇に兵舎へ戻る。
婚儀が生涯一度きりなのは、この面倒が二度続いたら、大概の者が音を上げるからなのかもしれん。

兵の命に関わる事でも、国の威信や民の安全や、王様の御威光に関わる事でもない。
あの方を想う心は、あの天界の言葉は生涯不変と知っている。
ならば他に憂う事、思い煩う必要など何も無い。
後であの方に伺えば何もかも分かるだろう。

すぐそこだ。
久遠の誓いを交わせる日。あの方と俺の絆を永遠のものとする日。
俺があなたのものだと、あなたが俺のものだと。
すぐそこにその日があると判ってさえいれば待てる。

あなたが消える事はない。これから永遠に。
幾度生まれ変わろうと探す。探して必ず見つけ出す。
この強い想いだけが、あなたとの縁を結ぶ。

これから先、あなたが呼ぶ事も、俺が呟く事も無い。
そこにいる?
此処におります。

これから生涯を共に。いつでも誰より近くに。
手を握り、背に庇い、そして決して離れずに。
誓う日はすぐそこだ。

鍛錬場の隅の庭、色付き始めた紅葉が揺れ落ちる前。
蒼い空が冴え冴えと凍り、冷たい風が六花を運ぶ前。

もうすぐそこだ。

 

 

 

 

皆さまのぽちっとが励みです。
お楽しみ頂けたときは、押して頂けたら嬉しいです。

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村
今日もクリックありがとうございます。

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ

2 件のコメント

  • SECRET: 0
    PASS:
    いつもステキな小説ありがとうございます。さらん様の小説に魅せられて読み進めやっと追い付きました。でも毎日更新されているとわかっていても追い付くにつれて寂しくて…さらん様の小説の言葉使い、ストーリーや登場人物の人なりも上手く書かれていて圧巻です。読みながら何度辞書をみた事か…でもそれも楽しい。自分の事よりも相手を思いやる心。ため息ひとつ、素振りひとつで相手の心を探る…ステキです。
    もう一度最初からゆっくり読みますね。はぁ~ヨンかっこいい(≧∇≦)
    私は最近さらん様の小説と出会ったのでアメンバー申請は出来ないんですよね?私も一服処読みたい(T_T)
    江南ブルース見てきました。骨太なミンホ君はめちゃかっこよくて演技力にも感動しましたが血なまぐさい映画で血が流れ過ぎ‼︎
    目をふせたくなる場面が多くて…
    シンイのDVD欲しいなぁ~サンタさんこないかな~

  • SECRET: 0
    PASS:
    さらんさん❤ 
    ヨンのことが大好きなテマナにとって、隠しごとをするのは辛いし、大変ですよね~(+_+)。
    でも、「ヨンのため」と言われたら…ねえ。
    ただ、ヨンとてテマナは掛け替えのない家族であり、部下であり…だから、様子がおかしいこともお見通しですものね。
    テマナ~、頑張って~ヽ(^o^)丿

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です