向日葵【捌】 | 2015 summer request・向日葵

 

 

まさか門前払いとはな。
そこそこ予想はしていたが、最初から隠されるとは思わなかった。
あの方らしいと言えば、あの方らしい。
最後に見せて、此方を驚かせようという寸法だろう。

問題は、それが良い驚きかどうかだ。
あのびきにの時のように度肝を抜く奇抜な格好では困る。
何しろ生涯一度きりの婚儀だ。我儘も何処まで聞き入れてやれるか。

店を覗き込もうと欄干に下した腰を浮かせたところで、戸口から駆け出て来たチュンソクが左右を見渡す。
そして眸が合うと大声で
「大護軍!!」
そう言って往来を、此方へ真直ぐ走り寄る。
「・・・おう」

お前まで出て来てどうする。
そう言って奴を蹴り飛ばしたいのを堪える。
お前な、俺の肚を読むなら今だろうが。
敬姫様と残って、あの方がどんな衣装を仕立てるか見届けるのがお前の役だろう。

その反面、奴の肚は判る。
俺が見ぬものを自分が見る訳にはいかんと、慌ててこの背を追って来たのだろう。
変な処まで律儀で頭が固い。
「一先ず、刻潰しだな」

真夏の陽を遮るものも無い往来で、諦めて天を仰ぐ。
役目が退けた刻とはいえ、まだ陽は高々と上がり、大路一面に濃く短い影を落としている。
西に傾き紅くなるまでもう暫し掛かるだろう。
「申し訳ありません」

突然頭を下げたチュンソクに、意味が判らず奴の顔を見る。
「・・・何が」
「いえ、俺が大護軍の足止めをするなど」
「ああ」

チュンソク隊長、ヨンア連れて外に出て。
先刻あの方がそう叫んだのを、気に病んでいる訳か。
「お前につまみ出されたわけではない」
「それはそうですが」
「敬姫様は」
「医仙と、ハナ殿と共に中に」

その声に頷き、仕立て屋の扉までの距離を目で測る。
大路からそのまま誰かが中へもぐりこまれれば面倒だ。
欄干から腰を上げ、店へと歩み寄る背に慌てて従き、
「戻るのですか」
尋ねるチュンソクに、振り返らず首を振る。
お前も俺も出た店内は主も含め女人のみ。扉脇で待つしかあるまい。

「俺は入らん。お前は戻れ」
「いや、俺も外で」
「敬姫様が追い出したか」
「そういうわけではないのですが、どうもあの中に俺だけ居るのも」
「一旦戻れ、待っておられるかもしれん」
「・・・はあ」
溜息か相槌か迷うような声で、チュンソクは頷いた。

 

仕立て屋の扉を開けて店内へと戻った俺に、
「チュンソク!」
何故かおかしな声で呼び、キョンヒ様が嬉し気に駆け寄る。
「どうした?大護軍と共に戻ったか?」
そう言って体を傾げ、俺の後に続く姿が無い事を確かめて
「一人なのか」

俺を嬉し気に見上げるお顔に頷きながらも、赤い目が気に掛かる。
「キョンヒ様」
抑えた声で問い掛けると、キョンヒ様は笑みながら頷く。
「うん」
「何かありましたか」
「え」
驚いたように丸くする目で、尚更その赤さが際立つ。

「泣きましたか」
「うん。嬉しくて泣いた」
「・・・は?」
「嬉しくて、泣いたのだ。だからチュンソクは心配しなくて良いの」
「はあ・・・」
キョンヒ様は嬉し気に、柔らかな手で俺の下げた両手を握る。
店先での突然の触れ合いに振り解くことも出来ず、俺は唖然としてその手を見下ろした。

「心配してくれて嬉しいぞ」
「・・・キョンヒ様、御手を」
「どうして。許婚の手を握るのも駄目なのか」
「人前でそれは」
駄々をこねるかと思いつつ伝えると、キョンヒ様は暫く黙って俺を見上げ、呆気なく手を離す。
握られていたこの手は行き場を失い、ぶらりと体の脇へと戻る。
「うん、分かった。チュンソクは嫌なのだな」

嫌なわけではなく、と咽喉まで出た声を呑む。
どうした事だ。やけに聞きわけが良くなった。
僅かに眉を寄せる俺へ頷き、キョンヒ様は得心したように頷いた。
「それでな?」
俺の顔を眩し気に見上げ、まだ鼻声のまま言葉を紡ぐキョンヒ様を静かに見詰める。
「私たちの、婚儀の衣装だが」
「はい」
「チュンソクも一緒に見てくれるか?それとも私一人で決めようか」
「それは」

そんな事は考えもしなかった。 どうしたいのか、どうすべきなのか。
第一そうだ、俺達だけで決めて良いのか。
「儀賓大監や翁主様はどうおっしゃったのでしょう」
「まだ聞いていない」
「では、伺いましょう。まずご両親に」
「うん、分かった。一緒に聞いてくれるか?」

何なのだ。何故これ程急に変わられたのだ。
頭の中には疑問ばかりが浮かぶ。一体何があったのだ。
「キョンヒ様」
「どうした?」
俺は大きく笑むキョンヒ様の半歩前で、店の隅へと歩む。
キョンヒ様は不思議そうに首を傾げ、その後をついて来る。

 

 

 

 

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1 個のコメント

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    ほんの些細なことだけど
    ハナの言葉で キョンヒはちょっと大人に
    なったかな?
    チュンソクの心配も少し軽くなったかしら?
    だといいんだけど
    自分を頼ってくれる キョンヒの姿は
    さっきまでの まだどこか頼りげなお姫様が
    ちょっと大人になったかな??
    ぽっぽ感激!

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