比翼連理 | 43

 

 

「大護軍」
坤成殿、王妃の私室へと渡る回廊前。
最初の関となる回廊の入口を守る武閣氏らが構えた剣を下ろし、最敬礼でチェ・ヨンを迎えた。
「王様は居られるか」
「はい」

二人で回廊の左右を守る武閣氏の一人が大きく笑みながら頷いた。
「王妃媽媽とご一緒に、宝玉工に御面会中です」
「そうか」
「どうぞ」

二人の武閣氏はそれぞれ左右へ一歩退くと、ヨンの為に回廊への進路を大きく譲った。
ヨンは顎で頷き大きな歩で其処を抜け、回廊を進む。
残された武閣氏の二人が上気した顔で互いに薬指を指し、口に手を当て叫びを抑えているなど全く知る由もなく。

 

「大護軍」
坤成殿、王妃の私室前。
最後の砦を守る武閣氏副長と回廊に等間隔に立った武閣氏らが、そして部屋の扉前で最近を守る迂達赤の面々が。
回廊を進み現れたヨンに一斉に頭を深く下げた。
「王様は」
「王妃媽媽とご一緒に、お部屋の中にいらっしゃいます」
「チェ尚宮は」
「王様と王妃媽媽をお守りし、御部屋内に」
「お会いできるか」

武閣氏副長は穏やかに頷くと、王妃の私室の扉へ向かい僅かに声を張る。
「王妃媽媽。大護軍がおいでです」
「すぐにお通しせよ」
「はい」

遣り取りの間、通り抜けた回廊を背にして、室内の王の気配に集中し読んでいるヨンは気付かない。
背の後ろで回廊に立つ武閣氏たちが、扉前の迂達赤たちと共にそれぞれの左手を指して盛んに目配せをしている事。
頬を、口を抑え、ある者はその場で足音を殺して小さく飛び跳ねていることなど。

ただ背後の浮かれた気配に、王妃の部屋に踏み込む寸前、鋭く其方へ一瞥を投げる。
その瞬間どうにか武閣氏は、そして彼女らと目を交わしていた迂達赤は、直立不動の警備姿勢に戻っていた。

扉横のチュンソク、そしてチェ尚宮が頭を下げる中、ヨンは王妃の私室へ大きく踏み込む。
その瞬間、礼に適うよう頭を下げたままのチェ尚宮の視線が己の左指へ素早く走るのを視界の隅、見逃すことはなかった。
その眼。この指輪に関し既に何か聞き及んでいるのか。
チェ尚宮の視線を避けるよう、ヨンは左手を背に回し握り込む。
その悪足掻きにチェ尚宮が鼻で鋭く息を吐く。

絶対に何か知っておる。
後で怒鳴られるか、頭を張られるか。
何故なのだ。俺はあの方と静かに婚儀を挙げたい一心で。
他には何も望まぬ、頼むから皆放って置いてくれ。
怒鳴りたい声を喉元で堪えて唸る。
「失礼致します」
「待っておったぞ、大護軍」
扉前で顎を下げたヨンが、王の声に眸を上げる。
「・・・は」

待っておられるわけがない。
拝謁の前触れなしに、碧瀾渡への遠出の許可を頂くため、失礼を承知で突然康安殿を訪れたのだ。
そこで初めて宝玉工との面会を知り、そのまま此処へ駆け付けた。

合点がいかず、王妃と共に卓前へ腰かける王から嬉し気に掛けられた声に、小さく首を捻る。
王と王妃の前、卓向かいで立ち上がった男が深々と頭を下げている。
その卓の上の工具箱にヨンの眸が走る。

怪しげな物が入っているのは、少なくとも今は見えぬ。
並んでいるのは簪や笄、指輪、腕輪の宝玉で拵えた装身具の類。
ヨンは確かめた箱から、王へと眸を移す。

「そなたの助けを借りに、先程内官を迂達赤兵舎へ行かせた。それで来てくれたのではないのか」
「すれ違いかと」
「そうであったか、しかし助かった」
王は不躾なヨンの視線を気にすることもなく声を続ける。
「近う。見せて欲しいものがある」
「は」

ヨンは大きく歩を進め、卓の王の横へ立つ。
「そなたの指輪を」
「は」
「宝玉工に、見せてやってくれ」
「・・・は?」

唐突な王の申し出にさすがに語尾が跳ね上がる。
ヨンは苦労してそれを抑えつつ、王に向かい頭を下げる。
「王様」
「今、医仙にも迎えをやっておる。常の王妃の回診より刻が早い故」
「・・・王様」

どういう事だ。
何故また指輪の話が出てくるのだ。
昨日の王様のこの指輪に対するひとかたならぬご興味とご下問。
それに答えず無言を貫いた己。
巴巽村から戻り、王妃媽媽の回診をされたであろう俺のあの方。
俺が坤成殿についた時には、既に退出してお会いできなかった。

手裏房でのマンボとの遣り取り。そして寝屋での話の流れ。
結局あの方に確かめておらぬ。王妃媽媽と何を話されたのか。
昨夜の寝屋、あの方に囁かれた天界の言の葉で理性が飛んだ。
何よりもまず訊いておくべきであったものを。
まさか昨日の媽媽の回診時点で話してはおるまいな。
心の臓に繋がる指の輪の話を。この金剛石の意味を。

そんな事になったら二度と指輪を着け皇宮を歩く事叶わぬ。
ヨンは強張った顔で、王の顔から僅かに目を逸らした。

 

 

 

 

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5 件のコメント

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    さらんさん、こんばんは。
    今宵もお話を更新いただき、ありがとうございます。
    現代であれば、男性も指輪やブレスレットなどのアクセサリーは当たり前!という感じですが、装飾品よりも対面が大事なヨンにとっては、いたたまれない場面でしょうね。
    でも、これで「もう、はずす!」とならないことを祈ります。
    さらんさん、お話もさることながら、貼り付けて頂いた写真やイラストも本当に素敵ですね。
    イメージが深まります。
    相変わらず、センスいいなあ(*^_^*)、さらんさん。

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    え?え!?
    理性飛んだの?
    突然場面が変わったから、その後どうなったのか気になってたけど、そういうことなの?
    どっちも有りだけど、どっちなの?
    楽し~(*≧∀≦*)

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    今回の二人の指輪の画像、とても素敵です♥。私の中ではもう少しイカツイのをイメージしていたのですが、こちらの方が断然良い❗比翼連理、これからも楽しみにしてます(^∇^)。

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