比翼連理 ｜ 1

【 比翼連理 】

但敎心似金鈿堅　天上人閒會相見
在天願作比翼鳥　在地願爲連理枝

──　天にあっては願わくは比翼の鳥となり
地にあっては願わくは連理の枝となりましょう

******

「イムジャ」
宅に戻って開いた玄関から呼びかけると、廊下を走る小さな音が近付いてくる。

その足音の先が此処に続くのを知っている。
それでも聞き逃さぬようこの耳を、兎のように攲てる。
待つ腕の中小さな体が飛び込んでくるのを知っている。
だからこの腕は広がって、その温かさを待っている。
細い指が俺の無事を確かめる道筋を知っている。
辿られる道順の肌はもう既に、その指を恋しがる。

どれ程共に毎日を過ごしても、この気持ちには涯がない。
まるで岸から離れるごとに、なお深くなっていく広い海のように。

ようやく奪還した双城総管府。
その戦勝報告で王様にお願いした、俺達の婚儀。

これで全てがうまくいく。ようやくこの名を懸けた誓いが守れる。
幸せにする、一日でも一年でもなく、この命の続く限り護る。
だからその時には、返事を聞かせて欲しいと言った、あの時の誓いが。

何も要らぬ。あなた以外には何も要らぬ。
誰も要らぬ。あなた以外には誰も要らぬ。

この心が感じ、この指が求め、この足が向かうのはあなただけだ。
心が先に走りだし、この足を動かす。
この足が向かった先で この指が求めるものを強く握り締めれば、そこに必ずあなたがいる。

どれ程遠回りをしても、長く待っても、此処にいると繰り返しても。
今こうして共に居る事だけで、その全てが報われる。

俺の求める、この世で一つのみの対。 俺の魂の片割れ。
何度生まれ変わろうと、何処で逢おうと必ず見つける、俺の比翼連理。

一生守りたいと言ってくれたあの人。
私のチャギヤ。ソウルメイト。ベターハーフ。魂の片割れ。
どんな言葉でもあなたの事は語れない。
私の魂が求め続ける、ただ1人の人。

傍にいても恋しい、もっと傍にいたいと求め続ける、ただ1人の人。
我儘で手のかかる私に、愛していると言ってくれたあの人。

あの人の覚えた、2つ目の天界語。
最初は「パートナー」
そして「愛している」

私だって愛している。あの人がいない人生なんて、考えられない。

探して探して別れて泣いて、何度も天門をくぐって、どうしても戻りたかった。
1人でいる事も、1人にさせる事も耐えられなかった。

そこに、いる？

何度も問いかけて、あなたの姿を探して彷徨って。
もう一度逢えるなら何でもする。一緒にいられるなら何でも出来る。

何度も何度もあの天門を超えて、やっと帰って来られた。

もう離れない、一生側にいる。
あなたしか、知らない。あなたしか、いらない。

でもね。

結婚は、また別の話よね。

あの方に初めて教えられた天界の言の葉。
全てが伝わると教えられた、短い言の葉。

俺の心からの恋慕も、悋気も、今まで歩んだ道も、待ち続けた時間も。
その一言で全てが伝わると信じていた。

愛しているとお伝えしてより全ての事は、滞りなく進むと思っていた。

一生御守りすると誓った。此度こそ、我が名を懸けて。
一緒に住みたいのです、とお伝えし、あの方は
「一緒にいてあげる」
と、あの笑顔を返して下さった。

それこそが約束の全てではなかったか。
今生を共に、そして幾度生まれ変わろうと。
俺たちは運命の螺旋の中で、いつでも必ず再び出逢えるはずではなかったか。

私、まだこんなことを考えるような女だったのね。

結婚には、高い理想があったの。

素敵な指輪、ウエディングドレス、大勢の招待客、豪華な式場。
新婚旅行は長く休める絶好の口実だから、本当にHoney moonで1か月くらい。

分かってる。この時代じゃ無理だって事。

でも時々、どうしようもないくらい悲しくなるのは何故？

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