比翼連理 | 41

 

 

「みいんな」

ようやく戻った久々の宅、寝屋の寝台の腕の中で呟いたウンスに、チェ・ヨンは黒い眸を落とす。
「あなたのことが、大好き」

マンボの突然の祝儀の事を言っているのか。
長い睫毛の影を頬に映して、ウンスはゆっくり瞳を閉じる。
その影を指先で頬の上に追いかけ、ヨンは咽喉の奥で笑う。
「イムジャの事が好きなのです」
「なんにも判ってないとこも好き」
「俺は」

俺には好かれる理由などない。
ただ狂おしいほど愛しくて、この姿を追い求めずに居られぬだけだ。
命の限り、護りたいだけだ。俺のものだから、離したくないだけだ。
それが理由で好かれるならば、恋慕に身を焦がす男は、等しく世にその名を轟かせる英雄になっておる。
「ヨンア」
「はい」

夏の夜。
開け放った窓から寝屋を覗き込む、満月の視線。
肌を優しく撫でては過ぎる、涼しく軽い乾いた風。
刻を惜しむ蝉の鳴き声は届かない。
身を焦がす蛍の舞い飛ぶ光もない。
「ヨンア」
「はい」

静かな夏の闇の中で届く、甘い声。
「愛してる」
「・・・はい」

己の心の臓に繋がる指。割れず、欠けず、曇らぬ石。
空に鏤めた銀砂の冷たい光よりも、ずっと温かい星。
その星に、もっと温かいこの方の、小さな唇が寄る。

あなたが口づけて下さる、俺の心の臓。
こうしてまた生かす。何度も、何度でも。

忘れずにいよう。そして思い出す。
己の打つべき手が全て無くなり、絶望の淵に立った折。
頭を上げ首を巡らせ肚を読み、何としてでも生きて帰る。
あなたを泣かせる位なら、俺は誰であれ斬る道を選ぶ。

あなたを心から愛する俺はその代わり、死ぬ権利を失った。
そしてそれこそが、俺があなたに心から求めるものだった。
必要としてくれ。護らせてくれ。傍に居ると言ってくれ。
強い女でなくて良い。ただあなたのまま其処にいてくれ。
その涙も笑顔も、あなたの全て、俺の前でだけ見せてくれ。

あなたが俺にそうするように、俺はいつでも此処にいる。

あの黄色い花、この温かい星の誓いを永遠に護らせてくれ。
そしていつの日にか、その心も躰も、全てをこの俺にくれ。
心も躰も奥の奥まで、その鼓動も息も血の最後の一滴まで。

その時、俺は。
あなたに焦がれる俺は。
喰い尽してしまいたい俺は。

この金の輪に護られた心の臓をあなたに喰い尽くされ、
あなたのその金の輪で飾られた心の臓を喰い尽くして、
初めて心の奥底から、満ち足りた息をつくだろう。

「ヨンア」

夏の闇の寝台の上。
室内の小さな油灯よりも揺れて戸惑う、あなたの声が届く。

「・・・はい」
「えっと・・・・・・」
「はい」
「ちょっと、いろいろと具合が」
「・・・男ゆえ」
「今晩は、離れて寝ようか?」
「ふざけるな」

きつく囲い直したこの腕の中で、細い背が撓む。
骨が軋むほどに抱き締め、花の香の髪に鼻先を埋め、幾度も深く息を繰り返す。
「相性を、確かめますか」
「婚儀まで待つんでしょ」

鎮まれ、鎮まれと胸裡で繰り返す。
細い指先で弾かれれば、走りだしてしまいそうな心の臓を宥めつつ。

あのまじないを、もう一度。そうだ、ほんの目と鼻の先だ。
あなたと互いに浸食しあい、全て溶け合い満足の息を吐く。
その前に、次は白絹の婚礼衣装。
亜麻色の髪、鳶色の瞳、白い肌、俺のこの方にどれ程映える事だろう。

夏の夜、寝台の上。
髪に鼻先を埋めたヨンの低い忍び笑い。
ウンスは夜目にも鮮やかに、小さな耳朶を真赤に染めた。

 

 

 

 

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6 件のコメント

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    初コメントです。
    ヨンとウンスは、周りの人たちを幸せにしていきますね? 美しい花嫁のウンスが楽しみです。しかし、お預け食らってるヨン。可哀想です(≧∇≦)
    こうなったら、早く結婚式をしないと・・・。
    (≧∇≦)(≧∇≦)(≧∇≦)

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    こんばんは。素敵な情景が浮かびますね(^∇^)。比翼連理ではちょっぴり妬きもちヨンに出会えて嬉しいです。これからの展開、楽しみにしてます。

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    さらんさん、甘い甘いお話をありがとうございます。
    相性を確かめる?
    きゃあ、ヨンの口からそんな言葉が出るなんて…(*^_^*)。
    ドキドキです。
    ああ、私の大好きな「14番目の月」状態ですね。
    もどかしい思いもありますが、このもどかしい時が一番ときめくような気がします(*^_^*)。
    それでも、さらんさんのお話が1話、1話進むごとに、二人の距離が微妙に近づいているのを、しかと感じます。
    そこもまた、さらんさんの巧みなペンの力…、キーの力なのですよね。
    しかも! 本筋のシンイのほかに、花男のお話までもアップして頂き、感謝感激です。
    さらんさん、お体にだけは気をつけてくださいね。さらんさんファンの私たちのためにも(^o^)。

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