「イムジャ」
女鍛冶の工房を出で、庵へと向かう帰り途。
横を歩む小さな背、上がるその顔を確かめてチェ・ヨンはウンスへ低い声で告げる。
「幾度も言いますが」
「なあに?」
ウンスに見上げられながら、ヨンは気まずげに呟いた。
「皇宮では諦めます。既に周知の事実故。しかしやはりこうした外の場所、人前では」
「人前では?」
「僅かばかり・・・控えて」
「何を?」
「ですから・・・」
ヨンは己の物言いの通じぬウンスに、眉根を掻いて告げる。
「照れておるとか、二人の時にどうとか」
「ああ!!そういうこと!!」
ウンスがぽんと打った手に、通じたかと安堵してヨンは頷いた。
「何で駄目なの?ほんとの事じゃない。今さら鍛冶さんに嘘ついてどうするの?」
けろりと続くウンスの声。やはり全くお判りでないのだ。
落胆の余り落ちそうな肩を堪えて、ヨンは背筋を伸ばす。
「それは」
「私が本音を言ったから、鍛冶さんだって言ってくれたじゃない」
「・・・そうですが」
事実故に、チェ・ヨンにも何も言えない。
今まで長く付き合ってきて、鍛冶があそこまで言ったのは初めてだ。
肚を読むのではなく曝け出させる。そうして誰も彼も味方につける。
ウンスの天賦の才の一つだと、ヨンは咽喉の奥で唸る。
とてもではないが己には、出来るような事ではない。
そして不思議なのだ。
ウンスを攫って来て以来、己は醜態を晒してばかりだというのに、気付けば周囲に馬鹿ばかりが集まっている事が。
どいつもこいつも自分の事は二の次で、大護軍大護軍と呼び掛け、医仙医仙と慕い、集まって来る。
ウンスの味方になるならば判る。ウンスを手に入れた己に敵意を抱くなら、対処は楽だ。
ところがそうしたわけでもない。
ウンスを護る己の為に、命を張る馬鹿ばかりだから疲れる。
全くどんなまじないを使っておるのだと、ヨンは己の横を弾むよう歩く、亜麻色の揺れる髪を横目で見遣る。
蜩の高い声が響く、夕暮れの庵前。
夏の夕陽は西の空を緋黄の濃淡に染め上げたままだ。
吹く風も昼の熱を孕んでいる。藍の出番は未だ遠い。
椅子代わりの切り株に腰掛けたヨンは緋の光の中、膝に乗せた箱を開く。
金の輪に嵌めた金剛石が西陽を浴び、僅かに朱を纏う。
その光る指輪をヨンは指先で摘まむ。
「さっきはよく確認できなかったけど、ほんとに」
ウンスが、ヨンの大きな手許、指先を見て、うっとりと呟いた。
「ほんとに、綺麗」
「・・・ええ」
皆が磨いた。美しい方の為に。その一言だけは気に喰わんが。
確かに細く白い指に、この光る指輪はどれ程映える事だろう。
その心の臓に繋がった指に飾る、割れず、欠けず、曇らぬ石。
俺に誓えと、教えて下さったこの方。
それを身に着け、誓って下さるこの方。
誓いの花、新たな誓いの石。俺の瓶の中、もう一つ宝が増える。
彩と光で溢れた心が殺風景に凍る灰色の風景になる事は、これから二度とない。
その彩と光とで飾る掌中の珠のこの方は、何にも増して大切だ。
膝上の箱を落とさぬ小さな動きで、指輪を摘まむ逆手で。
横にある無防備な小さな左手を、出来る限りそっと握る。
小さな掌を西陽に翳すように上げ、細い薬指にゆっくりと、金の輪を差し入れて行く。
その根元まで納め、緩すぎずきつくない事を確かめて、詰めていた息を深く吐き出す。
「お似合いです」
俺の呟きに、この方は白い歯を覗かせて笑む。
そしてこの左手を、この方の小さな手が握る。
膝上の箱の中、もう一つの金の輪を、細い指先が摘まみ上げる。
握られた薬指、心の臓に繋がる指に、あなたが金の輪を着ける。
ゆっくりと金の輪を滑らせる、その指の温かさが伝わって来る。
この心の臓、打つ脈に溶け込むように。
一度はあなたに止めてもらおうと覚悟した心の臓。
あなたがその息を吹き込みもう一度動かしたのだ。
好きにしろ。止めようと生かそうとあなた次第だ。
これで俺の全てはウンス、あなたのものだ。
そしてあなたの全ては、この俺のものだ。
この指に金の輪まで着け、離れられるなどと思うな。
誓いの石を嵌めた以上、二度と逃がすつもりもない。
俺はいつでも此処にいる。
連れて行け、ついて来い、この鼓動の涯までも。
傾く夏の西陽。
あなたが嬉し気に空に向かい、二つの手を並べて上げた。
二つの手、大小の影に切り取られた紅い空の向こう。
眸を射る西陽の眩しさに、思わずそれを眇め見る。
この大きな掌の影は、辛抱できずに横の小さな手の影を握る。
握って確かめる。新たに伝わる指の感触を。
その指にある輪の段にこの掌が馴染む頃、新たなあなたはまた、新たな俺の一部になるだろう。
焦がれているか。
焦がれているかとあなたに訊かれた。
焦がれている、どころの話ではない。
指に嵌めれば、己の心の臓になれば、少しはゆとりができると思うたものを。
その瞳に映るものも、その耳に届く声も。
その周りに寄る者も全て、もう今から後、許してやれるか自信がない。
指の金の輪一本でこれ程に、己のものだと思うなら。
あなたが真に俺のものになった時、俺はどうにかなってしまうかも知れぬ。
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さらんさん、おはようございます。
真夏の週末、一服の清涼剤のような素敵なお話をありがとうございます。
あまりアクセサリーを着けない私は、今まで指輪の意味もダイヤモンドの特徴も、さほど意識してはいませんでした。
でも、さらんさんのお話を拝読し、ヨンの心の声と決意を聞き、深い感嘆のため息をつきました。
生と死を間近に感じる時代に生き、それでもウンスの希望を叶え続けるヨンが、もう男前中の男前で。
でも、そんな男前のヨンにとって、一番手強い相手はウンスなのですよねえ。ふふふ。
さらんさん、今日はこれから仕事の打ち合わせです(^_^;)
気温が上がってきましたので、さらんさんも水分を十分にとってくださいね。
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もう…(///∇//) いいのに~♥
でもでも 1つづつ
ミッションクリアで
ウンスが 自分のものに…
近づいてくる 離さなくっていいんだよ~
指輪も 案外 いいな~って 思ってるよね
ヨン。
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熱烈な恋がしてみたい!!っと
我が子のように、そして
さらんちゃんともほぼタメな
ユチョンが言いました( ´艸`)
まさにこの恋は雲の果てまで~だな。
横浜ファンミ大ラスで
「日本でデビューできて・・ほんっと(涙)
良かった(涙)」
「幸せです・・・・ありがとう」涙で歌えない程。
それを今朝までも引きずって泣き
もう、これ以上泣けないわ!って
思って読ませて貰ったさらんちゃんの
時計が相変わらずの律儀な4444・・・・
なんだか、もうそれ見ただけでも
泣ける私こそ幸せすぎて大丈夫か?(笑)
で、一気に4話いいねを忘れるほど
引き込まれて・・予想通りのネックレス^^
鍛冶さん!ウンスヤ
頼むから早く採寸だけ( ゚ ▽ ゚ ;)
笑いと涙の感動ものなんて言葉で
いいのか?ってほど胸に響き
琴線なんてものが私にあるのかい?と
今でも半信半疑だけれど
確かに触れて揺れて・・・・・・・・・・・・・・
はぁ~置いたままの旅行鞄を
そろそろ片づけないと、です(*v.v)。
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ウンスは狙っての言動では無く、表裏無く素直、いつも思いのまま本音で行動するから、皆惹きつけられて、好かれるんですよね。
そして、その一番の魅力に魅了されているのがヨンですね(〃∇〃)
翻弄されてしまったりもしてるけど(^▽^;)
ある意味妖魔なのかも、まじないってヨンも言ってるし( ´艸`)
天然の小悪魔系要素あるのかも。
とにかく、高麗時代なんて腹の探り合いでしょうから、ウンスは唯一無二の存在ですね^^
今日の画像、西陽を受け指輪を付けたお話にピッタリですね♪
石は楕円かしら?それとも丸かな?
皆が気持ちを込めて磨いてくれているから、心がこもっている指輪ですね。
埋め込みタイプなら普段使いに最適だし^^
ヨンも気に入ってくれて良かったですね(o^-')b
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キャ~、、、甘すぎます。
キュン死しそう。
ヨンはウンスに甘いですね~