比翼連理 | 21

 

 

「ねえねえ、教えてってば」
諦める様子はなさそうだと、チェ・ヨンは息を吐く。
この方は何故それほど熱心に婚儀を知りたがるのか。
御自身の望む婚儀で構わぬとこれ程伝えておるものを。

「天界に比べれば、恐らく退屈でつまらぬかと」
「そんなことないわよ、知りたい」
「菩提寺で執り行うのが常です。菩提寺がなくば所縁の寺で」
「うんうん、仏式って事ね」
「本尊前で、和尚と・・・」

そこでチェ・ヨンは一瞬声を詰め、小さな早口で呟いた。
「・・・親族のみが参列いたします」
「それだけなの?」
「ええ。まずは敬白文を和尚が読み上げ、仏や先祖に報告の上、加護を祈ります。
念珠を受け、司婚の辞を立て焼香、誓杯を交わして、祝辞と法話を頂く程度です。
特に形式ばらずとも、おっしゃるとおりがーでん、の宴を。楽しそうではないですか。そうしましょう」

興味のありそうな言葉を並べ立てても聞く耳を持たぬ様子で、ウンスはチェ・ヨンの話を熱心に聞き終えた後、その黒い眸を見た。
「ねえ、ヨンア」
「・・・はい」
「ヨンアのご実家、チェ家にも、菩提寺はあるの?」
「はい」
「開京から、遠いの?」
「鉄原にありますから、遠くは」
「じゃあ、決まりだわ!」
ウンスは嬉し気に叫んで、小さな手を顎の前で音高く合わせた。

「決まり、とは」
「ヨンア、チェ家の菩提寺で、婚儀挙げて頂けないかな?ヨンアと私の事、お父様とお母様と、ご先祖様に報告できないかな?
それが終わったら、宴にすればいいんじゃない?」

突然何を言い始めるかと思えば。
チェ・ヨンは嬉し気なウンスに向かい、首を真横に振る。

自分ほど仏の教えの道に背く者が、仏の前で婚儀などと。
挙式の前、父上と母上にこの胸の中でだけ手を合わせ、婚儀の報告と、誓いが上げられれば良いものを。
第一この方は本来ならばそこに御参列頂くはずの御両親、御義父上、御義母上に会うことが許されぬではないか。

今もチェ・ヨンの胸の中、重石は残る。
ウンスを悲しませぬよう悟られぬようにはしても、忘れる事はない。

俺とは違う。天に召されたわけではない。あの天界でお元気なはずだ。
この方が此処に残ると、戻ると決めねば。
もしも俺が攫って来ねば、天界に居られれば、いつの日かご両親はこの方の晴れの日に御参列されたはずだ。
花嫁の晴れ姿を嬉しく見詰められたはずだ。相手が俺でなくばその倖せが叶っただろう。

「良いのです、とにかくそれは」
「・・・恥ずかしいんだ」
「イムジャ」
見当外れなウンスの低い声にチェ・ヨンは眉を顰める。
「私と結婚するの、恥ずかしくて、報告したくないんだ。菩提寺にもお父様にもお母様にも、ご先祖様にも言えないんだ」
ウンスは拗ねたように呟いて、俯いて口を尖らせた。

「イムジャ」
「恥ずかしいんでしょ」
「答はご存じでしょう」
「そうじゃなきゃ、ちゃんと紹介してくれるはずだわ」
「終いには」
「もう怒ってるじゃない」
「恥ずかしいわけがない。何故そのような」
「じゃあ、菩提寺で婚儀を挙げてよ。和尚様にも、ご先祖様にも、お父様とお母様にも、ちゃんと紹介して。報告してよ」
「それは」
「ねえ、ヨンア」

ウンスはそう言って俯いていた顔を上げた。
チェ・ヨンが予想していた怒りは、そこには浮かんでいない。
ただ優しい目をして、ウンスはチェ・ヨンに笑んだ。
「正直に言ってみて」
「・・・何を」
「菩提寺で挙式しない理由」
「それは」

怖いのだ。この声で、言葉で傷つけるのが。
御義父上、御義母上の事で、この方を泣かせるのが。
斬って片がつくものでもない。
あの天門や天界相手では、闘い方すら見当もつかぬ。

それでも御二人の許へ走って、此処へお連れ出来るならば。

今一度あの天門をくぐり、地に額を擦ってお詫びをし、どうか娘御を我が嫁とさせて頂きたいと心よりお願いしたい。
御義父上、御義母上の分もこの方を慈しみ、何があろうと絶対に泣かせませぬ、不自由はさせませぬとお約束したい。
この命ある限り必ず、全ての力で護りますとお伝えしたい。

「分かりました」
チェ・ヨンは胸の答に頷くと、静かな目でウンスを見つめ返した。
「答えになってないわよ?」
「答は暫し、お待ち下さい」
「そうやってすぐ」
「誤魔化しませぬ。すぐ判ります」

互いに思う事が同じならば。チェ・ヨンは胸裡の答を反芻する。
此度の挙式を全てうまくいかせる、ウンスも自分も最も良いと思える、その方法を。
「チェ家の菩提寺で婚儀を」
「そうしてくれるの?」
「真にそうされたいですか」
「うん!」

ウンスはそう言って、大きな瞳を見開いてチェ・ヨンを見詰めた。
「あなたが許してくれるなら、そうしたい。 会いたいの。ご挨拶したい。お父様と、お母様と、ご先祖様に」
「そしてその後は、がーでんの宴ですね」
「・・・うん、出来れば」

間違ってはおらぬはずだ。
もう一度そう考え満足げに頷くチェ・ヨンを、ウンスは不思議そうに見ていた。

 

 

 

 

皆さまのぽちっとが励みです。
お楽しみ頂けたときは、押して頂けたら嬉しいです。

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村
今日もクリックありがとうございます。

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村

2 件のコメント

  • SECRET: 0
    PASS:
    さらんさん、優しいヨンを堪能させて頂き、ありがとうございます❤︎
    ウンスの発する言葉も、その実を考えると、ヨンへの思いが込められてて、だからこそ切なくて…。
    ああ、どんな婚儀になるのでしょうか。
    戦略家のヨンが企てる、ウンスのための婚儀とは⁈ ワクワク、ドキドキです!

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です