紅蓮・勢 | 31

 

 

「酉の刻、先発隊が双城へ入る」
「門からか」
アン・ジェが眉を上げて問う。
「いや、開くかどうか判らぬものに時間は割けん。壁を超える。
イ・ジャチュンの話では、奴と息子の私室は敷地の最南棟。
壁のすぐ向こう側だ。直接其処へ行く」
「最初から、外で落ち合うのではないのか」
「開門のために、中で待つよう言ってある」
その声にそれぞれが頷く。

「すぐに開くでしょうか」
指を顎に当て、思案するようなチュンソクの呟きに
「中からの手引きと、門前からのこの」
言いながら胸に仕舞った王様の号牌を、指先で引き摺り出す。
紫と白絹の房、黄金の龍の彫られた重い号牌。
「号牌での開門の要請と、二重攻勢だ。開けねば力で破る」

列席の全員が、指先にぶら下げた号牌に目を当てる。
「チェ・ヨン、お前な」
咎めるようなアン・ジェの声が飛ぶ。
「何だ」
「仮にも王様の号牌を、そんな風にぶら下げるなよ・・・」
「そうか」

列席の全員に見せるつもりだったが、仕方ない。
指先の号牌を、アン・ジェの手にぽいと渡す。
その掌に乗せられた号牌をアン・ジェが凝視する。
「・・・何のつもりだ」
「順序だろ。俺の次はお前だ」
「何のだ」
「王様はおっしゃった。俺に任せると。
これ以上捻っても良い案は浮かばん。アン・ジェ」
「何なんだ」
「お前が号牌を持ち外で待て。俺は先発で中へ入る」
「チェ・ヨン」
その言葉に、アン・ジェが息を呑む。

「お前な、何でもかんでも一人で」
「内通の進み具合は判らん。完全に信用はしておらん。何より」
椅子に凭れて息を吐き、腹の前で両指を組み、アン・ジェを見る。
「内通者イ・ソンゲの顔をご存じなのは、大護軍だけです。
先発隊が双城に入っても、相手が判らねば話にもなりません」
そう言葉を引き継いだチュンソクに俺は頷いた。
「そういう事だ」

イ・ソンゲと遇い見えたのは五年前。
どれほど変わろうと面差しくらいは残っておろう。
あの顔を見知っているのは俺とあの方のみ。
であれば俺が行くしかない。

敵を目前に陣を空ける。
それに迷いがないわけではない。
確かに王様は、俺に号牌を掲げるようお望みだろう。
雷功の遣い手であり紅巾族を退けた高麗迂達赤大護軍、チェ・ヨンとして。

開門を指図して外へ戻り、号牌を掲げられれば一番。
しかし誰が掲げようと、最終的に総管府の頭であるチョ総管の眼前にこの号牌を突きつけれることが出来れば事は足りる。
今最も肝要なのは、門を開ける事。

もしもイ・ソンゲが本気で手引きをするつもりなら、城外にも誰かしら繋ぎの者を置いているかもしれん。
俺ならばそうする。門を開く前に、まずは中と繋ぐ。
その上で外の様子を判じ、中から門を開けるだろう。
あの若い男がそこまで考えるかどうかが一つ目の関門だ。そして城内で奴と落ち合うのが二つ目の。
奴の顔を知る俺しか、その役は担えん。

「判りました。この後先発隊を集め、伝えます」
チュンソクが頷くのを確かめ、
「今日はゆっくり休めとも伝えろ」
そう付け加える。
「は」
「俺が中に入り半刻して戻らなければ、アン・ジェ。
お前が門前にて、この号牌を掲げて開門を要請しろ」
「・・・なんと伝える」
「口上くらいは自分で考えろ。王様の命で高麗軍が動いている、それが伝われば何でも良い」
俺の放るような物言いに奴が頭を振る。

惑うても、迷うても、俺にしか担えん。
俺が離れようとチュンソクがいる。アン・ジェがいる。兵がいる。
こいつらを信じずに、俺を信じろとなど言えるわけがない。
「何も変わらん」
続く俺の声に全員の目が集まった。
「王様の号牌があるとなかろうと。それを誰が掲げようと。
相手が紅巾族のような烏合の衆だろうと、祖国を百有余年支配してきた元の出向機関だろうと」
そう言って片頬で笑む。
「俺たちは勝つ。必ずな」
「大護軍」
「チェ・ヨン」
チュンソクとアン・ジェの声が重なった。
「お前らを信じる」
その声に列席の全員が、無言で深く頷いた。

 

 

 

 

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4 件のコメント

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    さらんさん、出張の新幹線に身を運ばれながら、素敵なお話を拝読させて頂いています。
    これぞ、できる男ヨンの魅力120パーセントという言葉に、アンジェやチュンソク達と一緒に、こくこくと頷いてしまいました。
    手柄も名誉も名声も不要の、シンプルな生き方こそが、多くの者にとっては、きっと難しいのかもしれませんね
    さらんさん、今日が良い1日でありますように❤︎

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    いつも楽しみに読ませて頂いています←特にこのシリーズはめちゃくちゃ好きです。
    ヨンの理想の上司っぷりにまたまたやられてしまいました。
    戦闘がかっこよくて好きになったこのシリーズ、人間関係からもお気に入りになりました。
    ありがとうございます!

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    >kotomisa884さん
    こんばんは❤超遅コメ返になり、申し訳ありませんでした…
    戦闘シーンが好き、と言って下さる読み手さまが多くて、嬉しい限りです❤
    この休暇中は、もう一度ゆっくり戦闘シーンの
    書き方を勉強してみます~(え
    ヨンで頂き、ありがとうございました❤

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    >muuさん
    こんばんは❤超遅コメ返になり、申し訳ありませんでした…
    私は逆に、欲(物欲でも、出世欲でも)は
    ある程度モチベーションの向上や維持につながるのでは、と思うので、
    王様は、ヨンを扱うのは大変だろうなーと…
    釣るものがないですから・・・あ、あった!ウンスオンニでした(爆
    でも王様の自由になるものでもないしなあ・・・w
    考えるほど、そりゃウンスオンニを粗末に扱わぬ筈ですわ(;^_^A
    ヨンで頂き、ありがとうございました❤

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