2014-15 リクエスト | 瑞雪・1

 

 

【 瑞雪 】

 

 

皇宮よりも南の公州が、これほど寒いのも珍しい。
しんしんと骨に堪える、袖から覗く指先が切れる程の寒さの中。
俺のあの方が王妃媽媽と共に微笑み、落ちる瑞雪を掌に受ける。

いや、微笑んでおられるのは畏れ多くも王妃媽媽のみ。
あの方は、大きな口を開けてけらけらと笑っている。

その王妃媽媽のご様子を見つめつつ、横の王様が御目を細める。
「王妃、襟元が」
微笑んだ王妃媽媽が御声に気付かれ、振り向いて頬を染め、微かに頷かれる。
「申し訳ありませぬ王様、はしたない姿を」
その御声に、王様は首を振る。
「こちらへ」

そうおっしゃいながら歩を進め、ご自身も王妃媽媽へと寄られる。
静かへ其処に寄られた王妃媽媽の襟元、白貂の襟巻の絡んだ止め紐を御自ら直された後。
ふとお気づきになったか王妃媽媽の凍えた指先をその御手で握って温め
「氷柱ほどに冷えている。このままでは折れそうだ」

そう苦く笑まれると、傍に立つ主席内官に
「ドチ、手覆を」
御声を掛け、恭しく差し出されたご自身の手覆を受け、王妃媽媽の御手へと着けられる。
「王様、なりませぬ。そのような」
小さな御声を上げ、寒さとは違う理由で頬を染める王妃媽媽に
「ああこれ、動くでない。うまく嵌められぬ」
王様は微笑みながら、王妃媽媽の指先をそっと押さえられる。

俺のあの方は真白い息を空に吐きながら、少し離れた場所でじっと空を見上げている。
瑞雪の落ちてくるその空は、しかしうんと淡い薄墨色一色だ。

何を見ている。そう思い、静かに其処へ寄る。
あの方の少し後ろから同じ空を見上げてみる。
何も見えぬと眸を落とす。
その小さな背を、背に回した後手の組んだ指先を、空を見上げる目線を追う。

「イムジャ」
そっと声を掛けると振り返ることもなく、この方はうふふと楽しげに笑う。
聞こえておろうにと俺は真後ろまで寄りもう一度
「イムジャ」
と小さく呼びかける。

俺に見えぬ何がこの方の瞳に見えているのだろうか。
共に見たいと願う。だから呼ぶ。そして問う。
何を見ている。教えてくれ。俺にも見せてくれ。
その目に映るものを知り、心に映すものを知り、共に過ごしていきたいのだと乞う。
己の心に映すものは教えてやれぬのに、勝手なものだ。

あの方は空を見上げたまま、白い息の隙間から小さな声で囁いた。
「やっと来てくれた」
俺がその声に首を傾げると
「こうでもしないと、あなたはずうっと王様から離れない。たまには私とも一緒に遊んでよ」

その拗ねた小声に微笑むと、俺は後ろから同じように空を見上げるふりをした。
この方が後ろ手に回した細い指先を重ねた袖の影、己の指先で絡め取る。
「風邪を引く。戻ろう」
厄介な俺の囁き声はどれ程顰めようと、白い雲になって立ち上る。
囁いているのが周囲に知れる。
込めた想いがその白さから露呈しそうで、常より一層無口になる。

 

「見よ、王妃」
王様がそっと囁かれた。
妾は王様の御目の先を追って、医仙と大護軍の姿を見遣る。
「あの二人も楽しそうだ」
「はい、王様」
医仙と大護軍はお二人で空を見つめ、何事かお話のご様子。
御二人の口から、交互に白い息が流れる。

「邪魔をして悪いが、そろそろ戻ろう。王妃が風邪を引いたら大変だ」
そんな王様のお言葉に首を振る。
「妾よりも、王様の御体が心配です」

そう言った途端に、つい先刻首元に王様が巻き直して下さった襟巻の毛先が鼻を擽る。
慌てて指先で押さえても間に合わず、嚏が小さな音を立てる。
王様が御顔色を変え、こちらを振り向く。
同じく医仙と大護軍が。そして急いでこちらへと寄って来る。

「チェ尚宮」
王様の鋭い御声にすかさず控えたチェ尚宮が、この身へと毛織の外套を巻きつける。
「媽媽、戻りましょう」
駆け戻った医仙が着込んだ衣の下の妾の手首を探り、脈を取りつつそう告げる。
大護軍は厳しい顔をし、周囲の迂達赤へと
「陣を組め」
そう短く声をかけ、兵を動かす。

せっかく皆で、やっと自由に表に出られたというに。

 

******

 

「王様に4日間ほど、公州の温宮での療養をお勧めします」
典医寺でのカンファレンスで、キム先生が言った。
「公州の温宮?」
「ええ、碧瀾渡から船で南へ出れば、移動も一日少々で済みます。
傷寒論から読み解くに、現在は少陰病が続いている程度です。
但しこの後大きく進まぬために、一旦皇宮から離れてお休み頂くのも肝要かと」
「そうなの」

先生が机に出した傷寒論の書物を捲り、私は頷いた。
漢字が読めないって、この時代には致命的だわ。
確かに最近の王様は微熱が出たり下がったり。
怠そうな状態ではあっても、はっきりした諸症状が出るでもないし。
ただ体力の低下があるのはキム先生から聞いている。
媽媽の婦人病にも、この時期の温泉が良いのは確かなのよね。
私はキム先生へと向き直った。

「湯治は大賛成よ。媽媽の婦人病治療にもいいし。でもどうやって動く?今は患者も多いのに」

このところの寒さのせいで、皇宮でも風邪が流行してる。
私たちが2人とも抜けるのはまずい状況だと思う。
「申し訳ないが、今回はウンス殿のみ随行を頂けますか。薬員は二名、王様と王妃媽媽それぞれにつけます。
王様の温宮への御幸となれば迂達赤が守りに就きますから、私が行くより嬉しいと思う方がいらっしゃるでしょう」

キム先生の声に、私の頬が緩む。
「え、いいの?」
「ええ。勿論です。王様は御病気というわけではないので、大きな問題も起こらないかと思います。
むしろ王妃媽媽の御体が休まり、湯治の効果が上がれば、この後々も宜しいかと」

やった。私は机の下で、思わず拳をぎゅっと握る。温泉でデート。温泉でデート。
あ、もちろん王様と媽媽のお体が一番よね。
でもお2人とも大きな病を発症してるわけじゃない。
どちらかといえば皇宮から離れて、気楽にのんびり山歩きやお散歩や温泉がいい。
美味しいものを召し上がって 日頃のストレスを忘れるのが一番効果的な気がする。

となれば、やだ、ダブルデート?
学生じゃあるまいしと思っても、嬉しくて顔が笑っちゃう。
私は目の前のキム先生にばれないように、俯きがちに頬に手をやった。

 

 

 

 

【花男」お読み頂きありがとうございました。
そして新リク話、始まりました。
144. Wデート
チュナ&ワンビママ
ヨン&ウンスのWデートが読みたいです! (★sachi★さま)

★sachi★様、リクエストありがとうございます(*v.v)。
デート❤どうなりますか・・・
お楽しみ頂ければ嬉しいです。

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12 件のコメント

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    さらんさん、こんばんは!
    今夜もほんわかするお話を、ありがとうございます。
    寒い中の温泉デート、いいなぁ~❤︎
    こういうお話を拝読した後は、温かい気持ちで眠れそうです。
    どれほど声をひそめていても、吐く白い息で、二人が話をしているのがわかる…という部分! うまいなぁ、さらんさん。
    さらんさん、新しい一週間とともに、素敵なお話のスタートですね。
    楽しみ!楽しみ!(≧∇≦)

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ウンス、さすがに此度はニヤつきが止まらぬ様子です(爆
    のんびり湯けむり、となるか、もしくはドタバタか…?
    楽しんで頂けたら嬉しいです(*v.v)。

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    >muuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    この冬は【都忘れ】の白い息以来、息を交わす、言葉を交わすことに
    執着した季節でした(爆
    そろそろ白い息も見えなくなる、水ぬるむ春。
    どんな季節になるやらです・・・( ´艸`)

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    このお話はヨンとウンスが婚姻した後なのかな。
    皇宮内ではノンビリという訳にもいかないですよね~
    王様と王妃様もいつも一緒にいられないし。
    でも旅の間は一緒にいられますね。
    もちろん,ヨンとウンスも^^
    『この方が後ろ手に回したその細い指先を、 重ねた袖の影の下、己の指先で絡め取る。』
    この文章,とても好きです(〃^^〃)
    ドラマ本編,ヨンが後ろ手でウンスの手を握るシーンも好きでした(*^.^*)
    そうそう,イニョン1話だけじゃ嵌れないと思います。
    4話以降位から加速度的に嵌った記憶が(o^-')b
    過去ではシリアス,現代ではラブコメ要素ありで,信義以来初,見終わって直ぐ最初からリピしました。
    後半は涙無くして見られません(ノ◇≦。)
    主役の二人はリアルカップルになったので,公私混同か?なんて思うラブシーンもありましたけど(//・_・//)
    (残念ながら,破局してしまいましたが)
    あっ,信義じゃないコメが長くなり,失礼致しましたm(_ _ )m

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    こんにちは(^^)いつも楽しく読ませていただいてます。
    花男もとても面白かったです。たまに入れてほしいです(^^)/
    新しいお話しもいいですね~(*^_^*)
    楽しみにしていますね~!(^^)!

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    >すんすんさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    私の中で手は【信義】の重要パーツ(笑
    キスより、むしろ肉体的などうこうよりも
    手の方が、うーんというかぐっとくるというか。
    花男ではいろいろ書けても、信義では手‼手ですw
    イニョン、そうだったのですね。
    あのヒロイン(名前失念)は、シークレットガーデンの
    ライムのルームメイト役?の女優さんですよね?
    リアルカップル、やはり韓国の特殊な撮影状況では多いのでしょうか・・・
    貴重な情報ありがとうございます。見たくなってきたー!

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    >さぁちゃんさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    【花男】コメもありがとうございます❤
    大好きなので、多分まだ数か月たって忘れた頃
    ひょっこりとw
    新しいお話も楽しんで頂けると嬉しいです。
    宜しければまた覗いてみて下さい♪

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