ウンスは宿の部屋の寝台で、ごろごろと転がっていた。
ここに戻って来て3日目の昼下がり。
戻って来た日に私をここに連れてきたあの人は、あの後は結局戻ってこなかった。
外に出てみようとすると、表に立っていたテマン君に止められた。
「大護軍が心配します」
そんなに懸命に首を振られると、これ以上無理も通せないとあきらめた。
昨日は夜にあの人が少し顔を出して、一緒にご飯を食べた。
向かい合いで食事をしながらあの人はふとお箸を止めて
「大人しくしていらっしゃいますか」
と尋ねた。
頷くとテーブルの向こうから伸ばした長い腕で、頭を撫でられた。
「何か必要なものはありませんか」
と聞かれて、指を伸ばしてあの人の胸を差すと
「・・・それ以外で」
と、苦笑いを浮かべる。
何もないわと首を振ると、少し困った顔で
「寂しいですか」
と訊いた。寂しいですね、と聞こえた。
大丈夫、ここにいるもの。
いざとなれば兵舎の裏塀から忍び込んで、夜這いをかけるから平気よ。
わざと明るくふざけて答えると、
「此処にはあなたの夜這いを見過ごすような、間抜けな兵はおりません」
と呆れたように言われた。
「夜中に兵営に忍び込めば、問答無用で斬り捨てられます。
国境故、女人にも容赦はなし。命が惜しくば此処に大人しく。良いですね」
そう念を押され、匙を咥えたまま、しゅんと肩が落ちる。
ヨンは目の前で落胆するウンスに心の中で詫びた。
お側にいられず、申し訳ありません。
俺とて寂しい。
一度会えた後だからこそ、尚更に恋しい。
あの頃の迂達赤の私室のように、例え寝台が違っても、同じ部屋で夜を明かせればどれほど幸せか。
この方が眠る寝台の横で寝顔を見つめられれば、鬼剣を胸に床で一生仮寝したとて何の苦痛も感じないものを。
あの時の俺達は焦っていた。
天門が開くが先か、さもなくば徳興君の毒にやられたこの方が発熱するが先かという、目前に迫る期日があった。
毎日は沙漏の瓶の中の砂のように、ただ落ちていくばかりだと思った。
あの印を付けた暦のように、減っていくばかりのものだと。
俺は残された日を無駄にしたくないと願った。
けれどこの方は俺たちの未来を諦めなかった。
与えられた刻を、懸命に生きるだけではない。
二人の道が見えぬほどずっと先に続くように。
この方の目はいつも明るい先だけを見ている。
だからこそ今俺達は、今二人此処にいられる。
瓶の砂が全て落ちたら、逆さまにすれば良い。
互いの手で、それを飽かずに繰り返せば良い。
これから先の俺達は、それが許されるのだ。
ですから、もう少し。
「もう少しの辛抱です」
ヨンの声に、ウンスは頷いた。
本当は、とっても一緒にいたいけど。

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それ以外で。。と答えるヨンの辛さ(x_x;)
とても切ないですね。
一緒に居たくても、現状がそれを許さない。
もしそうしていれば、帰還の際の安全に不安が出てくる。
そうならない為には、一刻も惜しんで万全の策を練るのみ。
ウンスの仕草が、何時になくいじらしく可愛いです(*゚.゚)ゞ
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>mayuさん
うふふー❤
そうですね、ヨンと再会してからのウンスは
本当に頼れる母であり、面倒見の良い姉であり、
可愛らしい妹であり、
三国一の花嫁であり、誰より愛おしい妻であり、
この世にこの方だけと誓った女人だった
そう思います(願望でもあります
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「何か必要なものはありませんか」
と問われ、指を伸ばしてあの人の胸を差す
隊長の好きなものは?と尋ねられてしばらく思案して、ウンスの肩にポンと手を置くあのシーンと対になってるような( ´艸`)