逢いたかった。
ここにいてくれてありがとう。
諦めないで、生きていてくれて、ありがとう。
俺にしがみついて繰り返し、愛しい方が、ただ泣いている。
その涙が驟雨のように、俺の鎧の胸を濡らす。
両眼よりこぼれそうになる滴が落ちぬよう、俺は天を仰いで深く息を吐き、吸う。
この方がいない間どのように息をしていたのか、逢った瞬間からもう思い出せぬ。
自分の体中に、気が満ちて行くのを感じる。
細い肩を抱いた両腕、柔らかい髪に触れる指先。
彼女を支える足指の神経までが研ぎ澄まされると同時に、心地良く緩んでいく。
「まっすぐ帰って来られるとおっ、思ってたのに、出来なかった・・・」
「何処におられた」
「100年、前。次に、ソウルに戻って、そこから、やっと今に、も、どって来られた」
「そんなに何度も天門をくぐられたか。
逢いたかった方々には、逢えましたか」
「もう平気・・・逢えた、から、もうだ、大丈夫・・・っ」
泣き過ぎで、おかしな所で息継ぎをするこの方。
俺はその背をそっと撫でた。
この方は。
何処まで無謀で、怖いもの知らずなのか。
俺の為にだけ、そんなにも先の見えぬ旅をしたのか。
女人の一人身で。
「全く」
鋭く小さな息を吐くと同時に、喰い縛った歯の隙間より漏れた呟きで、彼女が驚いたように俺を見上げた。
「怒ったの?なぜ」
「イムジャにではない。己に怒っておるのです」
「怒っちゃ駄目よ、熱が溜まるから。息を吸って、吐いて」
そう言うと俺の頬に触れて、手首の血脈に指を添え、自分も呼吸を合わせようとする。
その姿に、勘違いしているようだと俺は苦笑いした。
イムジャ。
そんな懸命な旅をしてきたあなたを今すぐ抱きしめたいと、一瞬の欲を持った浅ましい己に怒った。
それだけです。
しばらく俺の具合を見た後、大事ないと判断されたか、安心したように微笑んでこの方は尋ねた。
「あのね、今、恭愍王の御代5年って聞いたわ。本当?」
「いかにも」
「王様も王妃様も、チェ尚宮の叔母様も、お元気?迂達赤のみんなは?マンボ姐さんたちは?」
「王様王妃媽媽にはお変わりなく。睦まじくお過ごしのご様子。
叔母は相変わらずのようです。ここ一年ほど開京に戻っておらぬゆえ」
「戻ってないの?どうして」
「戦をしておりました」
「無茶はしなかった?体は?」
「御覧の通り」
「手は?もう大丈夫?」
「恙なく」
「無事でよかった・・・」
この方は答に一先ず安心したか、ふうと息を吐いた。
「信じられないでしょうけど、私、今34歳なの」
「・・・?」
眸で問う俺に笑いながら、この方は言葉を続ける。
「私の中では、あなたと離れてから1年しか経っていないの。
不思議ね。こっちはもう4年も経ってるなんて」
「・・・信じます。天門をくぐれば、何が起きても不思議ではない。
御存じか、俺は今、あなたと同じ齢です」
「え、本当?これで年上って感じなくて済むのね。
もう1回くらい離れたら、今度はオッパって呼べるようになるかもね」
その言葉を聞き、俺は思わず小さな両手を強すぎる程に握った。
「い、痛い!手、隊長、いえ大護軍?」
「冗談でもお止め下さい」
この方は俺の声音に目を見開く。
「離れるなど」
二度と。
そっと離すとその腕が、もう一度俺の背に回される。
鎧の上からそっと触れ、撫でさすって、優しく叩かれる。
穏やかに、草はらを風が渡ってゆく。
野菊が一斉に揺れる。
「大護軍、弁当です!」
遠くでテマンの声がする。
「大護・・・う、う、う医仙?! ばっ馬鹿、行くなテマン!!
も、申し訳ありません!!大護軍、ごゆっくり・・・っっ!!」
チュンソク、相変わらず最悪の間の悪さだな。
離れて騒ぎたてる奴らを睨みつけた後、顔を戻しもう一度胸の中のこの方を見る。
大きく見開かれた瞳の中に、俺と、空と、雲とが映っている。
俺の眸に映っているのはこの方と、緑の下草と、黄色い野菊。
そしてその視界にほんの一瞬だけ、紅い月を縫いとった帯の残像が過って消えた。
メヒ、喜んでくれるか。
隊長、この方に会って頂きたかった。
父上、ようやくまた巡り逢えました。
二度と、時を無駄にいたしません。
己を偽り、迷ったりいたしません。
二度と、俺が凍る事はありません。
この方の瞳に映る俺が、笑う。
俺の眸の中、この方も笑っている。
互いの目を覗き込めば、あの天界の青銅鏡よりもずっとずっと、己の姿がよく見える。
知らなかった。俺はこんな顔をして笑うのだな。
ああそうか。今、たとえようもなく、幸せだからだ。

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あ~良かった読めて…
引っ越し前の時は何故か、この3話の所だけエラーになって読めなかったんですよ
お話楽しく読ませて頂いてます(^_^)
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>えみりんさん
コメントありがとうございます。嬉しいです♪
ええっ、そんなエラーがあったとは。不覚!
知らずに、申し訳ありませんでした。
いまさらですが、楽しんで頂けたら嬉しいです。
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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ドラマでは、再会で終わってしまったので、この様に書いて頂き「そうだったんだろうな・・」と納得しながら読ませて頂いております。
徹夜で一気読みする人なので、コメ残さず突っ走るかもしれません。
落ち着いてきましたら、コメ残させて頂きますね。
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>mayuさん
またまたコメントありがとうございます。
嬉しいです♪
もう、呼んでください。
そして、コメントは本当に大丈夫ですよ?
ただ、あの時の、あの後のイムジャカップルの
声が聞こえるお話になっていることのみ、祈ります。
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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>mayuさん
雪割草が辛くて此処へ来ています。
此処で、何気なく読んだ文章の意味がやっと分かりました。
何も疑わず、ヨンだけを想い戻ってきたウンス。
大切な親にも会っていない。
試練を受けても、何の迷いも無いもなくヨンの元を目指したウンス。
そんなウンスを待ちながら、4年も経ちその間には身を切られるような辛い事もあったヨン。
それは、天にお互いが試されたのだろうか?
迷いは無いのか?本当にこの地で生きていけるのか?ただ、愛の為に。。
方や、時の試練と、迷い無く愛し護っていけるのか?
最後は、そんな風に感じました。
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>mayuさん
おはようございます❤コメありがとうございます。
これは内向きの話ですが、
たとえヨンが出て来ないサブキャラのお話が
ずっと続いても、
UP順にこだわるのが、そこなのです。
ひとつずつ重なることで、ああと思って頂ける事が増えると良いな。
私の最終話につながるように。
今、ウンスオンニとヨンを一緒には
いさせてあげられない。
mayuさまにも皆様にも、悲しい思いをおかけします。
勝手な書き方で申しわけないとも思います。
でも、もう少しお付き合い頂けたら
最高に、嬉しいです(●´ω`●)ゞ
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初めから、ゆっくりと、さらんさんの、二人の物語大切に読ませて頂きます。ありがとうございました。
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こんにちは。ドラマのラストから頭の中で映像として流れてる様で一気にハマってしまいました。続きが楽しみです。
『この方の瞳に映る俺が、笑う。
俺の眸の中、この方も笑っている。
知らなかった。俺はこんな顔をして笑うのだな。
ああ そうか。
今、たとえようもなく、幸せだからだ。』
このヨンの言葉がずっと、心から離れません。
大好きな台詞です(ToT)
チェヨンが笑った。
ほんとに嬉しい^ – ^です。
二度と離れないで欲しいです。