【 向日葵 】
秋の風が、野菊を揺らす。
風に靡く緑の下草は、まるで海のようだ。
夏の草いきれで強い青い匂いのする風も、
冬の雪交じりの、身を切る容赦なき風も、
春のようやく温んだ花の香りのする風も、
風が少し強く吹くたび俺の心も、少し伸びた無精髭も、髪も揺らす。
此度は帰ってくるか。
天門が開く先触れではないか。
幾度も、幾度も息を殺し、待った。
そしてしばらくして風がすっかり通り過ぎた後。
ようやく息を継ぎ、心でこう繰り返すのだ。
今は、待つのみ。
あの後季節が四度巡った、五度目の今。
背後の下草が、風とは違う音で揺れた。
敵ではない。殺気もない。野の獣でもない。
凭れた木の幹から顔を起こし、肩越しに視線を流す。
流した視線の先を認めた瞬間、息を呑んだ。
夢か。
会いたい気持ちの余り、白昼夢でも見せられているのか。
今までとて、幾度もあった。
赤い髪に指をくぐらせ、項を確りと押さえ、逃げられぬようこの腕の中に囲い込んで。
花の香の髪に鼻先を埋めどれほど会いたかったかを伝える。
あの方は嬉しそうに、次に哀しそうに、笑顔を浮かべる。
そして細い肩を振り向けて、腕の中からそっと抜けてしまうのだ。
幾度も幾度もこちらを振り返り、なにか唇を動かしながら。
イムジャ、聞こえぬ。
どんなに小さな声も、聞き洩らさぬようにしたいのに。
そんな風に目覚めた濃い紫の明け方。
ひとり寝の寝台の中、夢の逢瀬が酷く嬉しく、現世の不在が酷く寂しい。
俺は此処です。何度呟いたか。
あの方の事だ。どうせ俺の事しか考えず、毎夜呟いておろう。
「そこにいる?」
あの時の呪いのような、涙交じりの言葉が甦る。
「一人にしないで」と。「抱きしめていて」と。
「夜になるたび、きっと尋ねるのよ。そこにいる?って。
分かってる。返事なんてない。そしてまた朝が来て、1日が始まる。
死人みたいに。それがどんな人生か分からない?分かるはずよ、あなたなら」
あの頃の俺のように、死人のように、生きて欲しくないのだ、イムジャ。
それならばこの胸が悋気で焦げても、他の男と幸せになられた方がいかばかりか安らごう。
そう思いながらも、そんな事が起きぬのを知っている。
信じている。
天や神仏の加護や定めではなく、あの方を信じている。
ひたすらに。
そんな俺だから今此処に何の先触れもなくあの方が立っている事が、夢か現か区別がつかぬ。
幼子のように、頬でもつねってみれば判るのか。
しかし夢の中ですら、あれほど心が痛んだ。よしんばつねった頬が痛くとも、夢かもしれぬ。
ああ、どうするべきだ。
あの方の簡素なチョゴリの裾が揺れる。
長く垂らした髪が風に乱され、その足許の草が音を立てる。
少し戸惑うように、けれど待ちきれぬように、その音が少しずつ近寄ってくる。
そして、俺の真前で止まる。
俺の呼吸はいつの間にやらその足音と同化していて、
音がやんだ途端、呼吸も止まったような気がして胸苦しい。
眸だけが、離せぬ。
次の瞬間。
小さく軽く、しかし本物の熱を持った温かい塊が腕の中に躊躇なく飛び込んできた。
俺は干上がった口の中でようやく舌を動かして上唇を湿らせ、
何度も喉を上下させた後、声を絞って、その名を呼んだ。
「イムジャ」

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今日のクリック ありがとうございます。
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はじめましてmayuと申します
シンイの作者さんが増え、読み手としては非常に嬉しく思います。
自分に文才がないので、皆様の想像力とシンイへの解釈を楽しく拝読させて頂いております。
これから、宜しくお願い致します。
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>mayuさん
コメントありがとうございます。嬉しいです♪
信義の二次がこんなに多いとは、
私も実は書き始めて初めて知りました。
そんな中で、うちのお話を見つけて頂けて
嬉しいばかりです。
私も今は、他の方のお話を読むのが楽しくて
仕方ありません。
本気で泣いたり笑ったり、
うちのヨンにこのように育っていただきたいと
願ったり、しています。
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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しばらくシンイの二次小説みつくしてしばらくぶりに覗いてみて、新しい小説を拝見出来て、めっちゃ嬉しいです♪
再会したときの二人の想いに、ウルウルしながら見ています!
暑い日が続きますが、無理しないで、書いてください♪楽しみが増えてわくわくしています♪
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>ヒデミさん
コメントありがとうございます。嬉しいです♪
信義world(二次創作)に踏み込んで日が浅すぎる私
今までの皆様の作品を拝読したくて堪らん状態です。
機会があれば、廻らねば。
そんな素晴らしい先品の隅っこに、私も加われれば
とっても嬉しいのですが。
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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>さらんさん こんばんは~(*^^*)
毎日覗きにきます♪
お話し見逃したくないんで、それに、次のお話しを胸がキュッってなるくらい楽しみにしています♪
また、シンイ見直しています♪
暑いから身体に気をつけて、くれぐれも無理しないで下さいませm(__)m
ゆっくりでいいからずっと続けて欲しいです(^○^)
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>ヒデミさん
コメントありがとうございます。嬉しいです♪
胸がキュッですか!
それを伺って、私の心とうぃんぱち君もキュッ❤
皆様が、いつまでもドキドキできる
ヨンを書きたいなあ。と、心から思います。
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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ワクワクしながら読ませていただいてます。
コメントせずに一気に読ませていただきました。
今日(22日)まで追い付いたので二回目を読んでコメントさせてもらいますね♪(*^^*)
今からまたワクワクです(*^^*)
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>みかんさん
こんばんは♡コメありがとうございます。
二回目の読破、ありがとうございます。
気に入って頂けると嬉しいです。
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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はじまして
最近シンイに陶酔しています。
最終回のその後いいですね、
本当に楽しみにしています。
バカっプリがなんともいえません。
これからワクワクしながら陶酔したいと思います。
よろしくお願いしますね。
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>じゅりママさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
何とも言えませんかw
確かに(;^_^A
こちらこそ、よろしくお願いします。
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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雪割草が辛くて此処へ逃げてきたのに、二人の再会にまた泣けた。
あ~~(;´Д`)ノ
でも、本当に表現がお上手ですね(o^-')b
二人の声にならない喜びが伝わってきます。
待って待って4年も経ち、目の前の事が夢か現かの区別がつかないヨン。
胸に飛び込んだウンスの温もり、もうここでドワ~ッと涙です。
この幸せを再度確認し、雪割草へ戻ります(^_^)v
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>mayuさん
うわああ、懐かしの第一話へのコメありがとうございます!!!
今なら、きっともっと違う二人を書くかもしれません。
もっとうまく、二人の気持ちを表現できるかもしれない。
でも、この時の勢いと、ただただ自分の
信義ロスを埋めたかった気持ちが思い出されて
のこいておいて、良かったと。
嬉しくなりました。本当に。
この頃のヨンは、今に比べると
若いと言うか、話し過ぎというか
装飾句が多いと言うか、違うだろ!と思う部分も
無くはないのですが。
でも、やっぱり大好きです。
昔も今も、ドラマでも小説でも、
他の方の二次の中も、自分のヨンも。
ええ、ただの廃人ですから(°∀°)b
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>さらんさんへ
私の出会いも此処からのようです^^
声もなく、ヨンの胸に飛び込んだウンスの気持ち。
ただ、驚き戸惑い抱き締め、ようやく「イムジャ」とだけ発したヨン。
今、二人の再会の感動に浸っておりました。
もう直ぐ、この2人に会えます。
本当に良く頑張ったね( ̄▽ ̄)=3
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>mayuさん
こちらにもコメありがとうございます❤
もうすぐです。明日朝の一話の後
またここの再会から、話がつながります。
書き始めから決まっている道を辿っているとはいえ
こうして読み返すと、いろいろ修正したい部分もw
しませんが(●´ω`●)ゞ
最初の頃は、短い回も多かったなあ。
この頃の方が、読みやすい気がするなあ、と
思う話もいくつかあります。
こうして、軌道修正しながらww
もうしばらく、我が家の信義にお付き合い頂けると
とっても嬉しいです❤
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この向日葵の1話、何回読んでも胸が締め付けられます。
チェ・ヨンと同じように、風に心が躍り 息を凝らしてしまいます。
チェ・ヨンと同じように、呼吸が止まっているみたいに胸苦しいです。
何時か何時かと4年も待てば、本当に こういう気持ちになると思います。
このドキドキ感、切なさを味わいたくて、ついこの章を覗いてしまいます。
このブログずっと続けてくださいね。楽しみにしています。
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>あいちゃんさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
すごい!何だか今【向日葵】を読んで頂けると
とても嬉しいです。
何となく、出てくるヨンが若っぽかったりして
えへヾ(@°▽°@)ノと思ったりしますが。
まだまだお話が続くので、当分はここで
書かせて頂くと思います。
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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初めてお邪魔します。
夕食の支度を終え、家族の帰りを待つ間、偶然こちらにお邪魔しました。
ほぉふ…。
さらんさんの文章、表現が素敵で頭の中に映像が浮かんできます。
1話1話丁寧に読ませていただきます。
涙出てきてしまいました。
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>まるまるさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
初めまして(*v.v)。
もう、拙い話ですが・・・エヘ。
これからも気が向いた時、晩御飯のご用意の後など
読んで頂けたら、光栄です(●´ω`●)ゞ
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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アメンバーの承認をいただきありがとうございました。改めて1話から読ませていただいてます。やっぱりさらんさんの文は素敵ですね。日本語が美しい。難しい漢字も多いし!←辞書で調べないと分かりません…
あ、このまま読んでいくとまたチュソクの討死の章でボックスティッシュが半分なくなる事に…。でも読みますよぉ。大好きだし!あと、今さらですがポチッとすることも覚えましたのでポチッします。これからも楽しませていただきます。ありがとうございます。
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>ぽんなむさん
こんばんは❤コメありがとうございます
チュソクの【蒼天】後はトルベの章がまだありますが
うーん、ですね。
本編【三乃巻】を完了し、その後になると思います。
気持ちの整理をつけてから、な感じでしょうか。
また覗いて頂けたら嬉しいです❤
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さらんさま、はじめまして。
先日、アメンバーの承認をしていただきました、kinuと申します。
途中まで読み進めていたのですが、もう一度じっくり読みたくて、はじめから読み返しています。
さらんさまのシンイの世界へ、行ってきます!
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最初から読み返したくなって訪れています。
なんだか読み終えてしまうのが嫌で、3週間程、新しく更新なさっても読まずに我慢してしまってます。
いつも続きが気になって一気に読み進めてしまうので…おかげで?寝不足気味だったりもします。
ので、新しいのはお楽しみにとっておいて、コチラからまた読み進めていこうと思ってます。
キチンと読んだつもりでしたが、新しく発見する事もあり、初見とはまた違った楽しみがあります。
なんという題名だったかは覚えていませんが、ウンスが「どうしても…」と言って聞かずに、大した戦ではない事もあってヨン達と戦に同行する事となって、ウンスが矢に射られた時に、侍医が治療の為にウンスが着ている物をはだけようとした時に「見るな‼」とヨンが叫んだシーンが私的に一番印象深く残ってます。
ホント、本にしていただけたらどんなに素敵だろうか…と思ってしまいます。
これからも楽しみにしているので、少しでも長~く続けてくださいね♪
はじめまして!
シンイ2次小説を探していてブログ村よりたどり着きました。
皆さんよりだいぶ遅れましたが楽しみに読ませていただきます
さらん様
此方を見つけて1年になるのですね、コメみて思い出しました。
パス解除して頂きありがとうございます。
また初めから読ませて頂きます。
パス設定から読めずにいたのでうれしいです。
こんにちは^ – ^
さらんさんのお話と、出会えて嬉しいです。
このようなアプリというのでしょうか、扱い方がわからず、四苦八苦してやっと再会のお話に辿りつきました。
チェヨンな切ない思いが伝わり苦しくて、、、。
パスワードの入力もあるようで。なかなか難しいものですね。
読むことができるお話わ大切に読ませていただきます。
楽しみにしています。