向日葵 | 7

 

 

「やっぱり、気になるから聞くわ。
後から知るのも、誰か他から聞くのも絶対に嫌だから」

そこまで言うと上体を起こし、俺の足元に背筋を伸ばし座り直した彼女は真直ぐな眼差しで尋ねた。

「あなた、誰かと、寝た?」

その唐突な問いの意味が呑み込めず、耳を疑うよりなかった。
眸で彼女に問う。
何が言いたいのだ。

「私にとっては1年だった。でもあなたには4年。繁殖期の男性にとっては長すぎる時間よね。
分かってる。性的衝動についても、医学的に理解してるつもりよ。
あなたのような危険な任務について、常に生命の危機を感じれば、その本能に突き動かされても当然な場合もある。
そうよ。種の繁栄本能よね。だから、今知っておかなきゃいけないと思うの。
今ならもう一度、ゼロからしっかり二人で再出発出来るわ。だから正直に言って」

天の言葉だらけで、意味はほとんど判らぬ。

が彼女が真剣に、離れ離れの間に俺が誰かと情を交わしたのかを知りたがっている事はよく理解できた。
ああ。厭というほどよく理解できた。
心から信じてほしいと願う、この世でただ一人の方が、俺の事を僅かにでも疑っておられることが。

座っていた椅子を蹴立てて立ち上がった。
がたん、と思いの外 派手な音を立て、椅子は勢い良く床に倒れる。

震える手を固く握り締める。
周囲の壊れ物を手当たり次第に床にぶちまけたり、壁に投げつけたりせぬように。
きつく唇を結び、深く鼻より息を吐く。
せめて肚裡の怒気を逃がし、息が整うように。
頭を冷やせ。冷静になれ。

彼は彼女に背を向けると、寝台と居間の仕切り壁に手をつき、固く眸を閉じた。
怒るな。
ようやく腕の中に帰ってきたこの方を、怖がらせたりしてはならぬと。

そう心より思っている、思ってはいるが。

「・・・イムジャ」
呼吸を整えどうにか呼ぶが、やはりその声は隠しようもなく震えている。

その声に導かれるように、彼女が背後で立ちあがる気配がする。
「何」
「では、イムジャは誰かと情を交わしたか。
その髪に、唇に、肌に、触れるのを許したのか」

愚問だ。
答など判り切っておるのに。
しかし己が口にした言葉が己の劣情を掻き立てる。
口にする端から絵がまざまざと目前に広がる。
唯の空想のはずが、今起きているかのように。

「イムジャは、俺のものでは・・・・・・ないのか?」

我慢できず、握る拳を力一杯壁に叩きつけた。
その恐ろしい幻を、丸ごと叩き潰したかった。
腕貫が壁にぶつかり、喧しく音をたてる。
だが今はこの心の方が、よほど騒がしく音を立てている。

「・・・こっちを見てよ」
震える彼女の声が聞こえた。
彼は眸を背けたまま溜息をついた。
今はとても彼女の顔を見るどころではない。

すると彼女はそのまま近づき、いきなり彼の脚を蹴り飛ばした。
そして背後より鎧の背といわず胴といわず、腕を振り回し眼蔵滅法に叩き始めた。

「ちゃんと見てよ!馬鹿、バカバカバカ!!!私は、そんな安い女じゃないわよ!!!
そんな簡単な女なら、あの時、徳興君にシュガートラップでも性上納でもなんでも仕掛けてた!!!
簡単にパパっと一発やって、手帳を頂いて来たわよっ!!!
それが出来なくて、あなたの事が好き過ぎて、変な回り道して、挙句の果てに汚い罠に何度も嵌って、あなたにも死ぬほど迷惑と心配かけたんじゃないの!!
あなたに戻る為の旅の途中で、誰かとセ、セックスなんて、するわけないでしょ!!」

彼女は彼に向かって叫ぶ。
色々と意味は測りかねるが。
少なくとも他の男と情は交わしておらぬ、それだけは理解できた。

しかし此度ばかりは容易に折れるわけにはいかぬ。
「イムジャだけか」

彼がようやく振り返ると、彼女の手が止まった。
「待っていたのは、イムジャだけか」

叩く背を失い宙に浮いたままの彼女の手首を取ると、易々とその体を反転させ、壁に押し付けた。
次の瞬間手首を離してその顔の両側に手をつき、この分からず屋を腕の檻の中に閉じ込める。

「イムジャだけが、俺を追いかけたのか?
俺はその間お気楽に他の女を抱いて、適当に愉しんでいたとでも言いたいか?
一体どういう了見だ」

肚の底より、凍るような声が出た。
彼は彼女の両目を確りと睨みつけた。

「俺を見くびるな」

 

 

 

 

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6 件のコメント

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    ヨンは、堅物で一本気なんだから・・・
    期間限定ではないから、余計に不安だったのでしょうねが、メヒを思って7年。
    ウンスに出会わなければ、歴史は別としてそのままだった可能性」もあるわけですよ。
    だから、怒って当然かなf^_^;

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    >mayuさん
    コメントありがとうございます。嬉しいです♪
    そうですね、あれはウンスの聞き方が悪い。
    不安だと言えば良いものを(w
    よろしければ また覗いてみて下さい♪

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    >さらんさん
    あれは、ウンスの強がりですね。
    そして、医学的な知識のみで考えている。
    女と男の違い!でも、そんな物で推し量れない想いは沢山あるのに、理系だから上手く表現出来なかったと言う事にしておきますσ(^_^;)
    そして、武士道を重んじる人間には屈辱かもしれませんね。
    ヨンの怒りは尤もです。
    最初は、話の続きが読みたくて一気読みしたのですが、こうやって読み直すと色んな感情が見えてくるので楽しいです^^v

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    >mayuさん
    はい。ウンスは、最悪の答えが返って来ても
    それを理詰めでどうにか理解しようと
    自己防衛に走っていると思います。
    武士として、というより、ウンスオンニを
    これほどに待っているヨンは、
    あれを言われたら、ぶち切れます。
    そういうのが、後になって分かるように
    お話を組み立てたかったので、
    今、あの頃のお話を読んで、見えてくるものが
    もしあれば、とても幸せです。
    それは少なくとも、うちのここまでのヨンが、
    ブレていない証と思えます。

  • 私がもしヨンで、ウンスからこう聞かれたら、やはり頭にくると思います。なんせ再会して幸せの中にいるのにね。
    でもきっとヨンのまっていた四年は長いので、時には心が弱くなる時や寂しくてたまらない時、そして辛くてたまらない時もあり、その時に側に居てくれた女性と深い関係ないになってしまう・・・・。そんな事もあるかもしれないと思ったのでは。
    ヘタに医学的知識欲があるから、よけいにそう考えてしまったのかなぁって。
    ウンスの気持ちが解ります。

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