2014-15 リクエスト final | 結・3

 

 

がたんと大きな音に、行水の後の髪を拭く手を止める。

何だ。

音に続き吹抜けの下から慌てた声が幾重にも重なり、階上の部屋まで響いて来た。

「嘘だろう」
「落ち着け」
「誰なんだよ飲ませたのは」
「煩い、みんな同罪だろうが」
「こんなになるなんて誰が思う」
「こりゃ飲まないはずだ」
悲鳴に似たざわめきの間も、下では何やら倒すような音やらひっくり返すような音が続く。

「何の騒ぎだ・・・っテマナ!」
「酷いな、抑えるから手を貸せ・・・ってえ!!」
加わったチュソクとチュンソクの声の只ならぬ響きに、頭を拭いた手拭いを首に掛け押取り刀で部屋を出た。

部屋を出て吹抜けを覗き、その光景に思わず目を瞠る。

衛尉府から運び膠を乾かしていたはずの新品の槍二十条は、悉く床に倒されている。
修繕し生木段に立て掛けておいたはずの盾が数帖、その槍の隙間に打ち捨ててある。
「おい!」
その景色に思わず階上から大きな声を掛ける。
「何の騒ぎだ!」

剣一振り、槍一条も無駄にするなと言っているはずだ。
その一喝に、吹抜けの階下の奴らが全員階上を仰いだ。

「隊長!!」

一斉に呼ぶ合唱に首を振り、大股で階を駆け下りる。
「何だと聞いてる」
俺の傍に駆け寄ったトルベが申し訳なさげに
「いや隊長、ちょっとふざけてテマナに酒を・・・っっ!」

声の途中で双身の間に振り下ろされた手刀に、俺とトルベは咄嗟に左右へ飛び退り、次の瞬間同時に其処を見た。

真赤な顔をして濡れ髪を垂らしたテマンが、にこにこ笑い立っていた。

「テマナ、落ち着け、な」
トルベの取り成し声に頷くと、テマンは
「隊長!」
そう言って心から嬉し気に笑い一足飛びに距離を詰めた。

ただし普段は鞘に納めている袖内の手刀の刃先を、ぎらりと抜き身にしたままで。

俺は其処から再び一歩離れ、周囲の奴らを見回した。
今の処どいつにも大きな怪我はない。
だが一様に擦り傷や掠り傷を負い、衣も乱れている。

「テマナ、手刀をしまえ」
「はい隊長!」
俺の声にえへへ、と餓鬼のように笑い、しかしその刃を直接手で握ろうとしたテマンに
「テマナ、良い。触るな」
声を掛け直すと、
「はい!」
そう言って其処から手を離す。
足元はふらつき、すばしこいだけに動きの先が読めん。

「こいつに飲ませたのはトルベか」
「いえ、俺も」
テマナを遠巻きにした人垣から、トクマンの声が上がる。
「どれだけ飲ませた」
「皮水筒、一本です」
人垣からトクマンが返した。
俺は首を振り、離れたトクマンに人差し指を向けた。

「お前ら後で覚悟しておけ。トルベ!」
「はい!」
「槍を持て。チュソク!」
「は!」
テマンを遠巻きにする人垣の向こう側、返った奴の声を聞く。
「剣を持て。チュンソク!」
「はい隊長!」
誂え向きに、テマンの左から奴が返答する。
「合図したら腰から崩せ。手刀に気を付けろ。チュソク!」
「は!」
「後ろから羽交い絞めにしろ。トルベ!」
「はい!」
俺の右から聞こえる声に
「倒れたところで二本で押さえろ。いいか」
「はい!」

三人の返答が聞こえた処で、テマンがその声に不思議そうに足を止め周囲を見渡した。
その瞬間声を掛ける。
「行け!!」

左からテマンの腰を崩すため、低く真直ぐに突込むチュンソク。
同時に後方から羽交い絞めを掛け、そのままテマンと共に地に転がるチュソク。
そして俺は首に掛けていた手拭いの端を両手で握ると奴の懐へ入り込み、手拭いの上から両の手刀の刃を抑える。
次の瞬間俺達の体もろとも、交叉したチュソクの二本の槍が吹抜けの床へがっちりと押さえつけた。

四つの影に一斉に抑え込まれ、テマンの体は床に転がった。
「隊長?」
吹抜けの床に組み伏せられた赤い顔の中、驚いたようにテマンの目が丸くなる。

呼び声には答えず奴の袖内に手を突込むと、手刀の鞘を巻き止める革紐を素早く解く。
手拭いで押さえたそれぞれの刃を鞘へ納めて、双の手刀を取りあげ自分の懐へ投げ込む。

それを終えて手縛を掛けたまま転がるチュンソクと羽交い絞めのまま奴の下に敷かれたチュソクに
「怪我はないか」
そう問うと二人が床に転がったまま苦く笑って頷く。
「は」
「隊長は」
「大事ない」

俺も共に転がったまま、槍の柄を握り締めて立つトルベを見上げ
「馬鹿なことをしやがって」
鋭く睨むと、気まずそうな顔でトルベが頭を下げた。
「すいません隊長、まさかここまで酒癖が悪いとは」

その声を聞きながら
「槍を抜け」
途端に俺たちを固める槍が床から抜かれる。
立ち上がりざま、そのままトルベの腰にひと蹴り入れる。
「トクマニ!」
「は、はい」
恐る恐る寄って来る鎧姿の腹に、正面から蹴りを見舞う。
「此処はお前らで片付けろ。チュンソク」
テマナの腰を未だに抑え込むチュンソクを呼ぶ。
「は!」
「テマナを縛って俺の寝室に転がしておけ」
「は!」

そう言った後身を起こしたチュンソクが
「隊長、血が」
そう言って俺の掌を指で示す。
「手拭いが薄かった」
切れた掌を隠すよう握り込み、俺は首を振った。
「大した事はない。テマナを頼む」
そう残し、大股で吹抜けを出る。

外の井戸で汲み出した水で、掌の傷口を漱ぐ。
おかしな具合に切ったか、血は止まりそうもない。
先刻テマンの手刀を握り込みそのまま懐に投げ込んだ手拭いをもう一度取り出し、歯を立て二つに裂く。
それぞれを掌へ巻き、きつく縛って俺は息をついた。

 

 

 

 

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3 件のコメント

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    テマンこわっ!!
    しかも笑ながらとか……
    飲ませた人達はヨンのお仕置き受けてもらいましょう
    しかし、縛ったぐらいで大丈夫なのかな?
    私的にはそこにウンスが絡んだらと楽しみも
    あー、でも、さすがにあの暴れテマンを宮中に放したら大事ですね(笑)
    続き気になります

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    さらんさま、お加減いかがでしょうか。
    2話で“あー飲ませちゃった!”と思いましたが、飲んだらどうなるのかリクエストしたのは私でした(^^;
    やらかしたのはトルトクでしたか(笑)
    ヨンが怪我をしちゃいましたね。
    傷を隠すように掌を握るヨン、大人ですね。

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    さらんさん、今宵も素敵なお話をありがとうございます。
    テマン、誰よりも戦闘に長けているだけに、タガが外れて抑制が効かなくなると、収拾がつかないのですね。
    でも、隊長であるヨンの言うことには、素直に返事をするところ、とても可愛いです❤
    ちょっとした遊び心で酒を飲ませたトルベとトクマニ…。
    思いもよらず酷い目に会うは、ヨンには怒られるはで、すっかり懲りたことでしょう。
    ヨンの手の傷…、早くウンスに診てもらってください。
    さらんさん、週末です。
    外泊などはできるのかな?
    穏やかな夜をお過ごしになれますように。

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