2016 再開祭 ｜ 気魂合競・丗柒

「選りによって」
チュンソク隊長の苦々しい声に横を振り返ると、厳しい眉を寄せた横顔が見える。
「何？チュンソク隊長」

チュンソク隊長を挟んだ向こう側から、キョンヒさまが心配そうにその顔を見上げていた。
「どうしたのだ、チュンソク」
「･･･トクマンの相手が」
「相手がどうしたと言うのだ、チュンソク。怖い者なのか」

キョンヒさまのお声に、そのまた向こうの横に並んだハナさんの顔色がサッと変わった。
チュンソク隊長はさすがにそんなハナさんにまでは気づかず
「いえ、怖いわけでは･･･但し、とても強いです」
って、キョンヒさまを安心させるようにゆっくりと言った。

私の横にいたタウンさんとコムさんが小さく頷きながら、トクマン君と向かい合ったポニーテイルの男性をじっと見て
「昨日、コムを倒した者の一派です」
って私にだけ聞こえるように囁いた。
「なーんですって？」

うちの大切なコムさんを倒した上に、今回はトクマン君の敵なわけね？
それなら遠慮なんてしないわよ。
「トクマンくーん！」

他の人たちの歓声に負けないように大声で叫ぶと、周囲のみんなが私を振り返る。
ポニーテイルの男性を見てたタウンさんもコムさんも、チュンソク隊長もいっせいに。
チュンソク隊長越しに、キョンヒさまとハナさんもこっちを覗き込む。
「う、ウンスさま」
「医仙、あの」
「急にどうしたのだ、ウンス」
「いいからみんなも、ほら！！」

そのみんなの顔を見渡してもう一度
「トクマンくーん！頑張れーっ！！」
私は叫びながら、人垣の中で精一杯目立つように両腕を振り回す。

広場の真ん中でトクマン君が振り返って、嬉しそうに笑うと小さく頭を下げる。
その視線は私を素通りして、大きな声援につられて控えめに拍手をしてるハナさんをちゃんと見てくれたから。
私の大声に負けじと、広場を取り囲むお客さんたちも口々に叫ぶ。
「頑張れ兄さん！！」
「どっちも負けるなよ！」

大雑把な応援だけど、まぁ盛り上がったのは確かよ。
そして大切なあの人は、私の最初の大声にビックリしたように目を丸くして、勢いよく長椅子から立ち上がる。
こっちに向かって首を振って、まだ叫ぶのをやめない私を見ると、見てられないって顔でおでこに手を当てた。
座ったままのヒドさんが気の毒そうにあの人を見上げると、黙って黒い手袋をした手で長椅子をポンポン叩く。

そんな中、審判さんが歓声に負けないように叫んだ。

「始め！！」

*****

「五名はこちらへ」

その声に勝ち残った五名が広場中央へ進み出る。
俺、ヒド、そして迂達赤からは弓の名手のチンドンと手裏房一名。
最後に其処に居る事が今でも信じられぬという顔のトクマンが。

これであの方がまた頓狂に叫び出したらと思うと気が気でない。
今は勝負に集中させて欲しい。他でもないあの方を取り返そうと全員が一丸となっているのに。

先刻の托克托の戦士に競り勝ったトクマンの頬には、白い土埃がこびり付いている。
俺達を前に審判長は此方へ半分、そして残りの半分は増え続ける人垣の観衆に聞こえるように
「五名のうち、一名は次の試合は不戦勝です。この籤を」
そう言うと長い五本の棒の入った筒を示す。
「一本印の入ったものが入っております。それを引いたら不戦勝。一斉にお引きください」

言葉と共に差し出された筒の棒を、五つの手が同時に掴む。
筒から引き抜き、同時に審判長へ示す。
刻々と暗くなる空の下、その中でも棒先に刻まれた朱線が確りと見える。
審判長はその赤印の籤棒ごと、観衆に見えるように籤を握った手を揚げる。

観衆の大拍手の中、朱線のついた棒ごと手を高く掲げたトクマンの顔も赤くなった。

「･･･最悪だ･･･」

当たりクジを引いたトクマン君に寄せられるみんなの大きな拍手と歓声の中。
1人だけ、チュンソク隊長が首を振ると見ていられないって顔で広場から目をそらす。
私もキョンヒさまもハナさんも拍手をしながら、そのチュンソク隊長を見上げた。
「どうして？これで少なくとも、トクマン君は準決勝進出でしょ」
「医仙」
チュンソク隊長は言いづらそうに口ごもる。
ふと逆の横を確かめるとタウンさんもコムさんも拍手はしてるものの、あまり嬉しそうには見えない。

「え、どうして？だって･･･」
「医仙、ここでチンドンと手裏房は消えます。相手は大護軍とヒド殿ですから。
まあ、大護軍とヒド殿がここで直接ぶつかれば別ですが」
「よかったじゃない、チュンソク隊長の言う通りなら準決勝はあの人と、ヒドさんとトクマン君で･･･あ」

口を閉じると、チュンソク隊長とタウンさんとコムさんが何かを期待する顔で私を見る。
「･･･3人で、どうやって準決勝するの？またクジ？え、それともまさか、敗者復活戦とか」
私が尋ねると3人がはぁっと大きな息を吐いた。

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