2016再開祭 | 気魂合競・廿弐

 

 

いずれ当たると覚悟はしていた。遅かれ早かれそうなるだろう、互いに勝ち進んだからにはと。
大護軍といつ当たるかだけが問題と思っていたが、伏兵は意外とあちらこちらにいた。

先刻の元からの戦士という男も、コム殿が三戦目に惜敗を喫したという、まだ見ぬ皮胴着皮長履の男も。
そして今、この目の前にいる人と、まさかここでぶつかるとは。

照りつける真夏のような陽射しの中でも涼し気に見える、黒尽くしの装束のヒド殿が、呟くようにおっしゃった。
「済まんな」

蛇に睨まれた蛙とはこんな心境か。それでもここで敗れたくはない。
賞金でも商品でもなく。互いのどちらが勝ち上がろうと、医仙が無事だと判っていようと。

今の俺を支えるのはそれだけではない。俺の姫の前で無様な姿だけは晒したくないと欲が出る。

あの大護軍と共に戦って来た強者、勝機は薄いかもしれん。
しかし勝負は最後まで判らない。諦めれば全て終いになる。
大護軍の見ている景色を共に並んで見る為には、ヒド殿という壁も臆せずよじ上らなければならん。
「恨みっこなしです、ヒド殿」

穏やかに返した俺の声に、ヒド殿が珍しく表情を動かす。
ほんの僅かに目を瞠り、その右の口許が小さく上がった。
その不器用な微笑みが何処か追いかけ続けるあの人に似ていると、妙に落ち着いた気分で俺は思った。

 

*****

 

「迂達赤隊長が、良い顔をしておる」
ハナさんの向こうから、人垣の中央のチュンソク隊長とヒドさんを見たままの叔母様が、低い声でおっしゃった。
こんな割れるような歓声の中でしっかり聞こえるんだから、よほど発声が上手なのかしら。

そして驚いたのはその大歓声の中、ハナさん、私、キョンヒ様まで挟んだ向こうのタウンさんが
「はい、隊長」
と頷き返したこと。
こんなに離れて、この騒音の中でも、叔母様の声が聞こえるなんてすごい。

「だが・・・」
そこで初めて遠慮したのか、叔母様は後の言葉は続けなかった。
ハナさんは叔母様たちの声が聞こえたのか、聞こえなかったのか。
大きく開いた目がチュンソク隊長と、私の隣にいるキョンヒ様を忙しく行き来する。

そしてキョンヒ様はそんなタウンさんや叔母様の声なんて、もうお耳に届いてもいないんだろう。
アゴの下で固く組み合わせた両手の指先は、いつものピンク色どころか白も通り越して、真っ青になっている。
その唇が、小さく同じ形に何度も動いていた。

チュンソク。チュンソク。チュンソク。

全く罪作りだなぁと、困った気分でそんなキョンヒ様を見守る。
21世紀でいうところのシルムに似た競技だったって気づいたのは、何試合か見てからのこと。
角力なんて格式張って呼ぶから、最初は一体何かと思ってたけど。

確かに李氏朝鮮時代には全盛を誇ったスポーツだし、21世紀にもプロチームは存在したけど。
でもこんな、町中が熱狂するようなものじゃなかったし、私が覚えてる限りは秋夕のお祭りで大会があった程度よ?
この時代には他に娯楽も少ないし、どこでも比較的簡単に出来る大会として、手軽でいいのかもしれないけど。
それが証拠に、今目の前に勝ち上がってる選手のみんなも、いつもどおりの普段着だし。

あの人だって見慣れた服で、勝ち上がった選手だけが座る列から少し興味深そうにチュンソク隊長とヒドさんを見つめてる。
そして私の視線に気づいたのか、その黒い瞳が2人から外れて私に向かって優しくなる。

きっと分かってる。私が応援してること。
ケガだけはしないでねって祈ってること。
向き合った男性2人を挟んだ向こうのあなたに小さく手を振ると、あなたは素早く左右を見て、照れ臭そうに視線を逸らしちゃった。

うーん。夫婦なのにまだダメなのかな?
やっぱり外聞とか、そういう難しいことを考えてるのかしら。
それとも目の前にいる2人の勝負が心配?
あなたのお兄さんみたいなヒドさんと、そして私が知るよりずっと前から一緒にいたチュンソク隊長と。

周囲の観客は何も知らずに、大声で声援を送ってるけど・・・
そんな興奮した周囲の人垣を見回すと、タウンさんそのまた向こう側に厳しいテマンの横顔が見えた。

そうか、そうよね。テマンはさっきあの人に負けちゃったから。
悔しいのかもしれないし、それに今目の前にいる2人はテマンにとって、どっちもお師匠さんみたいな人たちなんだろうし。

みんなそれぞれの思いを胸に、目の前の2人をじっと見ている。
その時審判の男性の

「始め!」

って大きな声が、青空の下の会場中に響きわたった。

 

 

 

 

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3 件のコメント

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    知ってる人同士って
    戦う側も、応援する側も
    いやよねぇ
    勝負だもの仕方ないけど
    どちらにも勝ってほしいし、負けないでほしい
    キョンヒさま ドキドキだね
    勝ってほしいしけど… 怪我しないで! かな?
    ヨン… あぁ かっこいい|艸ω<)

  • SECRET: 0
    PASS:
    いつか、ヨンも誰かと対戦するんですよね…
    対戦が始まってから、目を向けられないんです(お話では あっても…弱)。
    勝負の世界は、仕方ないんですよね…。
    ヒドさんとチュンソクさんの対戦。
    きっと見ていられません。
    辛いな(お話を読んでいるのに、矛盾!?)。
    過呼吸起こしそう(現に、かつて仕事中、救急車で運んでいただいたこと2回。)。
    キョンヒ様ごめんなさい。
    私はヒドさんを…、心で応援してますね。
    せめて、声を出して応援しないってことで、
    お許しを。
    でも…、どっちかなあ~。
    いつかヨンのときは、私はどうしているだろう。
    目を手のひらで隠しながら、そ~っと、対戦の
    場面を読むことになりそうですよ(笑)

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