2016 再開祭 | 嘉禎・22

 

 

結局食べきれなかったお料理をテーブルの上に残したまんま。
会計をしようとお財布を出すと、私たちのテーブルの上を見てアジュンマが困ったみたいに
「あらら、どうする?持って帰る?」
お皿の上の料理を、そう言って指さした。

「ううん、ホテルに泊まってるから温められないし。ご馳走さまでした。すっごくおいしかった」
「そうなんだね、気をつけて」
頷いて席を立つと、足元が揺れる。あなたがそんな私の肘を支えてアジュンマに頭を下げた。
「忝い」

コチュカルの入った袋を持ちあげるこの人に、アジュンマが笑って首を振る。
「いいのいいの、また来てね」
「はい!」

本当にいつかまた来たいって願いをこめて私が元気に頷くと、明るい裸電球の下でアジュンマが笑った。
また来たいな。今度も絶対、あなたと一緒に。
ポジャンマチャから出て、タクシーを捕まえようと駅に向かって歩く。
「はああ、楽しかった」

新鮮な夜の空気を吸い込んでそう言うと、この肘を支えたままの横のあなたが笑う。
「変わらん」
「え?」
「高麗も、ここも、人は変わりません」
そう言って赤い袋を持ち上げて。

「土産まで頂いた」
「あなたがいい男だからよ。大サービスだったわねー」
ふざけた私の口調に、困ったみたいに首を傾げて。
「歩けますか」
「うーん、だいじょうぶ」
「ふらついて」
「だいじょうぶだってばー」

お会計からすると、飲んだ焼酎は多分10本くらい。よく覚えてない。
だけど半分どころか三分の二は、この人が飲んでるはず。
だけどその足取りも口調にも、全く乱れたところはない。

頭の中でぐるぐる回る示性式。
エタノール、C2H5+OH
メタノール、CH3+OH
プロパノール、CH3CH(OH)CH3
アルデヒド脱水素酵素ALDH2で分解される。
この人のALDH2はきっと超活性型なのよ。 きっと今はALDH1が肝細胞でガンガン・・・がんがん、働いてるんだ。
私はしばらく飲んでないもの、きっとMEOSが。みくろ、ぞーむが
戻っちゃったんだわ。使い過ぎは肝臓に良くないもの。そうよね。

良い気分で春の夜の道を歩く。あなたが横にいる。
ソウルなのに。そう考えたらおかしくて、笑いがこみ上げる。
「どうしました」
「だってー、ヨンアが横にいるんだもん」
「はい」
「うれしいんだもん」
「・・・はい」

しまりのなくなった熱いほっぺたを両手ではさむと、足がふらつく。
「イムジャ」
「はーい!」

片腕を勢い良く上げる私を、困ったみたいな黒い瞳が見つめる。
「背負いますか」
「え?」
この人は羽織ってた自分のジャケットを脱いで、私のウエストにぐるぐる巻きつけ始めた。
「なあに?」
「隠して下さい」
「えー、かっこわるーい」
「格好など」

ジャケットの両袖をウエストでぎゅっと縛って、大きな背中がくるりとこっちに向いた。
「乗って下さい」
「やだ!」
私の大声に驚いたみたいに、地面に膝をついたこの人が肩越しに振り返る。
「は」
「このジャケット、かっこ悪いからいや」

ウエストに巻かれたジャケットをほどく。
それをこの人の首からタオルみたいにぶら下げると
「下衣が見える方が、余程・・・」

この人は口の中でブツブツ言って、怒ったみたいに私を見る。
「なあによー」
「隠さぬなら背負えません」
「やだ!」
「・・・イムジャ」
「おんぶって言ったじゃない!」

両足を踏ん張った瞬間、久し振りに履いたヒールがぐらっと揺れる。
しゃがんでたあなたが立ちあがって私を見下ろして、ジャケットをかけたままの首を振る。
「歩けますか」
「あるけませんっ」

今度は私が、地面にしゃがみ込む番よ。
しゃがんだ私の目の前に呆れ顔のままもう一度、目の高さを合わせるみたいに、この人がしゃがみ込む。
「・・・では」
溜息をつくとこの人は私の背中と膝の後ろを大きな手で支えて、そのままひょいと抱き上げた。
器用に肩を揺すって掛かってたジャケットを指先でキャッチすると、私の足の上からぐるりと巻きつける。
「ちょっと!」

その大胆な輸送方法に思わず叫ぶ。
おんぶはいいわ。酔っ払いカップルの鉄板だから許されると思う。
だけどお姫様抱っこは別よ。
こんな風に歩いてる酔っ払いカップルなんて見た事ない。
おんぶでしょ?普通はおんぶよ!!

足をばたつかせて降りようにも、ジャケットでしっかりガードされててなかなか動かせない。
ジャケットを私の膝の後ろにもう一度しっかりはさみ込んで、見えてたひざ下を隠して、この人は満足そうに歩いてく。
「おろしてよ!」
「歩けぬのでしょう」
「じゃあおんぶで良いから!」
「隠したくないのでしょう」

腕の中で暴れる私を見て、この人は楽しそうに低く笑う。
「これなら隠せる」
「恥ずかしいでしょ!」
「誰も俺を知りません」
「私が恥ずかしいんだってばー!」
「顔を伏せて下さい」

すれ違う人たちは腕に私を抱いたこの人にビックリしたみたいに、何度も振り返って歩いていく。
酔ってるから、幸せだから、恥ずかしいから?
顔がどんどん熱くなる。普段ならここまでハメ外さないのに。

その首へ腕を回してしがみ付いて、Tシャツの胸に顔を埋める。
どっちにしても、これ以上大騒ぎして顔を見られるような醜態は避けたいもの。
「それで良い」

さっきタクシーを降りた角まで来ると、私を抱っこしたこの人は涼しい声で言った。

「馬車はどう捕まえるのですか」

 

 

 

 

12 件のコメント

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    何だか ヨンも慣れてきたようで
    順応性が高いのね~( ´艸`)
    ここでなら 剣も使わないので
    おんぶもOKだったのに
    隠すのいや~なんて 言っちゃうもんだから
    そんなことに ジタバタもできず
    ヨンの思うまま…
    束の間ですけど 楽しんでますね~
    うふふ♥

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    さらんさんこんばんは❤️
    ヨンは周りが気にならないのね~!
    天界なら剣も持つ必要ないからおんぶしてあげようと思ったのにねo(*´ヮ`*)o
    ウンスをお姫様抱っこしたって誰に見られても恥ずかしくもない。
    ウンスしか見えていない所かっこいいわー❤️
    天界デートを楽しんでウンスも我儘言いたいよね❤️
    堂々としてて 見てるこっちとウンスが恥ずかしい( ´艸`)

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    ヨンの一本勝ちですね(^^)
    ソウルのど真中での
    お姫様抱っこ❤
    羨ましいですわ~~(*^^*)
    さらんさん
    まだまだ甘い二人が見れるのかなぁ?
    素敵なお話をありがとうございます❤

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    さらん姉さん天界デート楽しい‼︎
    ヨンったらベッドに触れれば高麗ではウンスには硬すぎたとか食すればコチュカル貰ったりとか結局考える事はウンスの事ばっかりなんですよね。
    ますますヨンに惚れちゃいます\(//∇//)\
    そりゃ街中でお姫様抱っこなんていないっしょ‼︎
    でもそれで歩けちゃう逞しいヨンがたまらんわ~

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    さらんさん!ヨンの現代のものに対する高麗的表現がいちいちツボですぅ!本当はヨン&ウンスの甘々を楽しみたいのですが、ホテルのドアキーやパソコンのキーボード、食べ物屋さんでテーブルに並ぶ赤いモノ達など…
    極めつけは、涼しい顔で「馬車はどう捕まえるのですか」
    もう楽しい!!続きももっと楽しみにしてますね~

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    大安吉日、金曜の夜、私もちょっと嬉しいことがあり、外で飲んできました。
    さらんさんのヨンに逢うために開けた部屋(*^^*)
    やっぱりヨンとウンスは、甘々でいいなぁ♪
    私も少しお酒を・・なので、気持ちだけ、本当~に気持ちだけ ヨンに甘えている気分になりました。ウンスの足が見えるのを許さない、過保護なヨン。嬉しそうに、ウンスを抱いているのね♪♪

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    私のお守は大変よ?ウンスさんは言ってましたが(笑)
    なんだかごきげんで、炸裂してますね♪
    しかも、ヨンがお姫さまだっこしてくれる♪
    しかし
    帰ったら、マンボさんの店に張り紙が出そうですよね
    ピリッとウマ辛、酒の肴!とか、大護軍お誂え厚い軟い布団、5枚襲がお勧め!なんて。。。

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    ソウルのど真中で
    お姫様抱っこ❤
    もう――羨ましいですわ~~
    さらんさん❤
    まだまだ甘い二人が見れるのかなぁ?
    毎回ニヤニヤしながら読んでおります(^^)
    昨夜コメント投稿した時に??な
    表示がでて、再度コメントさせて頂きました。
    もし、2度の投稿になっていましたら、ごめんなさいm(__)m

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