2016 再開祭 | 卯花・前篇

 

 

【 卯花 】

 

 

風が温い。そう感じてからの数日はまさに破竹の勢いとなる。
連勝の波に乗る軍と似て、どうあっても止められん。
何をしようとその力を増し、怒涛の如く押し寄せる。

今朝は白かった根雪の地面が夕には黒くなっている。
今朝は枯れていた細い木枝に夕は緑が芽吹いている。

長い冬を忍んだ後の、春に開く花の喜びと勢いはひとしおだ。

あの方の丹精込めた宅の庭に、今日も嬉し気な花が加わる。
秋にコムが枝を落とした後、こんもりと小さく丸まっていた卯花も同じく。
今は紅い新しい枝を一斉に伸ばし、見事な白い花を鈴生りに抱いて揺れていた。

周囲には一足先に咲き始めた春花が所狭しと群れ咲いて、白の鈴の花景色を引立てている。

金銀の花が目を引く忍冬。
鮮やかな黄色に靡く連翹。
秋の成果を思わせる木通や杏。

合間には一足先に花を落とし、青々と新葉をつけた紅白梅。
桃。椿。山茱萸。花梨。そして奥へと続いて行く若木の列。

足許の地には春の穏やかな海のように広がる草花。
菜花、蒲公英、蓮華、片栗、山椒、菠薐草、蓬、土筆、そして名も知らぬ濃淡の緑の波。

それだけ多くの薬草や薬木が植えられても整然としているのは、コムの尽力も大きかろう。

門を守るだけでなく、暇を見つけては奴が握ると小枝のように見える竹箒を手に庭を掃き清める。
薬草が充分に育つよう周囲の余分な草を抜き、伸び出た枝を整えてくれる。

この庭を見るたび思う。心の底から感謝する。
あの方が俺の為を想い、その心配と愛情の数だけ見つけ出し、増やしていった木草花の景色。
そして整えてくれるコムの配慮。

木々が拵える夏の暑さを助ける木下闇。
秋の終わりに落葉が敷く黄赤の緞通。
静まり返る真冬の凍った一面の銀景色。

だからあなたを膝に抱く。そして二人で眺める。
あなたが俺を守ろうと植えたのなら、俺はあなたごと庭を守ると。
あなたが嬉しそうに笑う。その笑顔ごと抱き締める。
どれ程に抱き締めればこの心が通じるのかと、途方に暮れながら。

その愛しい庭の中、鳴き交わす鳥の声に聞き分けやすい声が幾つも混じるようになるのも春だ。

高い声で鳴き上手なのは親鶯。
ほーと高く鳴けずに閊え、けきょと繰り返すのは子鶯。
木々の枝の間を忙しなく飛び回りつつ花を啄み囀る目白。
ちくちくと高い声で繰り返す四十雀、一際大声の主は鵯。

そして大切な俺の小鳥は、今日も厨で囀っている。

 

*****

 

「春だなあ」
私の声に台所で野菜を洗ってたタウンさんが顔を上げて頷いた。

「はい、ウンスさま」
「この季節って何だか、いっつもドキドキするの」

正直に言うと、タウンさんが首を傾げる。
「どきどき、ですか」
「そうなの。きっとホルモンの関係だと思うんだけど。人間も動物だしねー」

人間も動物、の部分は分かってくれたんだろう。タウンさんは面白そうに笑って言った。
「そうですね。冬には冬眠したくなりますし、春には浮き立つような気分になります」
「でしょ?!」

賛同者を得て力強く頷く私に、タウンさんはオンニの顔で
「まあ、冬眠できないので仕方ありません。人は寝貯めが出来ぬと」

そう言って、台所に積まれてる野菜の山を一抱え持ち上げる。
「動物なら洗わず食べられますが、人ではそうもいきませんし」
その野菜を水を張った桶に入れて、丁寧に振り洗いしたあとに、根っこに付いた泥を指先で落とす。

「けれどどちらかというと、私は冬より春の方が眠いです。昔から春眠暁を覚えずと申しますから」
「そうよねー。私のいた世界では勝手に冷暖房で温度調節してたけど、高麗に来てしみじみ実感したわ。
寒いから、冬の間は充分睡眠がとれてないのかもね。春に温かくなると、体温も上昇して眠くなる」

そんな風に言いながら、ふと口をついてしまう。
「でも1人じゃないから、いつだってあったかいけど」
私のそんな冗談めかした言葉に、クスクス笑いが返って来る。

「一人寝の寒さに季節は関係ないですよ、ウンスさま」
「そうなのよね。でも何しろ私の場合、2人で寝るようになったのがつい最近だから」
「・・・寝辛いですか」

タウンさんが急に心配そうな声で、小さく私に聞いた。
「うーん、寝づらいって言うか・・・」
どう説明していいか分からずに、私は思わず次の言葉に詰まる。
「寝づらいんじゃないの、ただね・・・」

そう。結婚どころか誰かとベッドに一緒に寝るなんてなかったから、知らなかった事がたくさんある。
気になる事も山ほどある。そして迂達赤では一体どうしてたんだろうって、心配にもなる。

さすがにそれを打ち明けられるのも質問するのも、媽媽じゃまずいって思うくらいの判断能力は残ってるつもり。
だけど・・・お姉さんみたいなタウンさんなら?
「あのね」

私はここぞとばかりに声を小さくして、タウンさんを手招きした。
タウンさんは半分心配そうに、半分戸惑った顔で、さっきの野菜を桶に沈めたまま私のところへ歩いて来ると、真剣な目で私を見る。
「先輩として、タウンさんに聞きたいんだけど」

自分が思ったよりもずっと深刻そうな声が出てしまう。だって最近、本当に気になってたんだもの。

タウンさんもその声に表情を改めると、黙って小さく頷いた。

 

 

 

 

ウンスとタウンの女子トークを、偶然だけどお約束でヨンが立ち聞きしてしまう、そんなお話をリクエストさせてください。
最後はコムに立ち聞きしてるのを見つかるオチでお願いします❤

天然ウンスさんが話しているうちに、相談からおノロケに変わってしまい、聞いてるヨンが照れるやら焦るやら・
・・みたいな感じだと嬉しいです❤ (ぶんさま)
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4 件のコメント

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    ウンス。
    何かな?何かな?
    気になりますよ(^-^;
    さらんさん家の
    大好きなコムとタウンの登場
    お話の続きが楽しみです❤

  • SECRET: 0
    PASS:
    ヨンと二人で寝るようになった最近のウンス、
    心配事あるの?
    二人だから、温かいのよね。
    でも、何が気になるの?
    知りたい知りたい、訊きたい。

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