2016 再開祭 | 李・前篇

 

 

【 李 】

 

 

一日ごとに温みが増していく。

目覚めの寝台、抱き寄せる細い肩。
起き抜けの洗顔の水、二人向き合う居間に斜めに射し込む朝陽。

寒がりなあなたが喜ぶ春が来る。

二人で見る雪も格別だが、花の許を歩く姿も美しい。
結局どんな姿を見ても、この眸も心も釘付けになる。

何故見飽きぬのだろう。涯なく湧き上がるのだろう。
これ程強い想いは、いつになったら収まるのだろう。

触れているのに渇望する。 抱き締めたい。いつでも触れたい。
共に居るのに幾度も思う。 これでは足りぬ、まだまだ足りぬ。

初雪の中を歩き、満開の桜を見上げ、盛夏の驟雨に濡れ、秋の紅葉を拾う。
明けていく空の昇る朝陽に、見上げる夜空の流れる星に祈る。
誰にともなくこの眸を閉じ、どうか離れて行かないでくれと。

移り変わる日々の中、季節の中で心に刻む。天界のあの言の葉を。
愛している。口にする事は少なくとも。
変わらない。例えどれ程の時を経ても。

あなたを愛している。昨日より深く、そして明日よりはまだ浅く。
雪のように、花のように、雨のように、落葉のように胸に積もるばかりの想いと共に。

温かい時も、寒い時にも、いつでもこうして横に居る。
今朝もこうして先に目覚め、朝陽の中の寝顔を見詰められる。

まだ仄暗い寝台の上、長い睫毛が揺れるのも。
ぴたりと添う細い肩が寝息と共に上下するのも。
腕枕から流れて枕に広がる、亜麻色の絹糸の髪も。

全て俺のもの、俺だけのものだ。
幸福な眩暈の中でその髪を静かに撫で、もっと寝ていろと心で思う。
心ゆくまで見ていたい。腕の中の俺だけのあなたを。
滑らかな白磁の頬も、咽喉元の鼻先も、笑みを浮かべた唇も。

起こさぬよう指先で辿り、邪魔せぬよう鼻先に己の鼻を擦りつける。
顎に手を添え上向かせ、隙を盗んで奪おうと己の唇を寄せた時。

夢に笑んでいるはずの紅い唇が開き、小さく何か呟いた。
起こしたのかと睫毛を見ても、静かに閉じられたままだ。
しかし口許は確かに動き、声にならぬ言葉を呟いている。
最後に温かく優しい吐息と共に、確かに零れたその一言。

俺のあなたはこの世で最も美しい寝顔で、双の唇の先が触れ合う距離の向こうで呼んだ。
この上なく甘美な毒を含んだ吐息と共に。

「ヒョヌ先輩」

 

*****

 

夢だって分かってる。寝ているのに、はっきりと。
なんて都合がいいんだろう。夢の中なら何でも出来る。
臆病で怖がりで、手放したくなかった男の前で何ひとつ言えなかった、純粋で世間知らずの田舎娘はもういない。

ううん、あの頃だって本当の私は野心に溢れてたし、心のどこかで自信もあった。
私には必ず何かが出来る。こんな風に都合よく扱われていい女じゃない。
だけど本当に怖かった。それが自尊心なのか自惚れなのかの区別がつかずに。
ソウルではみんながもっと自信に溢れてたし、その自信を裏打ちするようなバックグラウンドを持っていたから。

お金、地位、名声。
そしてそんなものを目視可能なタグ化するアイテム。
車、家、洋服、ブランドのバッグ。

私はただの医学生で、頭はズバ抜けて良かったけどそれだけだった。
ピラミッド社会の下階層で、這い上がるチャンスをただ伺っていた。

自分が満足する事が、誰かを満足させられる事だと知らなかった。
誰かに厳しくする事が、愛想笑いの100倍も辛いと知らなかった。
そんな風に厳しく、そして優しく教えてくれる人は、あの頃の私の周りにはいなかった。

ヨンア、あなたのような男性はいなかった。
そしてチャン先生や叔母様みたいな人たちも。

今それを知っている私は、何故か分厚いメガネをかけていた。
走るたびにずれ落ちて視界がぶれるのを一生懸命上げながら。
そして長く結った三つ編みが、肩の下で揺れていた。

私は走っていた。どこかに向かって出来る限りの猛ダッシュ。
まるで本当にあの頃の、都合の良い使い走りだったユ・ウンス。
あの頃の私は確かにそんな子だった。
携帯1コール、呼ばれればどこにでも行った。明け方でも夜中でもただ一目会えると嬉しくて。

嬉しくて?ううん、違う。
今の夢の中でも、そしてあの頃の私も分かってた。知っていた。
どこにでも行くのは怖いから。怒られるのも、捨てられるのも。
だから何でも言う事を聞いた。彼は一言独り言を言えば良かった。

実習が大変でレポート書く時間がないよ。
腹減ってるのに、外に出る時間もないな。
おかしいわね、笑っちゃう。電話をかける時間はあるのにねえ?
今そんな風に笑い飛ばせる私は、あの頃まだ自分をごまかしていた。だって怖かったから。

息を切らして走っていた。どこかに向かって一生懸命。
ああ、ここだったんだ。あの頃の彼とよく待ち合わせた店。

オシャレでもないし、大学の近くでもない。ただ彼のアパートから一番近くて、一番安かった店。
学生相手の、量が自慢の大衆食堂。
そんなところで待ち合わせることを許す女だって思われてるのが一番自分の価値を下げてることに、気付かないフリをした。

なのに夢の中の私は、嬉しさにその扉を開けた。
この中に彼がいる、それだけで弾むような気持ちで。

 

 

 

 

ウンスが夢で昔付き合っていた男の名前を呼んでしまい〔決して懐かしんでる訳ではない寧ろ私はこんなに良い男をゲットしたのよと自慢げにしてる夢〕、それを聞いたヨンが悋気爆発w
メヒと呼んでしまったヨンの逆バージョンを❤️(majuさま)

 

 

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5 件のコメント

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    とってもいいムードだったのに
    そ、その唇から…(ㆆ_ㆆ)
    だ、誰だ。
    ウンス… よりによって
    マズイですよこれは(笑)
    旦那様のご機嫌が… 急降下です
    ٩(๑`ε´๑)۶ムキーッ

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    今晩は、まぁヨンが、寝言でメヒと呼んだのよね。その時のウンス複雑な思いだったと思うわ。焼きもちと言うより夢を、見る程と

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