2016 再開祭 | 眠りの森・伍

 

 

この人の眠る部屋は、どうやら宿のスイートルームに相当するような、一番上等で大きな部屋らしかった。

光の溢れる部屋の中、眠るあの人のベッドが見える位置にある大きめのテーブルを私と一緒に囲んでいるのは、チュンソク隊長とテマン、トクマン君とキム先生。
チュンソク隊長はベッドで眠ったあの人を気にするように視線を向けたまま、囁くような声で尋ねた。

「医仙。ここで話して、大護軍のお寝みの邪魔になりませんか」
「ううん、いいの」

チュンソク大護軍の心配そうな声にキッパリ首を振る。
この人の部屋にみんなを集めて話したいって言ったのは私から。
バイタルサインに問題がなく反射反応もあるのに眠っているなら、むしろ外刺激、話し声や人の気配があった方が効果的だって判断してだった。

第一それぞれバラバラに話を聞いていたら時間がかかり過ぎる。こうして一気に集まってもらえば、それぞれの目撃談が聞ける。
何を聞いたって今さら驚かないし、この人が起きるなら何だってするわよ。
覚悟を決めてまずはこの場にいる一番の責任者、チュンソク隊長に向き直る。

「チュンソク隊長。まず知りたいの。私が聞いていいか分からないけど、今回の戦の敵は誰なの?」
ずばりと聞くとチュンソク隊長は困ったように黙り込む。
無言になってしまったチュンソク隊長の代わりに答をもらおうとテマンとトクマン君を見ると、2人とも下を向いて黙ったまま。
「言えないような人が敵なの?」
「大護軍に口止めされております」
「チュンソク隊長」

私の真剣な声に、チュンソク隊長がやっとこっちを向いた。
「あのね?この人との約束を破れとは言えないけど、でもこの人を起こすにはどんな情報でも欲しいの。
ケガした状況、武器、場所、ケガを負った後の経過。すぐ意識を失くしたのか、しばらく起きてたのか。
どんな小さなことでもいいの。だから教えて下さい」

反論されないように一気に言った後、私はテーブルに額をぶつけるくらい頭を下げる。
「お願いします」
チュンソク隊長はそれでも無言で、私が顔を上げた後に初めて重い口を開いた。

「・・・敵は・・・倭寇なのですが」
「倭寇?キム先生、敵はシロウトだって言ったわよね?」
「はい」

次に矛先が向いたキム先生は、比較的冷静に頷いた。
あの人の命令を絶対守る迂達赤のみんなに比べれば、キム先生の方がまだ話が早そう。
「倭寇って海賊みたいなものでしょ?シロウトじゃないじゃない」

私が文句を言うと、チュンソク隊長がキム先生と目を合わせてから重い口を開いた。
「大護軍から口止めされております。大護軍が今回の戦に医仙をお連れしなかったのも、それが理由です」
「口止め?」
「ウンス殿」

キム先生がチュンソク隊長の声を引き継ぐように私を見た。
「禾尺をご存知ですか」
「ファチョク?ううん。何?」
「獣の狩りや屠殺、革鞣しを生業とする者らの事です」
「そうなの?」
「ええ。命を奪い血や肉に触れるので、穢れを負っていると言われ、他の民から見下される事もあります」
「はあ?!」

呆れてしまって、思わず大きな声が出る。
そういう職業差別意識が中世にあったのは、知識としては知ってるけど。

「そんな事言ったら、しょっちゅう手術してる私たちみたいな医官なんてどうなるのよ?
血と肉にまみれて、穢れてるもいいとこじゃない」
「まあ・・・確かに、そういう考え方も出来ます」

キム先生は私の発言に鼻白んだ顔で、それでも気を取り直すように言葉を続ける。
「今回の敵は、その禾尺です。彼らが倭服を着込み、倭寇の振りで漢城で暴挙を繰り返しております」
「フリ?じゃあ、敵も韓・・・高麗の人、なの?」
「率いる頭が倭人かどうかは別として、実際に市中で焼き討ちや略奪、人攫いを繰り返しているのは禾尺を中心とした高麗人です」
「どうしてそれが分かったの?だって少なくとも、和服を着てるんでしょ?」
「さあ、それは私にも」

キム先生が言い淀むと、
「手裏房からの情報です。大護軍が調べました」
その部分をトクマン君が横から補足する。
倭寇、倭人。そのキーワードが引っ掛かる。

「・・・ねえ。もし今回の浅い傷が理由であの人が寝てるなら、毒が理由って事はない?」
私の声に他の4人が驚いたような顔で私を見た。

「迂達赤のみんなは覚えてると思うけど、私が徳興君に打たれた毒は、倭国のトビムシの毒だったわ。
チャン先生がそれを知って、解毒薬を作ってくれたもの。間に合わなくて別の薬で解毒したけど・・・
針で刺されただけであの騒ぎになったし、あの人の刀傷がもしも毒を塗った凶器で受けた傷だったら」
「そ、それはありません、医仙」

首を振って断言したのはテマンだった。
「どうして?」
「大護軍の切り傷は、俺の手刀がかすったんです。敵の剣じゃない」
「え?」

テマンは心底悔しそうな顔で、唇をぎゅっと噛んでいる。
その口許が震えて、今にもここでまた泣き出しそうな顔で。

 

 

 

 

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2 件のコメント

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    今晩は、ヨンは助かるの ?テマン君が、言う通りなら心配要らないのかな?でも眠ったままとはやはり心配だよね?ウンスしっかりと診察して目覚めさせて

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