2016 再開祭 | 眠りの森・参

 

 

東の地平線が、世界で一番きれいなオレンジ色のペンでなぞったみたいに明るくなって来る。
群青から青にそして水色に色を変えながら、淡いパステルピンクの雲を浮かべた朝焼けの空。

駆け抜ける見渡す限りの草原に、視界をさえぎるものは何もない。
あなたが横にいないのが怖い。こんなところを馬で走るの初めて。
「テマナ!」

そんな思いを振り払おうと上げた私の大声に、横の馬の背中からテマンが振り返る。
「北に行くんじゃないの?!」

いくら方向音痴でも、開京を一歩出たら周辺の地理に疎くても、北と南くらいは分かる。
自慢じゃないけどあの人の目を盗んで逃げようとした。
一度だけ、慶昌君媽媽にお会いしに江華島にも行った。
強引に連れて行ってもらった双城総管府。
あの人のご実家のある鉄原。巴巽村には何度か一緒に出かけてる。

そのくらいの知識しかなくたって、道が違うって分かる。
これじゃ方向が逆。今テマンは、どんどん南に下りてる。

テマンは口を開くのも惜しいという顔で私を見た。
「ちがいます。今回の戦は、漢城で」
「ハンソン?!」

ハンソンって、ソウルの旧地名のことじゃないの!
テマンの口から飛び出した名前に思わず叫び返す。
なんで?なんでソウルで戦争なんてしてるのよ?!
私の疑問に答はもらえないまんま、
「とにかく早く!」
テマンは手綱を握り直して、またすぐに前を向いてしまった。

誰よりあの人を大切にしてるテマンが、嘘をつくわけがない。
あの人が大変な時にわざわざ意味のない遠回りなんてしない。

2頭の馬は先を争うみたいに、草原の中に続く一本道をすごい勢いで走り抜けて行く。
その邪魔にならないように、私は鞍の上で出来る限り体を倒して風の抵抗を避ける。
結ぶのも忘れてた長い髪が、強い風で肩から後ろになびく。
あなたなら必ず結べって馬に乗る前に注意してくれたのに。

でも今のんきに馬を止めて結び直す暇なんてない。
髪がぐちゃぐちゃになったら困った顔で、あの大きな手でなでて、あの指で整えてくれなきゃダメなのに。
文句はあなたが起きた時、全部まとめて言わせてもらうわ。

 

*****

 

「医仙、テマナ!」
「隊長、大護軍は!!」

当然といえば当然だけど、今漢城と呼ばれるこの辺りにあの頃のソウルの面影なんて、ひとつも見つからない。
遠くに見えてる大きな川はもしかして漢江なのかしら。
こんなところで戦?って、不思議に思うような田舎町。

辿り着いたのはお昼前。太陽はちょうど真上くらいから私たちを照らしていた。
「医仙」

テマンが馬から下りる前に大急ぎで駆けつけたチュンソク隊長が、強張った顔のままで馬を押さえてくれた。
「ご無事で良かった。突然お呼びして申し訳ありません」
「ううん、私こそ、呼んでくれて嬉しい」

馬の背中から全力で急いで下りて、ひとまず周りを見回す。
目の前には川。その向こうとこっちの両岸を結ぶ木で出来た橋。
川向うに1件だけ建ってる、どうやら旅館みたいな建物。
その周りを守るみたいに見慣れた迂達赤のみんなが立っている。

その正面玄関に続いてる橋に向かって一目散に駆け出す。
あの人がいるはず。一刻も早く。早く。それしか考えられない。

どんなに急いでたとはいえチュンソク隊長に挨拶くらいするべきだったって思い出すのは、ずっと後のこと。

旅館に行くお客さんしか通らないんだろう。ううん、通さないようにしてるのかもしれない。
川の両岸を結ぶ旅館の前の橋は、馬じゃすれ違えないような幅しかなかった。
その細い橋を脇目も振らずに走って渡る。

「ヨンア!!」

橋を渡った勢いでそのまま旅館の正面玄関に滑り込んで、入口ロビーみたいなところで大声で叫ぶ。
「医仙、いらして下さったんですね!」
その入口のロビーを守ってたチョモさんたちが、私に向かって深く一礼した。
同時にそのロビー奥の2階部分の手すり越しに、上の階を守ってた迂達赤のみんながわらわら集まって来る。

「医仙、医仙!!」

さっきの私くらい大きな声で叫びながら、その階段を3段抜かしの勢いで駆け下りて来る、背の高い男性。
「トクマンくん、あの人は?」
「上階の奥です。ひとまず上に。キム御医も」
「ウンス殿」

出迎えてくれたトクマンくんと階段を駆け上がると、2階の廊下の奥からキム先生が急ぎ足で歩いて来た。
「相変わらず、判りやすいご到着ですね」
「あの人は?」
「まずはいらして下さい。手水はチェ・ヨン殿の部屋内に設えております」

先生は用件だけ告げるとくるっと背中を向けて、今来たばかりの廊下を早足で奥に戻って行く。
私は何を考えることもなく、その先生の背中を追って走り出した。

 

 

 

 

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2 件のコメント

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    ヨンのいる場所へ、
    ヨンが起きること無く眠っている場所へ、
    ウンスが来ましたよー。
    でもまだ、ヨンの側に行けない。
    ウンス、早く、早く…
    ヨンを助けてね!
    そう願っているのは、ウンス、貴女が一番のはずですが、つい…。

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