2016 再開祭 | 紙婚式・参

 

 

「イムジャ」

秋の朝。寝間着のままで寝台の上に半身を起こし、茫とした表情のあなたがゆっくりと頷いた。
窓から射す透明な光の中、寝乱れた髪を額から掻き上げて。
「・・・うん・・・」
「これは」

寝台横の小卓、見慣れたこの方の手製の天界の暦。
其処に記された赤い印を己の指先で示す。
未だ半ば閉じた鳶色の瞳を懸命に見開いてから、この方は何か言おうと口を開けた。
その拍子にふわぁと声を上げると、大きな欠伸をし。

そしてその欠伸に口許を押さえた後、眠そうな瞳が暦を確かめる。
「ああ、結婚記念日」
「けっこん、きねん」
「うん。去年のこの日、私たちが結婚式を挙げたのよ」
「直に一年」

ようやく眠気が醒めて来たのか、その声に少しずつ力が戻る。
「そう。お祝いしたいと思ってマークしといたの」
「はい」
「お互いに早く帰れるといいなぁ」
「忙しいのですか」

着替え終えていた俺が寝台の端に腰を下ろすと、あなたは首を振り俺の背を後ろから抱く。
「媽媽のご体調は良さそうだし、多分だいじょうぶ。あなたは?忙しい?」

甘えるようにぺたりと貼り付く軽い体の温かさを背に、肩に載せられた頭を受け止める。
首を振り向けその頭の頂に小さな口づけを落とすと、擽たそうな笑い声が肩に落ちた。
「問題なく」
「じゃあ、一緒にいられるわよね?長くは無理かもしれないけど、どこか旅行に行きたいなあ」
「旅に」
「うん。1週間なんてゼイタク言わないから。2泊とか3泊・・・」

その声に頭の中で考える。迂達赤の鍛錬。王様の御日程。歩哨。
どうにかなろう。いや、万障繰り合わせてどうにかしてみせる。

冬になれば動けなくなる。
雪の行軍に慣れた俺とは違う、この方は雪中馬を駆るのは無理だ。
まして婚儀から一年の記念。その望みは全て叶えたい。

「行きましょう」
「ほんと?!」
甘えたように載っていた肩上の小さな頭が跳ね起きる。
「ほんとに行けるの?!」
「ええ」

言ってみて良かった。昂るこの方の声に安堵の胸を撫で下ろす。
これ程喜んで頂けるなら、チュンソク始め迂達赤の面々に留守を預けてでも。
どうにかなろう。子供ではない。その為に平素から死なぬ程度に鍛えている。
後は王様のお許しさえ頂ければ、晴れてこの方と出立出来る。

「うれしい!!」
「はい」
「じゃあさっそく今日のご拝診の時、媽媽に伺ってみる」
「判りました」

朝陽の中のこの方の笑み顔に、俺は上機嫌で頷いた。
その時ふと頭に閃く。

短い旅でこれ程なら、形に残れば更に喜んで頂けるのではないか。
婚儀一周年の記念の品を。
贅沢な品、高価な品、買い物が好きだとご自分でもおっしゃった。
あの日も王妃媽媽や叔母上に様々な借り物をして、縁起を担いでおられたほどだ。

身に着けても、飾っても、置いておいても良い。
眺めるだけであの日の秋の婚儀を思い出せる物。

旅先で求めるのも良いが、行先に依っては容易に入手出来ぬ事もある。
品は先んじて用意しておき、旅先でこの方に渡す。

間近で揺れる亜麻色の髪に頬を撫でられ、俺は己の腹案に笑んだ。

 

 

 

 

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3 件のコメント

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    結婚記念日♪
    記念の旅行♪
    ヨン、ウンスの願いを聞き入れてくれたのね。
    その上、ウンスに何か記念の贈り物を…と。
    それで、二人で出かけたのかあ。
    それなのに、ウンスの欲しい物は医療品ばかりで、ヨン、がっかりな訳よね。
    二人の心は噛み合わないけれど、愛し合っていることは、間違いない!
    さあ、どうしよう…ですね、ヨン。

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    さらんさま
    切ないお話も好きですが・・・
    こういう何気ない、甘い日常を覗かせていただけるのも大好きです
    ロマンチストなヨンさん
    頑張れるかしら・・・(笑)

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