2016 再開祭 | 棣棠・序

 

 

【 棣棠 】

 

 

半歩斜め後でテマンがふと立ち止まり顔を上げ、その鼻面を天へと向けた。
まだ霞むには少しある、蒼から青への途の早春の空。

吹く風を嗅ぐように黙って見上げた後、奴は俺へ向き直ると首を傾げる。
恐ろしく忠実な猟犬が、無言で何かを訴え掛けるような真剣な眼差しで。

報せたいのは獲物の在処か、それとも危険な敵の獣の存在か。

上手く言葉にならぬよう奴は二、三度唇を開いては閉じ、最後にそれを引き結んでしまう。

互いに言葉は多くはない。
無理に口を割らせても、何も返って来ぬだろう。

奴の見たものが見えるかと己も見上げる。
揺れる棣棠の黄の花の合間、拡がるのは涯なく蒼い空。

此処に居る。

あの丘からすら離れ、帰りを待つ事も出来ずに此処に居る。

無言で前へと眸を戻し、まだ日陰に雪の残る道を歩き出す。

その空に何が見えたのか、テマンの口から伝わる事はなかった。

 

*****

 

宛がわれた仮の寝所の扉口、テマンが徐に床から立ち上がる。
同時に
「大護軍、宜しいですか」

西京将師クォン・ジェクの、未だ聞き慣れん声が扉外で呼ぶ。
「入れ」
それだけ告げると、奴が初めて扉を開けた。

扉内、横のテマンに驚いた顔で一礼すると改めて此方に向き直り
「お邪魔したのではありませんか」
と、部屋内の俺へ確かめる。
「構わん」

妙に律儀で堅苦しくはあるが、その分信頼は置ける男だ。
迂達赤ならば声を掛ける間すら惜しんで、慌てて部屋に飛び込んで来るものを。

しかし奴は馴染が薄い俺に、緊張した肩を強張らせている。
無言のままで扉のすぐ内に立ち深く一礼した後、やっと口を開く。
「大護軍にせっかくお運び頂いたので、今宵は酒宴を催したく。お許し頂けますか」
「宴」
「はい。開京とは比べ物にもならんと思いますが、西京にも酒楼はあります。大護軍は御酒がお好きと伺ったので」

持て成そうと腐心して貰うのは有り難い。
しかしそれなら一日も早く役目を終え、北方へ帰りたい。
いや、正しくは帰るという言葉すら相応しくはない。
王様に願い出、ひたすら北方へ出向いているだけだ。
まるで何かに憑かれたように。追い立てられる如く。

この胸に残るただ一つの焔。一輪だけ咲き揺れる花。

逢いたい。

逢いたくて、一日が長過ぎて、刻がどれ程過ぎたかも判らずに。

ただ日の出と共に目を醒まし、横に居らぬ事に息を吐く。
そして日の入りと共に明日こそ必ずと、儚い望みを繋ぐ。

風に、雨に。陽に、月に。空に姿を追いながらただ祈る。
神仏でも御先祖でもなく、それより大きく見た事もない何かに。

返してくれ。あの方を無事で帰してくれ。
その帰りを待ち、あの誓いの木の根元で石になろうと構わない。
返してくれ。あの声で呼ばせないでくれ。
その姿を思い描くだけで、心の臓が真冬の石のように凍るから。

その願いさえ聞き遂げられるなら、他の事は全てどうでも良い。
酒が有ろうと有るまいと。飯を喰おうと喰うまいと。
眠ろうと起きようと、いつもあなたの事しか夢見ていないから。

否とも応とも返さぬ俺を前に、西京将師は答を待って立ち続ける。
扉を守るテマンは不安げに、伏せた眸を掴まえようと待っている。

 

 

 

 

ウンスさんの帰りを待っていた四年の間の出来事。
ヨンの前に、髪の色は違うけどウンスさんと瓜二つの女性が現れる。

というお話などは……。

NGでしたら、抹消していただいて構いません(>人<;)(>人<;)(>人<;)
(karano1216さま)

 

 

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3 件のコメント

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    今晩は、ヨンは、ウンスヘの、想いが、大きいかと思うから 。いくら似て居てもその気に、成るとは思え無いけど 。どうだろうねぇ。男盛りでしょうに!妓楼に、行って居たのかな ??

  • SECRET: 0
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    毎日更新お疲れ様です
    前回の話ではウンスらしさが無くなるかと思いヒヤヒヤしながら読んでましたがウンスはありのままでよかったです
    ヨンがいつものように呼んでもらえず怒ってるところがなんかニヤニヤしてしまいました。
    この話はウンスと瓜二つの女性の話ってあるのでそれはそれでヨンがどう思うのかが楽しみです
    まぁ、ヨンに限ってはないけど気にはなりますよね((寒´∀`;))
    まだ肌寒い季節ですが体調に気をつけてくださいね

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