2016 再開祭 | 三角草・後篇 〈 弐 〉

 

 

「まずは合甘麦大棗湯と苓桂甘棗湯で、様子を見ましょう」

チャンヒのご自宅への往診の後。
やっとチャンヒのカンファレンスに入った典医寺で、キム先生が私に言った。
「私の診立では血虚心下悸。舌候は淡、舌先白、薄白苔。脈は沈結」
「発作時に私が診た時は沈虚数脈だったわ」
「心の臓も無論気になります。それよりも気になるのは・・・」

キム先生は言葉を切ると、なぜか私をじっと見た。
「ウンス殿」
「なに?」
「チェ・ヨン殿も一緒にお話した方が、良いかもしれません」
「え、どうして?」

確かにマンボ姐さんの紹介で家に来てくれた患者さん。でも実際の治療が始まれば、私たちの専門分野になる。
ただでさえ迂達赤や王様の事で忙しいあの人を巻き込みたくなくて戸惑う私に、キム先生は困ったみたいに言った。

「昼にはウンス殿に会いにいらっしゃるでしょう。その時に少し、お時間を頂けませんか」
私たちの時間を出来るだけ邪魔しないよう、いつもは距離を取ってくれるキム先生の頼みに、意味が分からない私は頷いた。

 

「厭だと」
「はい、チェ・ヨン殿」

昼の典医寺では3人に増えた部屋の中。キム先生は不思議そうな顔をしてるあなたに言った。
秋の終わり、本格的な寒さが始まるにはまだ少し早い。
最後の紅葉越しの光で、部屋の中は透き通るみたいに明るい。

「何が」
「チェ・ヨン殿」
この人の質問には答えずに、キム先生はまず言った。
「あの娘、チャンヒは物を食べていません」
「何故」
「判りません」
「待って、キム先生。それなら最初に私に言ってよ!」

私抜きで進みそうな話の流れに、思わず横から口を挟む。患者の病状なのに、何故最初に私に伝えてくれないの?
「どうして食べてないって診断になったの?」
「脈です」
「でもうちでも出したおやつを食べたわ。ね?ヨンア」
「そこだ。ウンス殿は、どうして間食を勧めたのです」
「どうしてって・・・四診から発作性上室性頻拍、一時不定期に動悸が激しくなる病状だと判断できたし・・・」
「心下悸の患者に症と無関係な飲食を、何故勧めたのです」
「それは、脈と舌の色が・・・」

家に運び込まれた時の頻拍は落ち着いた。それで安心した。
その後の四診の途中に、何が気になった?
そうだ。脈は正常値に落ち着いたのに脾の脈だけが。
腹部に手を当てた時の力のなさと冷たさ、その水音が。そして舌の真ん中の色が。

「消化器・・・脾に動きを感じなくて。だから何か食べないとって」
「判っていらっしゃるからです。ウンス殿はまだ大きな症候に目が行きがち、口にしがちですが、丁寧に診ていらっしゃるのですよ。
ご自身の視診だけで自信があれば、私の診立ては不要でしょう。
わざわざ訊きにいらっしゃらずすぐに心下悸の診断をして、薬湯をお出しになった筈だ。
ご自身の診立で見つけた心下悸以外に気になる処が納得できずに、私の確認が必要だったのではないですか」

私が答えを出してから、キム先生がやっと説明を始めてくれる。
「でも、あんな小さい子がご飯を食べないなんて」
「四診の限り、心下悸は治療が必要でしょう。なしで直るものではない。その診立ては、ウンス殿と同じですか」
「ええ」
「しかし食欲は神仙労と思われます。胃の腑には問題はない。食べられないのではなく、食べない、という選択です。
だからチェ・ヨン殿にも聞いて頂きたかった」

ようやく出て来た自分の名前に、この人は黙って頷いた。
「二つの治療のうち一つは心下悸。薬湯が効くかどうかはこれから経過を診ねば判りません。もう一つは厄介です。心の病」
「何故俺に言う」
「あの家族が、他の町医者にでも診せると決めるなら良いですが。しかし私を連れて行ったという事は、ウンス殿はご自身で診るとおっしゃったのでは」
「言ったわ。そのつもりだもの」
「容易ではありません。今からでも他の町医者に」
「ムリ」

キム先生の心遣いはありがたい。でも最後に投げ出すくらいなら、最初から言い出したりしない。
「心理学は副専攻だったわ。全くの素人ってわけじゃない。他の医者に任せるくらいなら私が診る方がいい。
もちろんキム先生にも、手伝ってもらうことは多いと思うけど」
「それでもウンス殿に負担がかかります。当然チェ・ヨン殿にも」
「・・・そうか」

あなたは椅子を立つと、最後に私の肩にそっと大きな手を一瞬だけ置いた。頑張ろう、とも無理しないで、とも言うように。
優しくそして強く力をこめてから、その温かさが離れる。

「夕刻、迎えに参ります。話はその折」
それだけ言って、あなたは部屋を出て行った。
許してくれたわけじゃない。それでも話し合いの機会はくれる。
今はそれだけでもいい。一刻も早く話すべきはチャンヒ。
心理状態も病状も確認してからでないと、あなたを説得しようにも出来ない。

「キム先生」
私の声に、何だって顔でキム先生が目を合わせる。
「これからしばらく、媽媽のご拝診以外の時はチャンヒのところに通いたいの。いい?」
「駄目と止めても行かれるでしょう。チェ・ヨン殿もお気の毒に」

先生はあきらめた声で言うと、はあっと溜息をついて頷いた。

 

 

 

 

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2 件のコメント

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    今晩は、治してあげたい気持ち分かるけどウンスは、何故ヨンや回りを、見ないの ?はぁヨンが、ウンスの、お陰で痩せる思いだね 。

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