2016再開祭 | Advent Calendar・4

 

 

「クォン・ユジさん」
「はい、テウさん」
聞かずには決められない。
目の前の女性がどれだけ深く、あの日の内情を知っているのか。
ただ、とどこかで走り出しそうな自分を止める冷静な声がする。

内情を知っていると判ってしまえば無視する事は出来ない。
では重要な情報を知らないなら、簡単に無視出来るか?
知らないなら安心ですよと、無責任に断言出来るのか?

国情院も青瓦台も、そんなに容易に彼女を見逃すだろうか。
考えれば考えるほどカフェのテーブルで向かい合っている、この瞬間の方が奇跡に思える。
先輩は相当無理をして、今までこの女性を匿い続けて来たんじゃないのか。

国情院ですら彼女の存在自体知っている人間はごく一部だろう。少なくとも俺は知らなかった。
捜索しながら先輩に阻まれたのか。だとすればこれ以上彼女を匿えば、先輩自体が危なくなる。
それならいっそ、内部の俺が引き受けた方が良いのではないか。
青瓦台はともかくとして、ひとまず俺が保護し折を見て国情院に報告した方が良いのではないか。
少なくとも判断を仰げば、今後の不測の事態にも対応可能だ。一度ここまで首を突っ込んだ以上・・・

デフォルトは「断る」なのに、考える程「引き受ける」に傾いて行く脳内。
結局俺はユン先輩には頭が上がらないし、先輩を困らせる事だけはしたくない。
そしてウンスの件で自分が予想していた以上に、先輩に恩義を感じているらしい。
「正直に話してもらえますか」
「はい」
「先輩・・・こちらの刑事に、信用出来る人にでなければ話せないと言ったそうですが」
「その通りです」
「それはつまり、何かしら話すべき状況を知っていると思って良いですか」

YES NO形式だ。選択範囲を極度に狭める。詳細を言えなくても、これなら言えるだろう。
彼女もそれは判っているのか、無言で素直にこくりと頷いた。

出会って5分なのはお互い様だ。
俺がガードをするかしないかを決め兼ねるように、彼女も俺を信用するかしないか決められないだろう。
さて、素直に頷かれて次にどうすれば良いか。答なんて判り切っている。
「先輩」

椅子の上で初めてクォン・ユジから視線を外し、横に座る先輩に声を掛ける。
「・・・これで、貸し借りなしですよ」
「判ってる」
「俺の次の出勤日はどれだけ伸ばしても年明け、1月8日です」
「判った」
「その日まで・・・」

溜息も迷いも全部飲み込んで、俺は短く頷いた。
「ガードに付きます。動きがあり次第、先輩にも連絡します」
「判った!!」

先輩は感極まったか、テーブルの上の俺の手を固く握って大きく振った。
「いやあ、さすがだ!俺が見込んだだけはある!おまえこそ男の中の男だぞ、キム・テウ!」
「そ、先輩・・・判りましたから」

振り回されながらさり気なく振り解こうとすればする程、先輩の握る手の力が強くなる。
雪の降る12月の町、どうせ握られるなら相手は先輩じゃないよな。
そんな心をまるきり知らない先輩の、嬉しそうな笑顔。
そして手を握りあう男2人をテーブルの向こうから眺めるクォン・ユジの笑顔。

笑顔に囲まれて、俺だけが未だに少し後悔しながら、なすすべもなく手を振り回されていた。

 

*****

 

「場所ですが」
ようやく落ち着き手を離してくれた先輩と実務的な話に入る。決めた以上迷う時間はない。一刻も早く。
「ああ」
「いきなり国情院はまずいと思います。まずはホテルに偽名で」
「テウヤ」
「はい」
「ホテルは、まずいかもしれない」
「え?」

先輩の言葉を裏付けるように、クォン・ユジも無言で頷いた。
「実は彼女はここに来るまで、俺の家にいた」
「・・・家って、先輩、ご家族は」
先輩は既婚者だ。奥さんはもちろん、息子さんもお嬢さんもいる。
「ワイフにだけは事件の目撃者と伝えた。子供たちにはそれすら言ってないんだ」
「何故」
「彼女、署に連絡を取る前には自分だけでホテルにいたんだが」
「・・・部屋に、誰かが来るんです。何度も何度も。それが怖くて警察に連絡して、それでユン刑事さんと話せたんです」

クォン・ユジはその時の恐怖を思い出したか、初めてにこやかだった顔を強張らせた。

 

 

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