2016再開祭 ｜ Advent Calendar・序篇

【 Advent calendar 】

町が浮かれている。
溢れるBGMは毎年恒例のクリスマス仕様。
音楽に詳しくはない俺でも優雅な弦楽器の重なる音や華やかさを添える管楽器、そして厳かなクワイアぐらいは判る。

通りを行き交う人々の、冷たい空気の中に吐き出す息が白い。
そして白い息の中に輝く、店先に飾られたオーナメントやツリー。見上げるほど大きな物、掌に収まるほど小さな物。

白、金、銀、緑、赤、ブルー、ピンク。
そんな色とりどりのライトが寒い町の中で、厭でも人々の財布の紐も心も緩ませる。

だってクリスマスじゃない？

そんな声が聞こえた気がして、ふと足を止めて振り返る。
擦れ違う知らない人間だらけの人ごみに、姿を探してしまう。

そんな俺の左右を、目的地を知る人々が通り過ぎて行く。

俺だけが立ち止まっている。

俺だけが、目的地を見失っている。

*****

「いい加減にしてくれよ」
先輩が居酒屋のテーブルの向うで、ウンザリしたように何杯目かの焼酎のグラスを煽った。
「だからあの時止めたのに、お前が選んだんだろ。俺にぶん殴られても良いって覚悟だったんだろ」
「殴らなかったでしょう」
「殴りたかったさ！」

どれだけ酔っているとしても、半分は本音なんだろう。
先輩は吐き捨てると、空のグラスを大きな音でテーブルの上に叩きつけるように戻す。
「割れますよ、先輩」
「テウ、お前なあ、人の心配してる場合か？」
「俺は先輩が好きなんで」

痛いところを突かれた先輩は、ぐっと息を呑んで俺を睨む。
「先輩、迷惑したでしょう。署長に呼び出されたらしいですね」
「確かにな。それでも戒告もない。何しろ規制線を敷く前だったし、証拠も証人も残ってないんだ。
以前も行方不明になった女性がもう一度行方不明になった。警官の目の前だから事件性もなかった。
自分の意志で身を隠してると思われてる。ただお前がこんなにユ・ウンスを引きずるとは予想外だった」

先輩の声に思わず笑ってしまう。そして話を誤魔化すように、テーブルの上のナクチに箸を伸ばす。
誰より俺が予想外だった。自分の事だっていうのに。
犯罪者の心理を読むのも仕事のうちだっていうのに。
自分の心すら読めずに、人の心が読めるわけがない。

人生初の挫折感ってやつだ。
お前に逢ってから、俺の人生は随分変わったよ。
それが良いのか悪いのかは判らないけど確実に。
どれだけIQが高くても、すごいわねってお前が褒めてくれないならあんまり意味がない気がするし。
射撃訓練でハイスコアを連発しても、お前の前で自慢できないならそれはただの印刷数値になるし。

別に構わないんだ。褒めて欲しいとか自慢したいとか、そういう事じゃない。
そうじゃなく、感情を共有したい相手の不在という喪失感が問題だ。
ああ、小難しい言い回しなんてこの際どうでも良いよ。
ただお前がいなくなって、目的すら判らずに、それでも息をしたり心臓が動いたり、そういう生体反応が鬱陶しいんだ。

でもだからって、それ以上の事は考えない。
勿論だ。俺は生きて行かなければならない。
だってお前にも、そして先に逝ったヒョナにも、残す家族にも。
それにこうやって忙しいのに時間を作っては、声を掛けてくれる先輩にも申し訳ないだろう。
ただ、長いんだよなあ。

「先輩」
「何だよ」
「韓国男性の平均寿命って」
「心配するな、男の平均寿命はよっぽどのことがなきゃ、女よりもずっと短い。韓国だけじゃなく、それが世界の常識だ」
「ああ･･･そうですよね」
先輩の言う通りだ。WHOの発表する厳然たる調査、その平均数値が弾き出す結果。
女は強い。そして、男は弱い。同じ国、同じ環境、同じ状況下で同じレベルの医療を受けてそれなんだから。
それがこの世の概念で、俺に残された唯一の希望の気がするんだ。

そんな事を酔った頭の隅でぼんやりと考えながら、クリスマスとは縁遠い煤けた居酒屋の片隅、俺は先輩の焼酎のグラスを満たす。

ウンスが現代でのウンスでなく高麗時代のヨンの想い人と考えれば、やっぱり現代の
ソウルにウンスの生まれ変わりがいてテウが幸せになっても良いですよね。
若い…高校生じゃ若すぎるかな？女子大生だけど苦学生？変わったバイトしてるなとで
またてうが関わる事件で会った女性とのHAPPY　ENDはいかがですか?テウこそ幸せに
なって欲しい！さらんさんオリジナルキャラだからこそ！！（tetete22251さま）

このお話は以前の【 輪廻 】(クリックで飛べます）の続編です。

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