【 胸の蝶 】
秋霖の軒の雨宿り、互いの間に二尋の距離。
俺の為に生きる事などない。
俺があの弟以外の誰の為にも生きぬように。
俺に気を配る必要などない。
俺が二尋の向こうの気配を気にせぬように。
違う親に生まれ違う土地に育ち、違う世を見て生きて来た。
互いの間は二尋の距離、共に語りあう思い出すらない。
「ヒド兄様」
オラボニと呼ばれる覚えもなければ価値もない。
それでも灰色の景色の中で耳を打つ声は温かい。
互いに横に一歩寄れば済むのに、決してその距離は詰めぬ。
互いに知っている。無理に寄る事も寄られる事も出来ぬと。
互いに判っている。声に振り向けば全てが変わってしまう。
だから互いに正面を向いたまま、二尋の距離の向こうから此方へ腕が伸びて来る。
秋霖の煙雨に冷えた指先を、握り返してやる事は出来ない。
そしてその指の持ち主も、そんな事は百も承知の筈なのだ。
吹く風に舞い上がり、横様に頬を濡らす頼りない雨。
今日の開京の日暮れは早い。
燈籠すら持たぬ外郭の道、周囲には店の一軒もない。
女の足、足元の泥濘、これ以上の帰途はもう無理か。
せめて出立のあの時、馬の一頭も借りるべきだった。
俺の舌打ちに何を勘違いしたか、横の女は済まなそうに雨の中に白い息を吐いた。
*****
「ヒド」
訪ねて来るのも突然なら、その声も唐突だ。
手裏房の奥屋、私室の扉前。
足音も立てず現れた弟は、羽織った雨外套に浮かぶ細かな煙雨の粒を手で払いながら言った。
「話せるか」
「何だ」
余計な声を持たぬのは、互いに隊長仕込み。
話す事など考えるな。戦場で手を明かすようなものだ。相手の動きで肚を読め、敵であろうと味方であろうと。
そう教えて頂きながら生きて来た。
「仁徳宮の件だ」
「・・・仁徳宮」
耳慣れぬ名に声を詰まらせる俺を苦笑と共に眺め、弟の気安さで部屋内へと入ったヨンは、部屋隅の床へ尻を落とした。
「遍照が居る宮」
「何があった」
自覚なき内功遣いが何か仕出かしたかと、内心肝を冷やす。
王や他の奴はともかく、皇宮にはヨンと女人、そしてテマンがいる。
その者らに仇なすなら、誰が手を下すよりも先に顔を繋いだ俺が下さねばならん。
この肚裡を見透かす弟は首を振り、俺を安堵させるように軽口を叩いてみせる。
互いに倖せで若かった、赤月隊のあの頃のように。
「慌てるなよ、ヒョン」
「何があったんだ、ヨンア」
「女が欲しい」
「・・・何だと?」
「女」
幾ら何でも軽口が過ぎる。笑えぬ冗談に思いきり顔を顰めると、弟が気付いたように黒い双眸を瞠る。

ヒドの恋
シンドンの事を調べる為に、利用していた女性との恋
その女性は以前ヒドが殺した人物の身内
とか
利用したことに負い目を感じるヒド
とか
でもその女性はどんな障害があろうとも、ヒドをとても愛し護ろうとしてくれ、
性格がウンスによく似ていて、ヨンが心配する
とか、
いかがでしょうか?
最後は、ウンスとマンボがキューピッド役になり、HappyEndとなったらいいなぁ~♪
(tayさま)
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なんだか 「女が欲しい…」なんて
ドッキリする言い方じゃない
唐突に言われたら
さすがのヒドも ( ̄□ ̄;)!!
だわ~
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ヒドさんがーーっ
すみません さらんさん
ヒドさんには幸せになって欲しい……欲しい…けど
永遠のにいちゃんが……兄ちゃんが
んぎゃー 何故に複雑
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さらんさん、こんばんは♪
いつもさらんさんWORLDに、何度も心震え癒されPowerをいただいております。
そしてとうとう、この日がやって来たぁ~っ♪と興奮しておりますヾ(o≧∀≦o)ノ゙
いつも読み専で申し訳ない私のリクエストに応えてくださって、本当にありがとうございます♪
更新通知メールがきた時には、嬉しすぎてドキドキして…。そして、タイトル「胸の蝶」が目に飛び込んできた時には、心にズド~ンと突き刺さってきました。
開京の暗い夜、秋霖の煙雨、二尋の距離の二人。
映像が目に浮かんできて、ドキドキしております。ヒドがどうなるのか…楽しみにしてます。これからの数日間、特別なご褒美を貰えるようでいつも以上に幸せな毎日になります。
さらんさん、本当にありがとうございます♪
すっかり寒い毎日ですので、お体に気を付けてくださいませ。