「違うだろ、そんな伸びた奴じゃ硬くて喰えねえよ!」
「犬じゃないんだから、短い奴なんて探せないだろ」
「探せねえ訳ないだろ。見ろよ、旦那を」
シウルとチホは吠え合いながら、足許を覆う竹葉を蹴った。
その近くには小さな山になった、薄皮に包まれた太った筍。
もう十本近くある。これ以上は採る必要もなかろう。
「足裏で探せ」
俺は親根に沿った竹葉の地面を足裏で辿る。
その沓裏に、周囲とは違う小さな盛り上がりを感じた処で
「此処だ」
地を指すとチホとシウルが寄って来る。俺は膝を折って屈み、周囲の竹葉を丁寧に除けて行く。
土や枯れた竹葉が遠慮なく爪の隙間に入り込んで来る。
気にせず掘り進むと、やがて指先に土とは違う固い物が触れる。
まだ頭を出す前の筍の先端が見つかって鋤に持ち替える。
柔らかい土を掘り、最後に筍の白根が見えたら鋤を打ちこんで抉る。
大きな筍は抗いもせず、掘ったばかりの柔らかい土の上に転がった。
いい加減良い頃合いだろう。
あの方の言う通り、初めて尽くしの筍の調理には戸惑う事もある。
早く始めねば、朝から何も喰っていない全員の背と腹が張り付く。
「ヒド」
「医仙、駄目だ!」
竹藪の向こうの奴へ振り返った時、テマンの大きな声がした。
同時にトギが飛びつくように、地に屈んでいたあの方を突いた。
あの方がそのまま地に尻を着く、その姿に向けて考える前に勝手に足が駆け出した。
「如何した!」
あの方を突き飛ばしたトギはまだ怒ったような顔で、あの方に向けて烈しく指を動かしている。
「医仙が、鳥兜を」
テマンがトギの声を代弁するよう言いながら、地に尻を着いたこの方とその横に屈み込むトギを見る。
「大事ないか」
「喰ったわけじゃないから、大丈夫です」
「だって、ヨモギだと思ったんだもの!」
この方は俺にともトギにともテマンにともつかず、言い訳のよう大声で言った。
トギがその顔の前、この方を諭すよう叱るよう顔を顰め、頻りに指を動かす。
「蓬と鳥兜の若葉は似てるって。でも葉の切れ目の数が違うから必ず覚えておくようにって」
テマンはこの方ではなく俺に向け、トギの動かす指の声を伝える。
「食べたら死ぬし、間違えて処方したら患者が死ぬから、医官なら絶対覚えろって」
そして屈み込んだトギはあの方の腕を握って立ち上がらせると、次はテマンへ指を動かす。
「大護軍」
「何だ」
「こっちの筍は、これだけなんですけど」
テマンの指す先にも、十本ほどの筍の山がある。
「トギが、もうそろそろ良いんじゃないかって。医仙も鳥兜に触ったから、みんな手を洗って飯の支度にしようって」
矯めつ眇めつこの方の指先を確かめていたトギも目を上げて、俺の表情を伺った。
「そうしよう」
頷いて答えればあの方を急かすように手を引いて、トギは竹林を進む。
恐らく沢か湧水でもあるのだろう。俺は男らを促し、女人二人の後を追う。
竹林の端まで出れば、雪解け水で切れる程冷たい沢の流れがある。
それぞれ筍掘りで付いた土を洗い流し、思い思いに咽喉を潤し顔を漱ぎ、息を吐いた処であの方が言った。
「こんなにきれいな水があるなら、料理に使いたかったな」
そして確かめるようにトギを振り向くと
「ここのお水、飲んでも大丈夫なのよね?」
その声にトギは太鼓判を押すように頷いた。 この方は残念そうに
「どうせなら、空の桶でも持って来るんだった。そうしたら運んで行けたのに」
落胆したような声に片頬で笑むと沢の畔で立ち上がる。
どうもこの方は、竹の使い方を御存知ないらしい。
手近の竹のなるべく太いものを選び、先刻までのように切れ目を入れて蹴り倒す。
しかし手にした小刀は切り目を入れることは出来ても、節で断つのは難しい。
その時背後から音もなく寄って来たヒドが、手甲を嵌めず剥き出しのままだった手を一閃させる。
長かった竹は、五つ程の筒になって地面に転がった。
素直じゃないんだ。手伝ってやると言えば良いのに。
短くなった筒を拾い上げ、小刀の刃先で適当な穴を開け、沢まで運んで流れへ沈める。
その穴から水が入った処で重みを増した竹を引き上げ、男どもに其々手渡す。
「戻るぞ」
奴らは水の入った竹筒を手に頷いて、広場までの道を戻り始めた。

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